第13話エルside
行くあてなどありません。
元々、私は孤児です。
それも神殿が経営する孤児院で育った人間。
魔力鑑定で回復魔法が使えると判明し、十三歳の時に聖女候補として神殿預かりになったのです。
私は神殿という狭い世界しか知らずに育ちました。
親兄弟はいません。
天涯孤独の身です。
そんな私に一体何処へ行けというのでしょうか。
アーミさんとレヴィさんは今どうしているのでしょう?
それとジャコモさんも……。
こんな筈ではありませんでした。
私が願った未来は……。
もっと希望と夢に満ちたもので。
なのに何故こんなことになってしまったのか。
神殿からトボトボとあてもなく歩いていると不意に声を掛けられたのです。
「エル殿ですね」
声をかけてきたのは執事姿の初老の男性でした。
その男性にどこか見覚えがあるような気がして記憶を探るとすぐに思い出しました。
この人は確か……、そう、アーミさんの家の執事長さんです!
「あ、あの……」
どうしてここにいるのか尋ねようとしたら執事長さんが私の言葉を遮るように話し始めます。
「私共の主人がお待ちしております。どうかこちらへ」
「えっ?」
戸惑う私を他所に執事長さんは歩き出してしまいました。
主人?
もしかしてアーミさんのことでしょうか?
彼女は実家の伯爵家に帰っている筈です。きっと私同様にジャコモさんの酷い話を聞いたに違いありません。もしかすると彼の冤罪を晴らすチャンスかも。ええ!そうに違いありません。聖女候補から外れてしまったせいで放り出された私と違って彼女には列記とした家族がいらっしゃいます。血を分けた本物の家族が。その家族ならアーミさんを助けない訳がないのです。娘の夫になる人物の冤罪を晴らすために行動に出ているのかもしれません。
希望が見えてきた私は慌てて執事長さんの後を追いかけました。執事長さんに案内された場所には一台の馬車が止まっていました。
「さぁ、中に入ってください」
「はい!」
促されるままに馬車に乗り込み連れて行かれた先は王都郊外のとある屋敷でした。
アーミさんに会える事に頭が一杯だった私は気付きませんでした。乗り込んだ馬車に伯爵家の家紋が付いていなかった事を。
馬車を降りた私は広い庭を抜けて屋敷の中へと入りました。
応接室に通されるとそこには一人の男性が待っていたのです。その男性とは、アーミさんの父親である伯爵様でした。
「急に連れ出して申し訳ない、エル殿」
「いいえ」
「こちらも
伯爵様はそう言うと、執事長さんに手で何かの合図を送りました。
執事長さんは心得たとばかりに一礼すると部屋を後にしました。残ったのは年配の女性と屈強な護衛兵のみ。
「エル殿、これから少々付き合っていただこう。なに、確認と結果報告を伝えるだけなのでそう身構えることは無い」
言葉とは裏腹にその表情と目は厳しいものでした。
一体何が始まるというのでしょう。
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