第21話アンハルト国王side

 問題が表面化したのは直ぐの事。

 進めていた外交交渉が決裂した。


 息子の王太子に任せていた公務の一つだ。



「な、なにがあった?今まで上手くいっていたのだろう?」


「……それは……」


「急に交渉を中止などあり得ん。一体何があったというのだ?」


「……わかりません」


「分からないだと?」


「……はい」


「そんな筈はない!何か理由があるだろう!!」


「本当に分からないんです!!」


 息子が泣きそうな顔で言う。

 普段から覇気が感じられない男だったが、今はそれ以上に弱々しく見えた。

 

「くっ!」

 

 どうすればいいのか。

 この国は今、大変な時期にある。

 ここで国益を損なうような事はできないのだ。

 考えろ。考えるんだ。

 まずは原因究明だ。

 外交を担当している文官を呼び出し事情を聞くことにした。


 そして――

 

 私は目の前が真っ暗になった。


「それでは何か?交渉を行っていたのはサビオだと言うのか?あの偽物が!?」


「は、はい。間違いありません」


「王太子は何をしていた!!あ奴が主体となって話を進めていたのではなかったのか!!!」

 

 私の怒声に外務担当者が身を震わせる。

 だが構ってなどいられなかった。

 

「……は、はい。おっしゃる通りです。殿下はサビオ殿の隣で話を聞かれていました。殿下は終始、黙っておられましたが、時折、相槌を打たれたり、質問をされたようでございます。その度に、サビオ殿が殿下に説明していたようです。殿下は最後まで口を開かれませんでしたが、話は成立していたと思われます」

 

「馬鹿な事を言うな!それが外交か!?」

 

「い、今まではそれで全てが上手くいってまいりました。実際に殿下からは『サビオに任せるように』との指示がございましたし、私共もそのように差配してきました」

 

「もうよい!!」


 これ以上、聞くに耐えなかった。

 信じられない話だ。

 確かにサビオは王太子の側近だった。

 外交にも多少は関わっていたのかもしれない。

 だがそれはあくまで補佐としての話だ。

 交渉の全てを任せるなどあり得ない。

 そんな重要な案件を全て任せるだと!?

 

 あり得ん!!!


 王族がそのような事をするとは……。


 愚かにも自ら判断する事なく、側近に全てを任せていたという。


 国王代理として任せていた公務は幾つかあるというのに!!

 職務怠慢も甚だしいではないか!!!

 それに何故、こんな事態になるまで放置してきたというのだ?

 私が知らないとはどういうことだ?


 あぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 知らぬ間にこのような事態になっていたとは……。

 王太子は聡明だと思っていた。

 だが現実は違った。


 まさか、交渉する国の言語すら理解していなかったとは……。






 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る