ゴブリンは古代遺跡を探索します5

 けれどもそれだけとは思えない。

 こんなところまで来てただ像と戦わせるだけなはずがなくどこかに戦わずして抜けられる道があるはずだ。


 ドゥゼアはまだ割と綺麗だった小さめの盾を拾い上げて装備した。

 レビスとユリディカには少し下がってもらい、慎重に像に近づく。


 像の前まで来たけれど像に動く気配はない。

 推測するに罠のトリガーはきっとあの像が守る扉に違いないとドゥゼアは思っている。


 グルリと像の周りを一周して何かないかと探してみる。

 しかし像そのものには何もなく、ドゥゼアは扉に向かう。


 人としてもやや大きめな扉で取手もない。

 そっと手をかけてちょっと力をかけてみると扉がわずかに動く。


 思っていたよりも簡単に押して開けそうな雰囲気がある。

 ただ扉の周辺にも何もない。


 扉があるだけで他のスイッチなども見つけられない。


「クンクン……クンクンクン」


 仕方ないのでユリディカを召喚。

 ドゥゼアに分からない何かを見つけられる可能性があるからだ。


 ユリディカは鼻をひくひくさせてニオイを嗅いでいる。

 目をつぶって鼻に意識を集中させて他とは違うニオイを探そうとする。


 先ほどもそうだけど大掛かりな機関があると思われる。

 それならまた動きを潤滑にするための油のニオイなんかがあってもおかしくない。


「クンクン……これは……また油のニオイかな?」


 油のニオイを感じたユリディカがふらふらと歩き始める。


「おい、そっちは……」


「ひょ、きゃっ!」


 けれど歩き出した方向は扉の方。

 目をつぶってニオイに集中して歩くユリディカはいかにも危なっかしいとドゥゼアが止めようとしたら足元にあった冒険者の骨にユリディカがつまずいた。


 目をつぶっていたから足元が疎かになっていた。

 思い切り転んだユリディカは地面を転がって、扉に激突した。


「あー……」


「いったーい……」


 やっちまったとドゥゼアは妙に冷静な気分でその様子を見ていた。

 扉の真ん中にぶつかったユリディカだったのだけど扉は少しだけ押されてそこで止まった。


「あー」


 入ってきた入り口に鉄格子が降りてきた。

 そしてカラカラと音が聞こえたと思ったら像が動き出した。


 壊されている方もカクカクと動いているが壊れているためかちゃんと動作していない。

 問題は壊れていない方。


 剣を抜いて、ドゥゼアたちの方を振り向いた。


「くそっ!


 お前ら下がれ!」


 短剣を抜いてドゥゼアは前に出る。

 像から急激に魔力が感じられるようになった。


 単に機械仕掛けの像ではなく魔力によって動かされているのだ。

 ゆっくりと緩慢だった動きが滑らかで素早いものへと変わっていく。


 像はドゥゼアの前まで走ってくると剣を振り下ろした。

 空気を切り裂く一撃をドゥゼアは間一髪かわした。


 速い。


 1発でもアウトな力強さがある。

 冒険者でも防げずにやられたのだからゴブリンのドゥゼアでは到底受けきれないことは分かりきっている。


 まだ動きが鈍いうちにとドゥゼアが短剣を突き出した。


「ダメか……」


 期待していたわけではないがドゥゼアの短剣は像を浅く傷つけただけに終わった。


「うっ!」


 像の剣が顔をかすめてドゥゼアは思わず声を出す。

 さらに動きがスムーズになって危険度が増してきている。


「わわわわっ!」


 明らかに自分のせいであるとユリディカが焦る。

 頼られたからといい気になって転んでしまって罠を発動させてしまうなんて笑えない話である。


 逃げ道は鉄格子で塞がれてしまっているしドゥゼアは像の攻撃をギリギリでかわしている。


「どどど、どーしよう!」


 アワアワと焦るユリディカ。


「ユリディカ、落ち着いて」


 ドゥゼアに加勢すべきか、そうすると邪魔になるかと悩むユリディカだけどレビスは冷静だった。

 ここは加勢するよりどうぜ罠が発動してしまったのだから扉を調べるべきだと思った。


 危機的な状況ほど冷静にならねばならない。

 ドゥゼアを助けるためにはこの罠を解除する方法を見つけるしかない。


「何かニオイはしない?」


 扉により近づき、像も動き出した。

 違ったニオイはしないかレビスがたずねる。


「そそ、そんなの分かんないよぅ!」


 しかしユリディカは完全に気が動転してしまっている。


「ひゅん!」


「ユリディカ、落ち着いて。


 ドゥゼアを助けるため」


 レビスはユリディカの尻尾を掴んで引っ張る。

 ゾワゾワとする感覚にユリディカが飛び上がる。


「わわ、分かった……ニオイ、クンクン」


 ドゥゼアを助けるため。

 ユリディカは鼻をひくつかせてどうにかヒントはないかとニオイを探す。


「……空気が流れている」


「空気?」


「この扉の向こう、繋がってるよ」


 わずかに開いた扉の向こうから空気が流れている。

 ひんやりとした空気が扉の向こうから来ていることにユリディカは気がついた。


 つまり罠のトリガーとなった扉はただ少し開いて罠を発動させるだけじゃなく向こうに続いているのだ。


「ん〜!」


 続いているならそっちに逃げればいい。

 ユリディカは扉を押してみるけれどそれ以上扉は開かない。


「なんでー!」


 隙間は抜けるにも狭すぎる。

 覗き込んでみると確かに向こう側に通路が続いている。

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