ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが

アースゴース

第1話 すごいレアスキル


 「へっへっへ、今日からウチも探索者や! これからガッポリ稼ぐで!」


 ウチは今、全身にヘルメットやプロテクターを装着した、警察機動隊もかくやという格好で洞窟の中にいた。

 もちろん、ここは普通の洞窟ではない。十数年前に現れた『ダンジョン』だ。


 ――『ダンジョン』、それは十数年以上前に何の前触れもなく現れた謎の存在。

 中には無数の危険なモンスターがいる。しかし、ダンジョンで産出する素材は圧倒的な強度、軽さ、汎用性を持っていることが多い。そして中でも、『魔石』と呼ばれる物体は人類のエネルギー産業を大きく変えたほどだ。

 もちろん、政府はそんなものを放置するはずがない。すぐさま専門の機関を設立した。


 それから十数年後、政府から認められた資格を持った『探索者』と呼ばれる人々は、一攫千金を夢見てダンジョンに潜る。

 今日からウチもその1人だ。


 「お、早速おった。アレは……スライムやな」


 洞窟を進んでいると、地面をズズズといずる、水色の粘体が見えた。

 これはスライム。ダンジョンの中でも初心者向けである『初心者の洞窟』において最弱のモンスターだ。

 その弱さたるや、子どもがしばき倒すだけで死ぬほどである。


 まあ、まれにメタルな硬すぎる奴が出てくるらしいが。そんなのとは縁は無いだろう。

 あるいは、暇があれば探してみるのもいい。


 「プルプルしてるなぁ。どうやって生きてるんやろ」


 ノーマルのスライムなら、現役女子高生たるウチがフル装備で挑めば、負ける要素は1つもない。

 でも油断して痛い目にあうのは嫌なので、探索者協会から支給レンタルされたライオットシールドと特殊警棒を構えた。


 「せやッ!!!」

 「ゴポッゴポッ……」


 そして一気に振り下ろす。

 上から命中すると、スライムはくぐもった音を立てながら潰れ、跡形もなく消え去った。

 後に残ったのは、綺麗な小さな石。これは『魔石』と呼ばれるものである。


 探索者協会ではこれを買い取ってくれるので、とにかくいっぱい集めて売っ払う。

 スライムは魔石しか落とさないが、強いモンスターになってくると魔石はもちろん、うろこや毛皮、甲殻を剥ぎ取れるだろう。


 「どこ入れとこ……リュックでええか」


 装備と共に支給されたリュックは頑丈なやつだ。そうそう破れはしない。レンタルでもそんな値段はかからないのも魅力だ。


 「この調子ならもっといけるはずや。もっと強いの狙お」


 スライムの魔石の値段は、1つ200円くらいだったか。これだけでは小遣い稼ぎにもならない。最弱のモンスターなので仕方ないといったらそれまでだが。

 もっと稼ぐためにも、モンスターを探して倒して回る必要がある。 


 時折、水分補給しつつ歩き回っていると、モンスターが見えてきた。

 緑色をした、子どもくらいの小人が3体。


 「ゴブリンやんけ」

 「ゴブッ! ゴブッ!」

 「ゴッ!」

 「ブッ! ブッ!」


 しくじったな、1対3はちょっと分が悪い。けど、これは一気に稼ぐチャンスかもしれない。

 ゴブリンの魔石は1個500円。ちょっと高めになっているのだ。つまり3個で1500円も稼げる。

 これを1時間もせずに稼げるとか、バイトよりもはるかに効率がいい。


 「よっしゃやったるわ!!!」

 「ゴブー!!!」


 3体は一斉に襲いかかって来た。

 ウチは1体をライオットシールドで防ぐ。


 「ゴッ、ゴブッ!?」

 「オラァッ!」

 「ギャッ!?」


 1体がウチの脚に組み付いてきたが、構わず残った奴を警棒で叩いた。

 次に脚にくっついた奴を引き剥がしつつ、殴って殺す。


 「お前で最後や!」

 「ゴッ」


 シールドで押さえながら叩くと、最後のゴブリンは首があらぬ方向に曲がって死んだ。

 本当に死んだのかを確認し、息をついた。


