第6話仲間の恋

 宿屋の主人ジャコモは田舎町では珍しい洗練された二十代後半の男だった。

 元は王都生まれの王都育ち。

 長身の色男で、何よりも話術に優れていた。

 聞き上手の話上手。

 それに彼はフェミニストだ。

 女性の扱いに長けていた。

 

 直接聞いた訳じゃない。

 だが彼の女性への対応は大変スマートなもの。

 恐らく、女性経験も豊富だろう。


 僕では十年経ったとしても、あんな歯の浮くセリフを臆面もなく平然と言う事はできないと思った。


 そんな彼は当然モテていた。


 意外な事に複数の同時進行で付き合っても相手に刺される心配がない位にマメ男で、博愛主義。


 宿屋の客が女ばかりだった理由を垣間見た。

 そう、女客は全てジャコモの


 そこにエル達三人が追加されたとしても誰も嫉妬することがない状態。

 三人はアッという間にジャコモの恋人の一人に収まっていた。男性経験がない神殿育ちのエルとアーミは別として、まさかレヴィまでジャコモのハーレムに加わるとは意外だった。


『初めての本気の恋よ!』


 純愛だと言わんばかりのはしゃぎようだった事を思い出した。

 恋愛に関して乙女な部分があったのかもしれない。


 成り上がりっぽいレヴィは良いとしても、エルとアーミはある意味これから大変だろう。


 殿は「貞淑」である事を求められるから。

 まあ、ギルドで儲けた金があるから暫くの間は仕事しなくても大丈夫だ。その間にどうにかすればいいんじゃないのかな?

 数えるのも馬鹿馬鹿しい。もしかすると他国にも現地妻がいそうな男と仲良くやれば良いと思う。



 その男の本性がクズだろうと。

 どこぞの間者の可能性があろうとも、だ。



「さて、最初は何処の国へ行こうか」

 

 辻馬車に揺られながら目的地を考える。

 旅の目的は、様々な国を見て回ることだ。

 東西南北あらゆる場所を巡るつもりだ。

 その為の準備は既に終えている。

 まずは南に行ってみようか。

 確か、あの国の港町には面白い風習があるって聞いたことがあるんだよね。


「うん、そうしよう!」


 僕は行き先を決めた。


 ワクワクするな。

 どんな出会いが待っているのか楽しみだ!


 

 ギルドでの半年も楽しかった。

 最後の一ヶ月以外は。


 あの宿屋は周辺住民にハブられていた。

 宿の女たちは誰も気づかなかったようだけど。


 僕だって、宿に泊まって十日間くらいだ。宿泊客が気付かなかったのも無理はない。ジャコモのハーレムに加わっていた女性たちは殆ど宿から出ない。朝っぱらから盛っているんだ。外の様子なんて全く気にしていなかった。それはエル達も同じ。一週間で男の手練手管に籠絡されて、すっかり骨抜きにされていたから仕方ない。





 街ははのどかな田舎町に過ぎなかったらしい。

 

 ジャコモが現れるまでは。


 正確には、ジャコモ率いる旅芸人が田舎町の小さな宿に滞在した時からだった。

 僕がなんでこんな裏情報を何故知っているのかというと、街の人に忠告されたからだ。



 そう、あれは宿に泊まった翌日のこと――――




 


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