ゴブリンに転生しました3
骨が折れる音。
続いて悲鳴。
すでにナイフを持っているので勝てるだろう。
余裕を見せていたゴブリンの顔が苦痛に歪んで手首が本来曲がらない方に曲がってしまっている。
ドゥゼアは素早くゴブリンに近づくとナイフを持った手を覆うように握って無理矢理曲げてはいけない方に力を加えた。
勢いよく曲げられたゴブリンの手首は容易く折れて手からナイフが滑り落ちる。
膝をついて激痛に悶えるゴブリンを尻目にドゥゼアはナイフを拾い上げる。
切れ味を確かめるのには少々役不足かもしれないがこのナイフの最初の獲物は決まった。
「アガ……ユ、ユルシ……」
謝るくらいなら最初から手など出さねばよかったのだ。
最後まで抵抗してみせて潔く死んだ方が短いゴブ生でもマシな方だったと思える。
次があるならだけど。
情けをかけてやるとしたら苦しませないことぐらいだ。
可愛くもないつぶらな瞳に痛みか、それとも恐怖による涙を浮かべるゴブリンの首を一太刀に刎ね飛ばす。
ナイフの切れ味は悪くない。
ここにあるものの中では1番だと言える。
ゴブリンの頭が転がっていく。
ただライバル視するだけなら気にも止めないでいてやるが害を及ぼすのに許してやるはずがない。
ドゥゼアが振り向くと他のゴブリンたちが一斉に視線を逸らす。
元々食糧争奪戦の絶対的な王者だったドゥゼアに逆らおうとするゴブリンは他にはいない。
「私にも、選んで」
ゴブリン、というか魔物には言葉はない。
いわゆる体系化された言語など存在していないのだけどその代わりに不思議な意思疎通方法が発達している。
思念による意思の疎通とでも言ったらいいのか。
鳴き声に魔力による意思を込めるのである。
それを相手が受け取ると込められた意思によって言いたいことが理解できる。
知能が低かったり込められた意思が弱いとしっかり相手に伝わらない。
このメスゴブリンも最初は意思疎通も取れなかったのにいつの間にか何となくドゥゼアに意思を伝えるようになり、今では他のゴブリンに比べてもかなり流暢になった。
メスゴブリンは相変わらず体格は他のゴブリンより劣るのだけど代わりに知恵を付けた。
ドゥゼアの動きを見て学び、上手く虫を確保するようになっていた。
時々取れないとドゥゼアにお願いに来るのでドゥゼアも虫をあげていたりした。
ベタベタと寄り付かれるのを嫌がっていることを理解してドゥゼアの側にいつつも不快にならない距離感や接し方をしていた。
なのでドゥゼアもメスゴブリンを特に遠ざけることもなかった。
近づいてきたのでどうしたのかと思えばドゥゼアに武器を選んでほしいという。
単に甘えているのではない。
いきなり武器を目の前にしても何が良いかなどわからない。
けれどドゥゼアは何か的確なビジョンを持って武器を選んでいる。
自分で選ぶよりもドゥゼアに選んでもらった方が確実であるとメスゴブリンは判断したのだ。
生存戦略として正しい。
邪魔なゴブリンを片付けて気分もいいのでメスゴブリンの武器を選んでやることにした。
メスゴブリンも体格が良くないので大きな武器は扱えない。
ナイフか、体格の悪さをカバーできるように多少リーチがありながらも取り回しがしやすい短い槍などがいいかもしれない。
武器を見ていく。
あとはもう品質の悪いところで一定している。
その中でドゥゼアが目をつけたのは古ぼけた投擲用の槍だった。
投げるために短めに作られているが別に槍としても使える。
刃先に触れてみると錆び付いてはいるが中まで完全には錆に侵されていないので磨くことができれば本来の実力も発揮できる。
槍をメスゴブリンに投げ渡してやる。
慌てて落としそうになりながらもなんとか槍をキャッチしてメスゴブリンは笑った。
可愛くもないと思っていた笑顔だけどこう懐かれて笑顔を見せられると少し可愛らしくも思えるから不思議だ。
武器を選ぶとここからは自分で生きていかねばならない。
巣の外に出ることを許された。
久々に浴びる日の光に涙が出そうになるぐらいの気持ちがする。
老ゴブリンがこれから自分で狩りをして食事をすることだけを伝えて巣に引っ込む。
ずる賢く生きるゴブリンだが知識の継承という概念もまだまだ薄い。
もっと成長して戦力になるとみなされれば色々と教えてもらえることもあるのだけど今はまだ1人で生きる力を伸ばさねばならないのだ。
ゴブリンたちが思い思いに散っていく。
何匹のゴブリンが上手く食料を確保できるだろうか。
欲を出して失敗して死ぬ奴もいるかもしれない。
ドゥゼアはまず周りの地形やどんな生き物がいるのか知るために散歩でもしようと思った。
1日2日食事を取らなくても死にはしない。
焦って動くより状況を確認して、しっかりと準備を行うこともまた大事なのである。
もちろん手が届きそうなら狩りをすることだって選択肢には入れておく。
「……」
予想はしていた。
ゴブリンの巣となっている洞窟を中心に考えて周りを歩き回るドゥゼアにメスゴブリンは一定の距離をあけて付いてきていた。
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