 「よ、よっしゃ! 何とか倒せたな……」


 正直、2度目はやりたくないと思った。

 脚に組み付いてきたゴブリンが、酷くびついたナイフを持っていたのだ。

 運よくプロテクター部分を刺してたから良いものの、これが素足だったりしたらゾッとした。


 まあ、そもそも素足が出るような格好でダンジョンをうろつくとか無いわ。

 たまにそんな探索者がいないでもないが……それは一部の変態である。ウチなんて全く縁がないだろう。


 「うわっ、グロいなぁ……よし」


 息絶えたゴブリン達をナイフで解体し、魔石を取り出す。

 グロテスクなことをやらなければならないので、探索者になってもすぐやめる人も多いらしい。

 魔石を取った後は、さっさと歩き出す。


 「疲れたわ……行き止まりや……あ!?」


 疲れつつも、足は止めない。

 ふらふらとモンスターを探していると、行き止まりにぶち当たった。

 が、ウチはそこにあったとあるものを見て驚愕した。


 「た、宝箱!!!」


 宝箱。たまにダンジョンに生成される、アイテムの入った箱である。なお、罠が仕かけてあることもある。

 これは天啓てんけいみたいなものや、ダンジョンがウチにもっと稼げと言っている!


 「よーし、中身は~……」


 パシュッ


 「ッゥヒィ!? 弓矢!?」


 宝箱には罠が仕かけられており、矢が飛んできた。

 間一髪で避けたが、これは絶対に頭を狙うコースだ。当たったらヤバかったな。いやでもヘルメットしてるし……でもレンタル品やし……


 「ま、まあええわ。当たらんかったからな、うん……うん?」


 宝箱の中身を見て、ウチは2度目の驚愕に見舞われた。


 「こ、これは『スキルジュエル』!?」


 それは、宝箱から出るアイテムの中でもトップレベルで貴重な代物。

 『スキルジュエル』と呼ばれる、握り潰したら『スキル』が手に入る宝石である。


 「おおっ、不思議やな。見た目は宝石なのに柔らかい……」


 『スキル』とは、ダンジョンが現れてからしばらく経った後に発見されたものだ。

 それは炎や氷を出す魔法だったり、怪力をもたらすものだったりする。


 そんなものがウチの手の中にある。

 これは、今の状態ならどんなスキルでも役に立つだろう。

 

 いや、だが少し待て。

 使うのはスキルを確認してからの方がいいだろう。

 たまに強力だけどデメリット付きのスキルとかあるらしいし。


 ウチはジュエルを手に持ち、ちょっと集中した。



 【ドラゴン召喚】

 ・ドラゴンを召喚することができる。

 どんなドラゴンが召喚されるかは完全にランダムであり、1匹しか召喚できない。その後は呼び出した個体で固定される。

 ドラゴンの召喚、送還は自由。



 「ドラゴン!? これは!? 大当たりや!!!」


 こんなレアスキル、聞いたこともない。

 多分、売ったら数億はするだろう。でもこれを使って大きなダンジョンに行けば、数億以上は稼げるかもしれない!


 「ひぇ~どうしよか……ん?」

 「ゴブッ!!! ゴブッゴブッ!」


 ゴブリンがやってきた、それも6体。

 いくら雑魚モンスターとはいえ、今の疲労したウチが敵う相手ではないだろう。


 「ここはジュエルの使い時や!」


 ウチはジュエルを握り潰す。

 あっけなく砕け散ったジュエルからは光の粒子が出てきて、それがウチの中に吸い込まれた。


 「へっへっへ! 楽しみやわぁ、どんな奴が来んのか! 行け! ドラゴン召喚!!!」

 「ゴブッ!?」

 「ゴブゴブッ!」


 ウチの手前に魔法陣が現れ、そこからドラゴンが召喚された。


 「おおっ! このドラゴンは……」


 黒く光沢のない、野性味あふれるボディ。

 太い手足と屈強な胴体。

 現代に生きる竜であるそれはまさしく……


 「コモドドラゴンやんけ!!!」

 「ジャーッ」


 ドラゴン違いや!!!


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