ゴブリンはカエルの商人に出会いました3

「ゲ、ゲコォ!?」


 鋭い鉤爪がゲコットの首に突きつけられた。

 ドゥゼアはゲコットが商品を取り出して並べている間にユリディカに指示を出していた。


 折を見てゲコットの後ろに回り込めと。

 他の魔物を信頼してはいけないのは当然で、それが商人ならより信頼などできない。


 商品そのもの自体は質が悪くないがどうにも目つきが信頼できないので先手を打たせてもらった。


「ななな、何が望みゲコ?」


 失敗したとゲコットは思った。

 真後ろに付かれては逃げられない。


 ゴブリン相手ならともかくなぜか一緒にいるワーウルフの方はゲコットでも油断できない。

 このまま商品でも持ち逃げされてしまうことも心の中で覚悟する。


 それで命が助かるなら商品ぐらい諦める。

 命あってこそだからだ。


「分かるだろ?

 適正価格での取引だ」


 ここまで上手くいったのなら脅しかけて商品を強奪することだって頭をよぎらないわけじゃない。

 けれど強奪なんて行為は卑怯な悪人がすることでドゥゼアの中にあるちっぽけなプライドがそれを許さなかった。


 最低限ぼったくりな取引でなければ構わない。

 多少高く見積もられることは許容するけれど必要以上に高くお金を取ることは許さない。


 人のような対等な取引をドゥゼアは望んだのである。


「ゲ……ゲコ」


 ゲコットは大きくうなずいた。

 実際ぼったくろうとしていたのだけどそれを見抜かれたようで後ろめたさも感じている。


 適正価格での取引なら望むところである。

 むしろそれでいいなら大歓迎。


「もしかしたらまた縁があるかもしれないからな」


 こんなゴブリンと商売してくれるのは魔人商人ぐらいしかない。

 強奪なんてして今後の関係を崩すのは長期的に見てためにならない。


 油断ならない相手だということを伝えつつゲコットに損はさせない。

 対等なな取引相手であることもこれで認識したはずだ。


「ま、毎度ありゲコ」


 こんなやり方しかなかったのはしょうがない。

 適正価格での取引といいながらも少し料金は上乗せしてやる。


「魔人商人はここらに他にもいるのか?」


「基本的にはあまり商圏は被らせないゲコ。

 情報を共有するために多少被らせる地域もあるけどここらでは俺だけゲコね」


「そうか……」


「ゲロゲロ……俺の客になりたいゲコか?」


「方法があるのか?」


「クモと一緒にいるゲコね?」


「そうだ」


「ちょ……ドゥゼア殿ー!

 食べられてしまうである!」


 レビスの後ろに隠れていたバイジェルンを見抜いていたゲコット。

 バイジェルンは小型の虫種の魔物なので大きなカエルのゲコットにとってはエサとなってしまう。


「ゲロゲロゲロ、食べないゲコよ」


 大慌てのバイジェルンにゲコットは大笑いする。


「昔は食べてたゲコ。

 でも今は食べてないし食べない代わりに協力しているゲコ」


「なに?」


「このゲコットと商売したいならクモを通じて呼んでくれればいいゲコ。

 少しゆっくりだけどそこまで行くゲコ。


 クモの女王の知り合いなら割引もするんだゲコ……」


「アラクネか?」


「ゲコォーーーー!?」


 再び大驚きのゲコットの舌がビロンと広がって落ちてきてドゥゼアは思わず避ける。

 ドゥゼアがアラクネからもらったアラクネの証であるクモの糸玉を見せたのだ。


 アラクネからの信頼の証であり、その大きさで信頼度の強さも表している。

 ゲコットも持っているのだけどそれは指先ほどの小ささで手のひら大の玉のドゥゼアのものとは比べ物にならない。


 アラクネの女王、しかも玉は大きいので強い力を持っているアラクネから信頼を得ている。

 とんでもない相手からぼったくろうとしてしまっていたとようやく気がついた。


「い、一体何者ゲコ……」


 商人として己を恥じる。

 ドゥゼアのことを完全に見誤っていて舐めた態度を取っていた。


 こんなことなら割引でもしておけばよかった。


「そんなことはどうでもいい。

 これを見せれば割引になるのか?」


「そ、そうでございますゲコ!」


「もうお前の本性は分かってるから今更かしこまるな」


「ぐっ……ゲコ……」


 完全に失敗した。

 これは強奪や無理な値引きを要求せずに対等な取引を望んだところもミソである。


 義理や恩義は商人にとって大切。

 どうせもう会うこともないとお互いに思っていたけれど上手くいけばまだ縁は繋がりそう。


 そうなるとゲコットは完全に1つも2つもドゥゼアに借りが出来たようなものになる。

 強力なアラクネの後ろ盾があるので何事もなかったようにもいかない。


 取引も終わってお金もやり取りしたので今から割引もできない。


「こ、こちらが俺の証ゲコ……商業ギルドで魔人商人は保護してくれて、登録もしてくれているゲコ。

 他の魔人商人もこれがあればお客様を軽く見ることはないと思うゲコ」


 カエルのような絵をかたどったメダルをゲコットはドゥゼアに渡した。

 物珍しさも魔人商人の武器である。


 そのために商売する地域をあまり被らないように活動しているのだけどそれでも魔人商人同士の横の繋がりはある。

 1人の魔人商人に認められれば他の魔人商人も態度をなんかさせてくれる。


 あまり自分の証はホイホイ渡すものじゃないが今回はお詫びの意味も込めてドゥゼアに渡した。

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