水族館デートは心が洗われる

「入場料は1人につき1500円。おふたりで3000円になります。」


水族館の入り口にいるロボットはずっとこのセリフを繰り返している。


少し、雲が増えてきただろうか。

少し前の青い空は灰色の雲に覆われてしまっていた。


天気予報だと今日は晴れだったのに、これじゃ晴れじゃないじゃん。


「一応、折り畳みもって来てるけど降らないといいよね」


「そーだね、でも雨が降ったら外でくっついてもなんも言われないよ」


「周囲は許しても俺は恥ずかしいから考えさせてね」


「ひかりは私が濡れてもいいっていうの!?」


「違うけどさ?ゆうなは恥ずかしくないの?」


「そりゃ恥ずかしいけどさ、、」


とても恥ずかしい、、

でも、一緒にいたいって思ったからそう言っただけなのにね。


「それにしても、午後だからかわかんないけど人少ないよな」


「パンフレット見た感じもうすぐイルカショーがあるからじゃないかな?」


「なるほどね」


話をしながら会計を済ませ、私達は水族館の中に入った。


中に入ると、水族館特有の匂いが私達を迎える。

次に木目調の床と黒い壁でできた大きな空間が目の前に広がる。

一言で言うなら、落ち着きのあるカフェみたいな感じ。

入口のすぐ正面には館内マップやパンフレットが置いてあって、その奥にはすぐ水槽が置いてある。


「ここは、川魚コーナーだって。魚が住んでる地域別に水槽が置かれてるらしいよ。」


さっきまで、ひかりが連れていってくれたハンバーガーのことが頭の中でいっぱいで興奮も覚めなかったけど、水槽を眺めたら不思議と心が落ち着いた気がする。


「綺麗だね」


「うん、、」


私達は会話も忘れて水槽を眺めていた。

別に特別なものがある訳でもないし、ここには何回も来た。

でも、ひかりと来たからか、不思議な感覚に襲われる。


「次は、深海魚のコーナーらしいよ」


ひかりは私の手を優しく握り、横に経つ。


「ここから動ける気がしないよ」


「俺も」


いつもなら私よりいっぱい話すひかりもほとんど口を開かない。

それほどまでに魅入っているのだろう。


「でも、このペースだとイルカショー間に合わないよ?」


「いこ、」


ただ、ひかりは私と違って自分のことを律することができるらしい。

時間的に次のイルカショー逃したら今日は見れなくなっちゃうしね、絶対に行かないと。


そうして、足を進めると、さっきまでとは全然違う、真っ暗な空間に変わった。

水槽の青光りが無ければ恐怖すら感じるぐらいの空間に、ぽつぽつと壁に埋まった水槽がある。


水槽の中にはカニとかがいっぱいいた。

どの子がどんな種類の子かなんてわかんないけどこれもずっと見ていられる。


この空間だからこその景色、雰囲気、なんだろうなってそう思う。


ふと、横を見る。

私の横にはいつもひかりがいて、ひかりも私と一緒にいることを望んでいる。

その事実だけでも私は幸せで恵まれていることを実感する。


一体どれくらいひかりのことを見ていたのだろうか。ひかりと目が合った。


「どうしたの?」


「別に?幸せだなーって」


ニコッと笑うひかりの顔を私は直視出来なかった。今ひかりの顔を見たら理由は無いけど泣いちゃいそうだから。


青い光に照らされたひかりの顔はどこか寂しさを含んでいたように感じたけれど、今は目の前の全てを全力で楽しもう。

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