第87話:アイテムボックス

「それと長老様、リーゼちゃんは無詠唱で魔法が使えるんです」

いよいよ長老様が尊敬のまなざしで私を見つめてくる。

でも、すごく弱いんだよ?えい。

ニニアに水をパシャッとしてみました。スプーン1杯ほどです。

「ひゃぁ」

いきなり水をかけられたニニアが変な声を出す。

「本当に無詠唱で魔法が発動するのね。弱いけど」

これ魔法なの?魔力は確かに減るけど・・・

魔力が減らなければ、これでいくらでも水が出せたのに。

「今のはどうやったの?」

水がパシャッと出るのをイメージしたんだよ。

どばーだとコップ1杯くらい出るんだよ。


「さっきの収納はどれくらい入る?」

わかんないけど、荷馬車2台分以上は入ってるんだよ。

しかも中の時間が止まるらしいんだよ。

「それだけの量を維持するのに魔力を使わないの?」

全然使わないよ?

「普通なら、荷馬車1台分の時を止めるのに、1日に10万くらいの魔力が必要になるの」

え?そんなに?

私、魔力なんて全然ないんだよ。

ギルドカードのステータスを見せる。

MPは10しかない。


「これはまたすごいわね」

まあ、普通じゃないのは理解してるよ。

レベルが上がらないなら、最初からそう言うものだと思えば問題ないんだよ。

呪いは・・・枢機卿様でも解けなかったので諦めました。えへん。

「そちらの2人はリーゼロッテ様の使い魔なのね」

ジブリールはリズの僕だから、私の僕でもあるんだよ。

「すると、龍神と大天使と大悪魔を従えているのね・・・」

そう言う事になるね。

「普通はこれだけの高位の存在を従える事は出来ないの」

そうなの?

でも、みんな自分から私の僕になったんだよ?

「なおさらすごいわね。普通なら力でねじ伏せるくらいしか方法はないのに」

別に戦ってもいないんだよ。戦ったって絶対勝てないからね。

「300年ほど前にエリザベート様を封じるときにどれだけの犠牲を払ったか・・・愚かな事ね」

そうだよね、勇者1人で倒したわけじゃないもんね。

たぶん何百人、何千人もの人が関わっているはず。

リズに聞けば教えてくれるかもしれないけど、話したくないことを無理には聞かない。


「リーゼロッテ様には不思議な力がある。それは確定。しかも封印された力がまだある」

そうみたいだね。なんせ呪いがてんこ盛りだし。

「たぶん、魔法だと思っている力、それは魔法じゃ無いと思う」

呪文の詠唱とか要らないしね。そうだと思いました。

「雰囲気としては精霊が力を使うときに似ている」

あれ?もしかして人の枠から外れました?まさかね。


「長老様、それと収納魔法って使えますか?」

ニニアも収納が欲しいんだね。

「リーゼロッテ様に教わらなかったの?」

ごめん、私は教えてあげられない。

自分でも使い方が説明できないんだよ。

いきなり使えたしね。

「リーゼちゃんのは感覚で使ってるみたいで・・・」

そうなんだよね。

私がちゃんと使った魔法って、ファイアボールだけだし。

「アレも、本当は発動しないはずだったんだ。魔力不足で」

そうなの?だからその後に寝ちゃったんだね。


「アイテムボックスはリーゼロッテ様くらいしか使えない」

そうなんだ。でも、レアスキルであって、ユニークスキルじゃなかったよ?

他の人でも使えるんじゃないの?

「だから、その力を振るうためには同じ感覚を理解しないといけない。それはおそらく無理」

うん、まあ、説明しろって言われても出来ないもんね。

「でも、他にも方法はある。それが人間も使っている収納魔法」

そうだよね、酒屋のおっちゃんも魔導師のじいさんが使ったって言ってたし。

人間でも使える魔法なんだよね。


そういえばリズも使えるよね。バスケットだっけ?

「妾の使うバスケットがそうなのじゃ」

それをニニアに教えてあげられる?

「かまわんが、龍語魔法の素質が必要じゃが?」

ハードルが高いね。

「無理ね。エルフには扱えない言葉」

まあ、龍語って言うくらいだし。


でも、ニニアだって古代語魔法とか使えるよね。

そっちの系統で似たようなのはないのかな?

だって、人間にも使える魔法もあるんでしょ?

「剣よ、我が手に!」

リリスがそう唱えると、光とともに両手に聖剣と魔剣が現れた。

「リリスが異相空間から取り出すときには詠唱が必要ですの。剣よ、眠れ!」

再び唱えると、光とともに聖剣と魔剣は虚空に消える。

「今のは古代語魔法のドロワーという魔法ですの」

ニニアがリリスの手をギュッと握っている。

「師匠と呼ばせてください!」

古代語魔法ならニニアにも使えるんだね。

「でも、これはニニアが思ってるほど便利なものじゃないですの」


ところで、ニニアは何をしまいたいの?いつも持ってる杖?

「特にこれと言っては・・・」

ああ、使ってみたいだけなのね。

「異相空間の維持には自分のMPを分割が必要です。最大MPが下がると思ってください」

ジブリールが説明する。

「格納する物質の大きさが大きいほどMPが必要になります」

じゃあ、その分普段使える魔法が減るって事?

「2本の剣をしまう分でMPが40必要ですの」

結構使うんだね。


「ソレとはまた違う技術を使うのがこれです」

長老様が呪文を詠唱する。

「サモンエレメント、コード:ウォーター、タイプ:ウンディーネ、マテリアライズ!」

部屋の中に水の精霊が召喚された。

「精霊召喚術ですが、これもこことは違う世界、精霊界より精霊を召喚します」

なるほど、精霊界というのも異相空間なんだね。

「既に存在している精霊界へと繋ぐんじゃなくて、自分用の異世界を作るのか・・・」

ニニアが納得しながら絶望してる。

それだけ難しいんだ。

「理解できましたか?」

結構大変なことをしないといけないんだね。


そうだ、私が見ているアイテムボックスを見せてあげたいな。

なんか、アイテムボックスをみんなにも見せるようなイメージで・・・えい。

「何じゃ?我が主はいつもこんなものを見ているのか?」

リズが呻いている。

「何これ、情報が多すぎる・・・」

うまくいったみたいなんだけど、なんか様子がおかしいね。

「この膨大な文字がアイテムボックスの中身?全部文字なの?」

そうだ、とりあえずお薬を1個取りだしてみるね。

視界を埋め尽くすほどの文字の中からお薬を示す数値が減って、

手元に一つお薬が現れる。

「今のは、ここに再構成されたの?文字列の情報を元に?」

今度はアイテムボックスにしまってみる。

「物質が文字列に分解されてアイテムボックスに情報が増えた・・・」

長老様にはアイテムボックスの仕組みが理解できたんだね。

「リーゼロッテ様、これを止めてください。人には処理しきれません」

うん、じゃあ終了する感じで。えい。


「リーゼちゃんのすごさを垣間見た気がする」

ニニアは目眩がするのか頭を抱えている。

「今のはおそらく失われた技法、エンコードとデコード。アーカイブと呼ばれていたものだと思います」

アイテムボックスの正体が判明?

「これは人の身には余る技術。存在のあり方が違う」

長老様、何か分かったの?

「私のことはルルアとお呼びください、リーゼロッテ様」

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