ゴブリンはリッチに協力します2

「仲良さそうだな」


「……そうですね」


 やや複雑そうなピュアン。

 コイチャが連れて行かれたと聞いたときにはどんな悪人がと憤ったものであるがいざ会ってみると悪い人でもなさそうで困惑している。


「改めて聞くが人間に狙われてるんだって?」


「そうなのよ。

 なんだっていきなり……私は人を襲わないし争いにならないようにわざわざこんな人里離れたジメジメしたところに来たってのにさ……」


「逃げるつもりはないのか?」


「それも考えたわよ。

 でも色々あるの。


 せっかく家も建てたし実験だって簡単に動かせるものじゃない。

 次の家だって探さなきゃならないし……」


 家まで作ってそれを捨てて逃げる決断をするのは楽なことじゃない。

 ようやく見つけた安住の土地なのでいられるのならその方がいい。


 魔物はある程度の線を越えたときに逃げるか、戦うかのどちらかになる。

 どちらかで決断を下すのだ。


 しかしフォダエは決断を下せなかった。

 なし崩し的に戦い、引くべきラインを見失っていた。


 今でも戦おうとしているが戦うべきなのか迷っている。


「どうして狙われるのか心当たりは?」


「そんなものないわよ。

 これまで私たちのことは絶対にバレていなかったはずなのにいきなりきたのよ」


「まあ何にしてもだ。

 コイチャを返してほしいってのが俺たちの願いなんだが……」


「ダメよ」


「ご主人様……」


「何よ?

 あなたのためでもあるじゃない」


「ですけどぉ……」


「今はスケルトン1体でも戦力が必要なの。

 前回はなんとか追い返したけれど今度は向こうだって万全の準備をしてくるはずよ。


 負けたら私たちは倒されるだけ……」


「ならここから逃げればいいじゃないですか」


「せっかく家まで建てたんだよ!

 その前だって色んなところをふらふらとさまよってようやく落ち着ける場所見つけたんだよ!」


 一転して険悪な雰囲気が流れ始める。


「他の魔物だって私たちには良い顔しない!

 人だって受け入れてはくれない!


 私は平穏に暮らしたいだけ!

 それのどこがいけないっていうの!」


「それが悪いなんて言いません。

 ですが私はどこだっていい……落ち着いて暮らせるなら家が無くたって、たとえ洞窟の穴だって!


 ご主人様こそこんな場所に固執してどうしたんですか!

 戦いたくないのはご主人様だって同じだと思ってました……」


 なんでもいいけれどコイチャを返してよそでケンカしてくれとドゥゼアはため息をついた。


「もう知りません!」


 ドゥゼアがどう声をかければいいか悩んでいるとオルケが部屋を出ていってしまった。


「あの分からずや!」


「……追いかけなくていいのか?」


「スケルトン付けてあるから大丈夫よ」


 フォダエは苛立たしそうにテーブルを殴って椅子に座る。


「本当に家があるだけなのか?

 ここに執着する理由があるんじゃないか?」


 どうにも家があったり、ここしか場所がないからという理由でここに固執しているようには思えなかった。

 何かここを離れられない理由でもあるんじゃないかと考えた。


「……家も得て安定した。

 だからここで研究もしていたの」


「なんの研究だ?」


「死ぬための研究よ」


「なんだと?」


「私たちアンデッドは死なない。

 言い換えれば死ねないの」


 実際死にはする。

 人に討伐されてしまうこともあるので倒されればアンデッドといえど終わりを迎える。


 けれどそうした外的要因がなければアンデッドは存在し続けることになる。


「私はリッチになった時は望んでなったけどこうして永遠に生きたいとは思わなかった。

 そしてオルケは……私のわがままで付き合わせてしまっているの」


 複雑な事情がありそうだ。


「でも本能でしょうね。

 自殺なんてできないの。


 てもだからってどうする……人の前に姿を現して倒してもらう?

 手柄にされて、魔石なんか取られて、そこらへんに放置される……そんなの嫌よ。


 だから私はもう一度生の肉体に戻れないかの実験や研究をしていたのよ。

 もう一度生物として生きて、そして死んでいく……自然の摂理に則るの」


 永遠は素晴らしいのかもしれないけれどフォダエはそれを望んでいなかった。

 生きて、生きて生きて、そして死んでいく。


 儚くも美しい。

 そんな一瞬のきらめきのような生こそが生きるということなのだと考えた。


 死ぬために生物としての体を手に入れる方法を研究していた。

 人に狙われない環境を整えて家を建て研究を始めた。


「もうすぐ……もうすぐ完成する予定なの」


 フォダエの研究も佳境を迎えていた。

 うまくいけばリッチであるフォダエもスケルトンであるオルケもまた肉体を手に入れられる。


 そうすれば後は人生をのんびり生きていけばやがて肉体的な死によって解放される。

 だからここまできた研究の成果を置いてこの場所を離れられなかった。


「オルケにはそれを?」


「言っていないわ。

 変に期待を持たせたくないもの」


「でも伝えるべきじゃないのか」


「……そうかもしれない」


 このケンカは互いに意思の疎通が取れていないことが原因である。

 フォダエが抱える理由をオルケは知らない。


 だからフォダエの行動が非常に不自然で理解のできないものとなっているのだ。

 ならば取るべき行動は簡単。


 ちゃんと説明すればいい。

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