女神はワーウルフに目をつけました1

 レビスが開いた扉の先に進む。

 一体何を隠したかったのか一向に謎のままである。


 次に着いたのは真っ白な円柱形の部屋だった。

 そんなに広くもないが天井が高くて開放感がある。


「また女神像か」


 部屋の真ん中には罠がある隠し部屋に入る前にあった女神像と似たような像があった。

 ただこちらの像は祈るような体勢ではなく杖を大切そうに抱えている。


 そして女神像の周りには女神像を守るように4体の騎士の像もある。

 先ほどの部屋では1体でも辛かったのに4体となると勝てるはずもない。


 これまでの傾向なら隠し扉でもあるのだけどなんとなくここが終わりなのではないかという気がドゥゼアにはしていた。

 しかし何があるのか分からないから部屋に入るのははばかられた。


 よく見ると部屋の端に冒険者の遺体や荷物も転がっている。

 守ろうとしていたお宝はあの杖だろうかとドゥゼアは観察した。


 どうにも部屋に入る勇気が出なくてちょっと顔を出して覗き込むに留まる。

 罠を乗り越えられるのか、乗り越えた先にその価値があるものが手に入るのか。


 なんの情報もない中で利益と危険を天秤にかけねばならない。

 ここまで頑張ってきたけど引き返す、というのも1つの選択肢である。


 不透明なリスクが大きすぎる。

 ゴブリンとワーウルフで良くここまで来たものだ。


「引き返そう……危なすぎる」


「ドゥゼア…………あれ」


「あれ?」


 大事なのは命。

 ここは諦めようとドゥゼアが決めてレビスとユリディカの方を振り向いた。


 しかしユリディカはドゥゼアではなくその向こう、女神像の方を見ていた。

 焦ってドゥゼアが女神像を見ると女神像が動いていた。


 左手がドゥゼアたちの方に向かって伸びている。


「逃げる……」


「な、なに!?


 ぎゃああああ!」


 まだ部屋にも入っていないのに。

 妙な気配を感じて逃げ出そうとした。


 しかしドゥゼアが声を出すよりも早くユリディカが突然部屋の中に飛び込んでいった。

 ユリディカの意志ではない。


 強い力で引き寄せられている。

 抗いようもなく、一直線に女神像の下にまでユリディカは飛んでいった。


「ユリディカ!」


 こうなったらユリディカを無視して逃げるわけにはいかない。

 ドゥゼアとレビスは部屋に飛び込んで女神像に向かう。


「くっ!」


 その瞬間女神像の周りの騎士も動き出して剣を抜いてドゥゼアとレビスが女神像のところに行けないように行く手を阻んだ。


「ユリディカ!」


 まるで女神像に抱きかかえられるようにユリディカは女神像の胸元に引き寄せられていた。

 ドゥゼアが声をかけても何も聞こえないようで少しうつろな目で女神像を見つめているユリディカはどう見ても普通じゃない。


「くそっ、どけ!」


 ドゥゼアが騎士の像に切りかかる。

 騎士の像はそんなドゥゼアの攻撃をいとも簡単に受けてみせる。


「うっ!」


 その隙をついてレビスがすり抜けていこうとしたけれど騎士の像はそれを容易く看破する。

 相手は4体もいるのだ、数的にも不利である。


「攻撃してこないのか?」


 ただドゥゼアは違和感を覚えた。

 騎士の像はその場を動かない。


 ただ剣を持ち、ドゥゼアたちを邪魔するだけで向こうから切りかかってくることがない。

 攻撃に対する反応も防御するだけで反撃まではしてこない。


 ただ女神像を守っているだけのようだ。


「……何が目的なんだ!」


 ーーーーー


 強い力で女神像に引き寄せられて女神像の腕に抱かれた。

 石で作られた女神像のはずなのに体に当たっても硬さを感じず、むしろなぜか温かさすら覚えた。


 女神像の顔が少し動いてユリディカの目を見つめた瞬間、体が軽くなるような感覚と共に世界が真っ白になった。


「ここは……?」


 町中。

 人々が行き交う大きな通りの真ん中にユリディカは立っていた。


「ええっ!?」


 慌てて周りを見回し、自分の姿を確認する。

 ユリディカはワーウルフであるのに周りの人々はユリディカが見えていないかのように素通りしていく。


 冒険者でも飛んできて倒されるのでないかとビクビクしていたがなんの変化もなくて少しずつ落ち着いてきた。

 気分に余裕が出てくると周りも見えてくる。


 石造の建物が立ち並び、人々の服装は今時あまり見ない簡素なものだった。

 しかし道行く人はどの人も穏やかで幸せな雰囲気があった。


「なに……これは、なに?」


 別に平和なことはいいのだけど状況が分からない。


「えっ……キャア!」


 ユリディカが困惑していると突如として体が強い力で引っ張られた。

 踏ん張ることもできなくてものすごい速さで景色が流れていく。


 引き寄せられる先は町の中心。

 大きな神殿のようなものが見えて、それに向かっていっている。


 しかし神殿が近づいても速度は落ちなくてぶつかると思ってユリディカは身構えた。


「ええええっ!?」


 壁に衝突する!

 と思ったらそのままユリディカは壁をすり抜けた。


 想像していなかった展開に呆然としていると速度が緩やかになった。

 神殿の中は祈る人たちがいて、その先には女神像があった。


 そのまま女神像の前にユリディカは立った。

 杖を持っていない方の祈るような姿の女神像は地下で見たものよりも白くて綺麗だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る