25.駿の回想


──駿太朗 View


夜中にパチリと目が覚める。

睦巳を見るとしっかり腕枕を枕にして俺を向いて、いや、俺がまだ抱き寄せたままでこちらを向かせていた。

身体が密着するほど抱き寄せてはいないので少し寂しいけど、足はお互いの足を交互に挟んで絡ませていて、心地よい重さと柔らかさだ。


今日は夏祭りに行って、完全に想定外だったお風呂に一緒に入って、その後も新しく、膝枕と腕枕に次ぐ、イチャイチャ体勢が出来た、イチャイチャ体勢は俺が今名付けた姿勢の事で2人でイチャつける体勢の事だ。

首筋に顔を埋める事も出来るし口づけも簡単に出来る。

おっぱいなんかも揉んでみたいけどそこはまだ我慢だ。


しかも今回は睦巳も相当気に入ったみたいで何時でもしたいと言ってきた。

その時は座ってる想定で話してたけど多分立ったままでも後ろから抱きつけば似たような事が出来る、これで今までよりイチャつき度合いが増しそうだ。


◇◆◇


夏祭りは迎えに行くつもりだったのに睦巳が迎えに来ると言って聞かなかった。

その理由は当日睦巳が来た時にハッキリした、大きめの荷物を抱えていて、始めは浴衣が入っていて、ここで着替えるのかと思っていたけど、そうじゃないと言っていたので今日も泊まるつもりなんだなと思ったけどわざわざ口にはしなかった。

けどまさか着替えだけじゃなくて大きめのバスタオルも入っているとはこの時は思うはずもなく。


睦巳は相変わらず綺麗で可愛くて、エロい、そしてしっかりネックレスもしてくれていて、今回はさらにリボンの髪留めも使ってポニーテールにもしてくれて嬉しかったし、本当にポニーテールが似合っていて可愛い。

くるりと回った時はポニーテールの動きが可愛すぎるし、スカートはひらりと舞い上がり目が勝手に追ってしまう。流石に元男だけあって男心を理解している。


夏祭り会場はすでに人でごった返していて、気を抜くと睦巳とはぐれてしまいそうなほどだった。

睦巳は何も言わなくても俺の腕をしっかり掴んではぐれないようにしていて、横ではなく、半身ほど俺に隠れるようにして付いてきていた。

その様がとても可愛らしく、俺はずっとほっこりしながら見ていた。


睦巳は視界が下がった事と身体の非力さと小ささを実感しているようだった。

そういえば学校以外で2人きりの外出は初めてだった、しかもこの人混みだから不安にもなるだろう。


睦巳から夏祭りに誘ってきたとはいえこの状態では俺がエスコートするしかない、睦巳からもお願いされた事だし、2人で楽しめるように俺のやり方で楽しんで貰おうかな。


しかしその前に俺の発案したカップル繋ぎをして出来れば睦巳と並んで歩きたい。

俺はそれを睦巳に伝えると嬉しそうにその通りに繋いで密着した、これなら並んで歩けるだろう。

ふと視線を感じ睦巳を見る、不安そうな表情をしているように見えたので声には出さずに伺ってみた。

睦巳はそれを感じ取ったのだろうか、首を振ってなんでも無い、と伝えたように見える、それなら問題無いだろう。俺たちは以心伝心のように感じて嬉しく思った。


それにしても今日の睦巳は可愛い、いつもよりさらに、少し気弱になっているのかいつものような勝ち気さが無く、反応も今日は一段と可愛いくて、可愛いが過ぎる。何度も心の中で可愛い可愛い可愛いと湧いてきて、俺の心臓の鼓動がバクバクと激しくて、すぐ脇に密着している睦巳に聞こえるんじゃないかと心配してしまうくらいだ。あー可愛いなあもう。抱きしめたい。


