ゴブリンはお猿と対峙する1
猿とアラクネは言ったがそれがどんな猿かも問題である。
猿系の魔物も幅広い。
凶暴で知能の低いものもいれば理性的な種類のものもいる。
アラクネのものを盗むということをしたことから考えると知能は高そう。
バカならアラクネの目をすり抜けてものを盗むことなんて出来ないはずである。
アラクネが隣人として認めているし普段は理性的に動いている。
望ましいのは話し合いでの解決だ。
対話で返してもらえるなら楽な話である。
「だけどアレだよね。
ドゥゼアといるとドキドキの大冒険だね!」
山に向かって歩きながらユリディカは興奮気味な様子である。
命の危機はあるけれどダンジョンの中での退屈な命の危機とは違う。
それを楽しむのも少しおかしな話であるがひりつくような危機の連続、そしてそれを乗り越えることに興奮を覚えていたのである。
ダンジョンの中では味わえない生を実感していた。
「まあこんなことそうそう無いがな」
よくこうした状況を楽しめるものだと思うけど生きていく上で常に思い悩むよりも軽く考えて楽しめる方が強かったりする。
だけどこんなに危ない目に遭うことなんて滅多にない。
というかそもそもこんな目に遭っていたら過去のゴブ生ではもう死んでいた。
「そろそろ山に入ってくる。
少し警戒を……」
「ウキィー!」
警戒を強めよう。
そう言おうとしたところで甲高い声が聞こえてきた。
大きな木の上からグルグルと回転しながら何かが飛び降りてきた。
「ゴブリン、こんなところで何をしているウキ!」
地面に着地し片手を前に突き出すようにポーズを取ったそれは猿であった。
これはなかなかまずいなとドゥゼアは思った。
体格はゴブリンよりも二回りぐらい大きいぐらいでそんなに大柄な種族でもなさそう。
だがこの猿からは強い魔力を感じる。
アラクネのように魔力を抑えて隠す方法を知らないようなのでアラクネよりは弱そうだ。
だけどゴブリンが到底敵わなそうなぐらいの肌がビリつく魔力を猿は持っている。
「用がなければ立ち去るウキ!」
しかし注目すべきは猿の発言である。
コイツは賢い。
流暢に喋ることもそうだけど容易く倒せるゴブリン相手に言葉で警告をしてくれるなんて高い知能がないとやりはしない。
猿たち全体がそうなのかと決めつけられはしないがこの猿には話が通じそうである。
「俺たちはアラクネの使いとしてきた」
「なんだとウキ!」
ここも堂々と、相手の魔力に押されてはいけない。
どうせ何も出来ないのだからアラクネを盾にさせてもらう。
使いというほどの信任も受けていない。
だけど頼まれたことは本当だし後ろにアラクネがいることを匂わせる。
「盗んだものを返してもらいたい。
そうすれば俺たちがアラクネを説得してやる」
アラクネも事態を荒げたいわけではなさそうだった。
盗まれたもの返してもらえればアラクネも怒らないはず。
怒ってたらとっくの昔に攻め入っていた。
「ウキ……それは……それは出来ないウキ!」
「なんでー!」
少し悩んだように見えた。
話しかけたのにと思わずユリディカも口を挟む。
「……それは言えないウキ」
「せめて事情ぐらい聞かせてくれないか?
このままアラクネたちと戦いたいのか?」
「む……それは」
アラクネの話からすると猿よりもアラクネの方が戦力的には上になる。
これだけの賢さがあるなら勝てるだろうなんて楽観視はしないはずだ。
勝てるなら盗まず戦って勝ち取っていたはずでもある。
猿のリアクションを見てもアラクネと争いにはなりたくなさそう。
「事情によってはアラクネも説得できるかもしれない」
「…………少し待ってろウキ!」
ドゥゼアの説得に腕を組んで悩んでいた猿は山の方に消えていった。
「何かありそうだね?」
「そうだな……分かりやすい事情があってくれると助かるんだけどな」
ひとまずいきなり襲われなかっただけ助かったとドゥゼアも胸を撫で下ろす。
まさかまだ山に入る前の麓で見張りがいるなんて思っても見なかった。
大人しくその場に留まって待っていると猿が戻ってきた。
「ウキィ!」
一々ポージングするのはうざったらしいがその身軽さは羨ましい。
「ついてくるウキ」
何かの話し合いでもあったらしい。
おそらく群れのボスにでも聞いてくれたんだと思う。
ドゥゼアたちはサッサと山の方に向かって行ってしまった猿に慌ててついていく。
「見られてるね……」
「怖い……」
山に入っていくと木々の上に猿たちがいた。
向けられる多くの視線にレビスやユリディカが怯える。
ドゥゼアもちょっと怖いけれど怯えた表情を見せたら負けなので堂々背筋を伸ばして猿を追いかける。
ちょっとした心理戦みたいなものだ。
レビスやユリディカはこんな時にでも堂々としているドゥゼアを見て勇気をもらう。
時間をかけて山の頂上まで歩いていった。
これまでは比較的木々が密集している感じであったが頂上は木がまばらで開けたような感じになっていた。
他の猿たちよりも一回りほど大きな猿が座っていて、それが群れのボスであることは一目でわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます