3、出発

 今日はいよいよ登殿の日だ。お母様のが行われたときはいい小春日和だったけど、たったちょっと日付が進んだだけで気温ががぐっと下がり、冷たい風が吹き始めている。


 ヴァイスとザフィーアは今、お母様のが行われたときと同じ、港にいる。二人はいつもより動きやすい軽装であり、大きな船に登殿に必要な物が運び込まれいくのをじっと待っている状態だ。


 しかし、登殿した後はザフィーアはただのヴァイスの妹ではなくなる。主従関係が入ってきて、人前ではいつものように話せなくなる。



 「ヴァイス姫。登殿の儀の流れ確認を致したいのですが、大丈夫でしょうか?」



 ザフィーアは芝居がかった様子でヴァイスに訊ねた。



 その口調が、態度がザフィーアとヴァイスは身分とは違うのだ、という現実を突きつけてくる。冷水を浴びせられたかのようにすっと背筋が震える。ここで、ザフィーアに泣きついたらどうなるのだろうか。きっと色んな人に迷惑をかけてしまう。私はいいけど、ザフィーアが迷惑を被るのは御免だ。



 ・・・辛抱して、早くこの島に戻ってきたい。そして、ザフィーアとまた仲良く暮らしていきたい。



   そのためなら、何でも耐える。耐えられる。頑張る。頑張れる。



 「ええ。大丈夫よ」



 「まず、宮に着きましたら正装にお召しかえをいたします。次に王族の皆様にご挨拶をして、寿宮ことぶきのみやの鍵を頂戴し、寿宮に入るという流れでございます。御理解いただけましたか?」



 「ええ。大丈夫よ。これから色々よろしく頼むわ」


 

 「お任せくださいませ」

 



 此の海のような穏やかな宮生活を想像している二人はこれからの宮生活の現実を知る由もなかった。

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