ゴブリンはリッチに協力します5

 しかし冒険者たちがフォダエに襲いかかって作った隙を突いて他の冒険者たちも壁に迫っていた。

 魔法や武器で壁が壊されて冒険者が雪崩れ込みスケルトンたちと衝突する。


「くっ……!」


 人が攻めてくるのが想定よりも早かった。

 本当ならもっと防衛のための準備をしておきたかったのにとフォダエには悔しい思いが広がっていた。


「ご主人様、あちらに!」


 何かを探しているようにキョロキョロとしていたフォダエ。

 それを先に見つけたオルケは壁の外を指差した。


「ウソだろ……」


 ドゥゼアはかなり下がり気味に戦っていた。

 多くのスケルトンの中にあってはゴブリンは目立たず冒険者の隙を狙って短剣を突き刺していた。


 ドゥゼアもオルケの声に反応して壁の外を見る。

 そして背中にゾクリと冷たいものが走った。


 目があった。

 大きな弓を持った大柄、老年の男性冒険者。


 ほとんどの冒険者がスケルトンしか見えていない状況の中で確かにドゥゼアはその冒険者と目があっていたのである。

 嫌な記憶がよみがえる。


 ウルフとの戦いの後ゴブリンを追ってくる冒険者を引きつけた時にドゥゼアをしつこく追跡してきた冒険者であった。

 死を覚悟して必死に逃げてようやく振り切った化け物じみたジジイだった。


「あいつが冒険者たちのリーダーになる」


「なに?」


「私たちに手を出したこと後悔させてやる!」


 フォダエが声に怒りをにじませて魔法を使う。

 ゆっくりと壁の方に向かってくるジジイに向かって巨大な火の玉を放った。


 それを見てジジイは弓に矢をつがえる。

 引き絞る音がドゥゼアにも聞こえてきそうなほど弓を大きく引いて手を放した。


「シ、シールド!」


 火の玉をかき消し、それでも勢いをほとんど失わない矢がフォダエに向かって飛んできた。

 慌てて魔法でガードしたが矢は魔法のシールドを突き破ってようやく止まった。


「ドゥゼア、大丈夫?」


 珍しくドゥゼアの顔色が悪い。

 それに気づいたレビスが声をかけた。


「こりゃヤバいな……」


 逃げときゃよかった。

 まるでゴブリンと差し違えることすらいとわなそうな殺気立った目を見てドゥゼアは恐怖すら感じていた。


 ジジイがゴブリンを嫌悪していることは間違いない。

 理由は知らないがひどく恨みを抱いている。


 そしてもう1つ、ジジイが相当手練れの冒険者であることも間違いない。

 魔法を弓矢なんかで打ち消して見せることもそうであるし、他にも強そうな冒険者がいる中でリーダーであるなら高い実力と信頼があるはずだ。


 他の冒険者にだって勝てる気がしないのにジジイには到底敵いやしない。

 逃げることを考えてコイチャの方を見た。


 けれどコイチャはスケルトンたちと一緒になって冒険者と戦っている。

 有象無象のスケルトンたちと比べると一歩剣の扱いに抜きん出ていて冒険者たちも圧倒している。


 未だにコイチャとしての意思はなさそうで連れて行くことなどとてもできない。

 ピュアンの望み通りに倒されるだけならこのまま放置していてもよさそうなのだけど本当にそれでいいのかと考えてしまう。


「はああああっ!」


 今度は氷をフォダエが放つ。

 ジジイは弓を投げ捨てると剣を抜いた。


「うわぁ……」


 氷を切り裂きジジイがさらに前に進む。


「あいつを狙え!」


 とうとうジジイが壁の中に入ってきた。

 指示されたスケルトンたちがワッとジジイに襲いかかる。


「どうする?」


「俺たちは俺たちにできることをしよう」


 こうなっては逃げるのも難しい。

 下手に逃げて後ろから追いかけられるよりフォダエたちを支援した方が勝率はあるとドゥゼアは考えた。


 未だにドゥゼアたちへの警戒はジジイを除いて薄い。

 その隙をついて1人でも冒険者を減らすことがひいては自分たちのためになる。

 

 ジジイの方を警戒しながらもドゥゼアたちは他の冒険者たちを狙う。


『なんでこんなところにワーウルフがいるんだよ』


 ユリディカも冒険者と戦っていた。

 チクートを装備して双剣使いの冒険者と対等に渡り合っている。


 出会った時には戦い方もよく分かっていなかったがコイチャとの特訓の成果でユリディカもそれなりに戦うことに慣れてきた。


『しかもなんか付けてやがる……ただのワーウルフじゃないな。

 リッチの手下か?』


 双剣使いの冒険者はユリディカの爪を巧みに剣で防ぐ。

 ユリディカも弱くはないのだが冒険者も負けてはいない、


『しかもなんなんだよ、傷がすぐ治りやがる……』


 しかしやはり有利なのは双剣使いの冒険者の方だった。

 ユリディカの体は何回か剣が届いているものの、癒しの能力によってすぐに回復してしまっていた。


 体力で見ればユリディカの方が多い。

 戦いの時間が長なるにつれて有利になるのはユリディカである。


『グッ!

 ……余力残してる場合じゃないな』


 まだまだスケルトンはたくさんいる。

 倒さねばならない相手は多いので消耗は避けたかった。


 けれど武器を身につけ不思議な能力を見せつけるユリディカを前に双剣使いの冒険者は考えを改めた。

 浅く腹が爪で切り裂かれて、まずは目の前のワーウルフを倒してからだと集中力を高める。

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