ゴブリンはワーウルフに感心しました3

「ふおおおおっ!


 なんかすごい強そう!」


 嬉しそうに腕と尻尾をブンブンと振っているユリディカ。

 腕の半ばまで手甲のようにもなっているので防御にも使えそうで確かに強そうだ。


 鼻息荒くユリディカは興奮している。

 しょんぼりしているよりこちらの方がユリディカらしくていいとドゥゼアは思う。


「ん?」


 古代遺跡全体が揺れてパラパラと天井から細かな石が落ちてきた。

 一瞬崩壊でもするんじゃないかと不安になったけれどそうじゃなかった。


 最後の部屋に続く引かなきゃ罠が発動する扉が急に勝手に閉まった。


『だーかーらー、言ったろ?


 昔ここに来たことある先輩がいて、隠し通路について教えてくれたんだよ』


 何事かと思っていると声が聞こえてきた。

 魔物でなく人の言葉。


 遠く、小さく聞こえてくるがなんだか近づいてきているような感じがする。


『おい、そっちはダメだ!


 そこは罠なんだよ。


 ええと……ここらへんに。

 あったあった!』


 何かが動く音が聞こえてきた。


『ほら!


 ここから先も罠があるらしいから自分たちで見つけなきゃいけないけどな』


 声がかなりハッキリと聞こえてくるようになった。

 ヤバい!と思って周りを見るけれど隠れられそうな場所もない。


「ドゥゼア」


「どーする?」


 レビスとユリディカがドゥゼアを見る。

 一瞬でドゥゼアは思考を巡らせる。


 まず考えたのは奥の部屋に逃げ込んでしまうこと。

 引かなきゃ開けられない扉の罠は気づけなきゃ意外と簡単に引っかかってしまう。


 像がまだ動くかは不明であるけれどこの声の正体が罠に引っかかって像が動いてくれれば奥の部屋に隠れているだけで問題は解決する。

 しかし聞こえてきた声の感じではこの部屋にも罠があることは分かっているようだ。


 もし仮に扉の罠に引っかからないでそこらをうろつかれると面倒なことになる。

 手元に残っている食料は少ないのであんまり粘られると辛い。


「ドゥゼア、私戦いたい。


 あと……あそこには誰も入ってほしくない」


「ユリディカ……」


 やる気に満ち溢れているユリディカは自分の力を試してみたくてたまらなかった。

 そして奥の女神像があった部屋に勝手に入ってほしくないとユリディカは思っていた。


 遊び半分で行っていい場所じゃない。

 もう女神像はないけれど、なんとなくその場所を踏みにじられるのが許せなかった。

 

 このままでは爆発してしまいそうな気持ちを宿したユリディカの目を見てドゥゼアは決断を下した。


「奇襲を仕掛けよう」


 像が襲いかかってくる罠も動くかは分からない。

 罠が発動しなければそのまま調べられて奥の部屋に追い詰められてしまうかもしれない。


 相手は魔物がいるだなんて思っていない。

 油断しているはずなので奇襲を仕掛けてみることにした。


 角で待ち伏せする。

 ドゥゼア、それとレビスとユリディカで分かれてそれぞれ角で声の主を待つ。


『未だにここを攻略した人はいないらしい。


 つまりなんか絶対お宝あるって!』


 声が近づいてくる。

 ドゥゼアたちがいると思っていないから声のボリュームはデカくて警戒心はない。


 足音も聞こえてきて、ドゥゼアは奇襲のタイミングを待つ。

 集中して構えていると足の先が部屋に入ってくるのが見えた。


 ドゥゼアは一瞬待って動き出す。

 狙うのは先頭ではなくその一つ後ろの2番目の人。


 先頭の人は大体警戒を強く持っている。

 その分奇襲は難しい。


 だからあえてタイミングをズラして2番目を狙う。


『危ない!』


 しかし先頭の軽装の盗賊っぽい冒険者がドゥゼアの奇襲に気がついてしまった。

 ナイフを抜いてドゥゼアの短剣を受け止める。


『ゴブリン!?』


『なんでこんなところに……グフっ……えっ?』


 冒険者たちの視線が一気にドゥゼアに集まる。

 こんなところにどうしてゴブリンがいるのか驚いた瞬間2番目にいた戦士っぽい冒険者の胸から槍が飛び出してきた。


 逆側で待機していたレビスの槍が戦士っぽい冒険者の胸を貫いたのだ。


『な、なんなの……うわっ!』


 ユリディカはレビスの後ろから飛び出して3番目にいた魔法使いっぽい冒険者に襲いかかった。

 鉤爪と化した杖を振るう。


 深々と魔法使いっぽい冒険者の胸が切り裂かれて血を吹き出しながら倒れる。


『くそっ……こんなの聞いてないぞ!』


『いいから戦え!


 ただがゴブリンとワーウルフだ!』


 冒険者の数は4人。

 うち2人が倒れた。


 しかし冒険者もただやられるわけじゃない。

 一番後ろにいた戦士っぽい冒険者と先頭の盗賊っぽい冒険者がすぐに持ち直して戦い始める。


 仲間の心配よりもドゥゼアたちを倒すことを優先させた。


『このゴブリンのクセに!』


 盗賊っぽい冒険者がドゥゼアに切りかかる。

 ドゥゼアは短剣を操ってナイフを防ぐけれどそれでいっぱいいっぱいである。


『な、なんだこいつら!


 なんでゴブリンとワーウルフが協力して……しかも強い!』


 一方で戦士っぽい冒険者はレビスとユリディカに苦戦を強いられていた。

 そもそもゴブリンとワーウルフが一緒にいて協力して戦ってくるなんてことも聞いたことがない話で動揺が隠せていない。

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