第2話プロローグ~ある侯爵家の話~
魔法理論。
ある意味、魔力持ちが忌避したがる学問のひとつだ。
とある魔術師や魔法学校ではあえて教えないという方法を取る処もある程に。
「神殿に睨まれるぞ?」
「ああ、魔力は神から与えられた特別なもの。選ばれし人間のものと宣うから、魔法研究が進まないんですよ」
「それを言うな」
苦虫を嚙み潰したような表情の父は次男の言葉を否定はしなかった。
「魔力を持つ一般市民が神殿に攫われている現実を見てください」
「……あれは魔力持ちの保護だと聞いている」
「それを真実だと受け取る人間は少ないと思います」
「……外では言うな」
「勿論です。僕も命は惜しいですから。ただ、神殿の露骨な魔力持ちの囲い込みを考えると、僕の養子先は軍関係が良いかもしれません。それか僕が護身術を身に付けてからの方が安全かもしれませんね」
要は、神殿も狙ってくる恐れがあることを遠回しに伝えた。
魔力無しでもサビオは魔術師一族のトップの家系。
「…………養子に出すのを先延ばしにしよう。サビオは
意外なほどあっさりと父は妥協案を出してきた。
父の隣にいる母はどこかホッとした顔だ。分かりにくいが母親は親としての情が厚い。父親は親と言うよりも一族の当主としての判断だ。
どちらにしても外に出すのは厄介な次男に、準成人になるまでに生き延びられる成果を出せと命じた。
次男の言いたいことを正確に把握しての言葉だろう。
一族ごと魔力持ちは、とある人間からしたら
そうならないように「世間に認められる研究者になれ」と発破をかけた。
五歳の幼児に言うセリフではない。
現に、八歳の長男は父親の裏の意味を全く理解していなかった。
だが、サビオは大層賢い子供だ。
『魔力無し』を補って余りある頭脳の持ち主であり、しかも精神年齢が異常に高かった。
その二つが上手く作用したせいだろう。
学問と武術を徹底的に学んだ。
命と人としての尊厳が掛かっている。
魔法理論で魔法がなんなのかを理解し分析する。
そこから新しい物を生みだせないかと試行錯誤を繰り返した。
最初は、あのパッツィーニ侯爵家の直系でありながら『魔力無し』と言う事で他の貴族たちに嘲笑されていたサビオであったが、新たな魔法道具や魔法薬を提案し作成した事で国は発展した。庶民の暮らしは良く、僅か七歳でその才能を認められ最高学府に飛び級で入学し、三年で卒業を果たした頃には『天才』の名を不動のものとしていた。
過去に彼を嘲笑った者達はその頃にはもはや何も言わなくなっていた。
学府を卒業後は王太子の側近として仕えることになり、その際に王女と婚約を果たした。
全てが上手くいっていた。
『魔力無し』の侯爵家次男の彼の未来は明るいはずだった。
まさかそれが崩れる事になるとは一体誰が想像できただろうか?
その日、サビオの世界は一変した。
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