ゴブリンは祝杯をあげました
お祭り騒ぎ。
巨大な蛇肉を食らう。
「んまいな」
例によって蛇肉を焼いていただく。
魔物ってやつは強いほど美味い。
見た目的に嫌がられるような魔物も多いけど人間の冒険者にとって倒した魔物をその場で食べるのは冒険者の特権みたいなものである。
コボルトよりも知能が高くて火も平気な猿はドゥゼアが教えてやれば簡単に肉を焼くことを覚えた。
今回ドゥゼアの働きは大きいので食べたそばから絶え間なく肉が運ばれてくる。
「でもどうやって蛇倒した?」
ドゥゼアの隣で蛇をもぐもぐしているレビスが首を傾げた。
蛇に食べられたはずなのに逆に蛇を倒してしまった。
どうやったのかレビスには分かっていなかった。
「これは実はあの猿に言ってた作戦なんだ」
酔わせて、焚き火で惑わせて倒せるならそれでよかったのだけど必ずしも倒せないこともある。
そうなった時にここで蛇を逃してしまえばもう2度と同じ手段は使えなくなるし、猿に被害は出ているわで不利になってしまう。
致命的な一撃を加える必要がある。
出来れば倒し、そうでなくともここを狙うのを止めて逃げ出してくれるほどの手痛い攻撃をする必要がある。
そこでドゥゼアはこっそり猿リーダーにだけ作戦を教えていた。
蛇の特徴として色々あるけれど食べ物を丸呑みするという特徴もまた蛇にはある。
そして体の中を鍛えられる魔物なんてものはほとんど存在しない。
だから猿リーダーにドゥゼアはこう指示した。
武器を持ったまま無傷で飲み込まれろと。
キツいかもしれないけど意識を保ち、体を動かして武器で体の中を傷つけろ。
外がダメなら内側作戦。
ボス猿に言ったら止められたりボス猿が行くと言いそうだから言わなかった。
ボス猿の体格では大きすぎる。
蛇が飲み込むことは可能だろうけど飲み込まれた後ボス猿が中で身動きを取ることができない。
猿リーダーの体格ならなんとか中でも動ける可能性があるとドゥゼアは踏んでいた。
「だけどあのバカ、剣を手放して食われやがった」
目に剣を刺したのはいいけどちゃんと加減をしきれずに深く刺してしまった。
そのために簡単には抜けなくて蛇に振り回された。
結局剣は抜けなくて空中に投げ出された挙句に食べられてしまった。
あれではただ蛇に美味しくいただかれただけになってしまう。
焦ってドゥゼアは剣を持って蛇の前に出た。
ボス猿を助けたのは猿リーダーの前にボス猿が詰まってしまうともう猿リーダーを助けようがなくなるからだ。
そうして突っ込んだら上手く蛇がドゥゼアを飲み込んでくれた。
ぬるぬるとして締め付けるような蛇の中でドゥゼアは必死に猿リーダーを探した。
そこはかとなく酒臭い蛇の中をなんとかチュルリと進んでいったら猿リーダーがいた。
ドゥゼアは猿リーダーに剣を渡して、ドゥゼアはドゥゼアで短剣を抜いた。
後はひたすらに暴れた。
好き勝手蛇の体内を傷つけ、血に塗れながら蛇がやられるのが先かドゥゼアたちが先かの勝負を仕掛けた。
途中蛇の中の酒臭さに少しだけ酔っ払っていたかもしれない。
傷つけていると蛇が暴れ出して体の中も大きくうねり出した。
隙間ができるような時もあって猿リーダーはその僅かな隙に深く剣を刺したりしていた。
吐き出そうとしていたのか戻されそうになったこともあるけど剣を突き刺したりして抵抗して体の中で暴れ続けた。
ドゥゼアも短剣でザクザクと蛇の中を切っていると上下左右に激しく振られる衝撃があった。
そして猿リーダーが蛇に深々と剣を突き刺して大きく切り裂いた瞬間蛇が大きく揺れて動かなくなった。
念のためまだザクザクしていたけれど全く蛇が反応しなくなった。
なのでドゥゼアたちが蛇から出てみたら倒せていたというわけなのである。
「せめてやるなら言ってほしい」
「あー、そうだな。
それは悪かった」
たしかにレビスやユリディカには言っても良かったかもしれない。
秘密にするということにばかり囚われて正しく判断できていなかった。
「今後はちゃんと言う」
「……なら許す」
「私もゆるふ!」
「おい……酔ってるな?」
ユリディカがドゥゼアに抱きついた。
息が酒臭い。
どうやらよく熟した果物を食べたらしい。
「ドゥゼアは強い!
でも時々1人でなんでもしよーとする。
1人は……寂しいよ。
ドゥゼアは1人じゃないから1人でなんでもしようとしなくていいんだよ」
「……ユリディカ。
そうだな。
俺も今は1人じゃない。
忘れちゃいけないな」
言われた通りだなとドゥゼアは反省した。
ゴブリンになってからというもの仲間は少なかった。
ゴブリンかコボルトぐらいしかいないし中々賢い個体もいない。
さらに賢い個体がドゥゼアと仲間としてつるむような理由もなかった。
久々に仲間が出来たので少しばかりないがしろにしてしまっていたところもあったのかもしれない。
ようやく出来た仲間を大切にしなきゃ。
まあでも今回に限っては相手が強いのも悪い。
しかしこれからはちゃんと情報を共有してレビスとユリディカにも相談していこう。
そう思ったドゥゼアであった。
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