と、そこへクラスの友達連中4人がやってきて、挨拶を交わし、羨ましがられた。

あくまで恋人の振りで対応するけど、どうしても本音が交じる。

可愛い可愛い睦巳はお前らにはやらん、見るんじゃないと思いながら別れた。

その時の睦巳も自然体に見えたけど、実は俺を掴む腕に力が入っていて少しの不安か何かを感じていたのだと思う。その様が可愛い。


前方から人の合間を縫うようにしかし急いでいる為にぶつかりながらも人を掻き分けて進んでいる人が見える。

通り道に俺たちがいる事が分かったので即座に睦巳を抱き寄せて少し脇へ移動して回避した。


睦巳は訳が分からないながらも素直に俺に抱き着いて来ていて、これがまた可愛い。

戸惑っている様子だけど、しっかり俺の胴体に抱き着いている。

俺はと言うと睦巳を抱き締めた事で可愛いと思う感情が暴発してか、抱き締めた腕を離せないでいた、いや、離したくないと思っていた。


口では離すと言ってはいても、心では全くその気が無い。

ずっと抱き締めていたい。


少しして睦巳が声を掛けてきて、しまったと思い、やっと睦巳を開放した。

睦巳は何事も無かった様に直ぐにさっきまでと同じように俺の身体に腕を回し密着してくれた。

そして心配そうに俺を見ていたが俺は睦巳と目を合わせられなかった。

完全に理性が負けていた、情けなくて恥ずかしかった。

睦巳はこんなに俺を信頼して頼ってくれているのに、何をやっているんだと反省していた。


◇◆◇


まさか後から入ると言って本当に直ぐ後から入ってくるとは思わなかった。


頭を洗っていて周囲が見られない状態で扉が開いたように感じ、外気が入ってくるのを尻と背中に感じる。

なんだ、誰かが入ってきたのか?母さんが何か補充でもしに来たのか?と思った、しかしそれがまさか睦巳だなんて、完全に想定外だった。

完全に動揺していた、背中を睦巳の指でなぞられるまではパニックだった。


しかしそのままの格好は不味い、タオルか何かで股間を隠させて貰う。

そして後ろに向きを変えて、睦巳に頭を洗って貰う事に。

人に頭を洗って貰うのは気持ちが良い、それは美容院でいつも思っている事ではあるけれど、洗っているのが睦巳であれば2つの意味で気持ち良いを感じる。

ヤバいと思いつつ臨戦態勢になる俺だけどどうしようも出来ない、そもそも原因は睦巳が頭を洗っている事なんだから俺の意思でどうこうできる事では無い。


少しでも気を紛らわそうと睦巳に話しかけてみる。

だけど全く効果が無いし喋っている最中にシャワーをぶっ掛けられて口に入りそうになる。


そして後ろも向かされて、顔を上げて目を開いた。

改めてそこに睦巳がいるのが信じられない、嘘だとしか思えなかった。

しっかり大きめのタオルを身体に巻いて見えないようにしていて、頭はアップに纏めていて風呂に入る準備は万端のように見える。


続いて身体も洗ってくれたのだけど、驚いた事に睦巳は手で洗ってきた、睦巳の柔らかい手の平が俺の肌を撫でる感触がとても気持ち良い、これもまた2つの意味で、より硬く臨戦態勢になる俺。

背中を万遍無く、しっかり手で洗ってくれて、それが終わると首や肩も洗ってくれて、はっきり言って、天国と地獄を同時に味わったような気分だった。

しかもなんか洗い方がやらしい気がする、洗うというよりなぞる、という言葉が似合うような手の動き、形を確かめるような硬さを調べるような手つき、そりゃあそうなる。


手と指を洗う際には特にそれを感じた。

細かく手の指の間まで洗うのは確かに隙間なく洗うという意味では正しい、しかし刺激が強すぎる。


そして睦巳本人もテンションが上がっていたのか調子がノリに乗っていたのか、勢いでタオルが外れた事にも気付かず、しかもそれを背中と腕に押し付けてきた、全てが包まれるような柔らかさに一部硬さを感じて、それが何なのか理解した。

直ぐに鏡を見たけど、それは見えず、そして直ぐに睦巳に声を掛けようと思ったけど、一瞬躊躇してしまった。しょうがない、あれをもっと感じたいと思うのは男として正常だと思う。


次に顔をあげた時には睦巳は湯船に浸かっていた、心臓の鼓動が煩すぎて周りの音があまり聞こえなかった。

しかしタオルは外したまま湯船に入ったらしい、大きなタオルが浴槽の脇においてある。

つまり今睦巳は裸なのか、裸かあ……睦巳のお陰で俺はずっと臨戦態勢のままだ、もしかしたら貧血になるんじゃないかと思うくらいな事になっている。


残りの部分を自分の手で洗っていたら睦巳に見られている状態では洗いにくい部位が残った。

一応余所を向いてもらうようお願いしてから洗い始めるけど、これヤバいな、全く収まる気配が無い。

どうしようも出来ないので対処は諦めた。


湯船に入る時、出来るだけ睦巳に接触しないように浸かった。

そして股間を隠しながら気付いた。

そういえば睦巳は1ヶ月前までは男だったから、別に男の身体に興味は無くて隠す意味必要は無いのでは?

いわば男の前で身体を隠すようなもので、別に見られて恥ずかしい身体してないし、と考えたら隠すのも馬鹿らしくなって隠すのを止めた。


そうなると気分が随分と楽になる、心の余裕が出てくる。

まあ臨戦態勢になっているのはちょっとアレだけど。

余裕が出てくると睦巳が気を付けさえすれば一緒に風呂に入るのも悪くないと思えた。

背中なんかの洗いにくい場所を洗って貰ったり、別に俺が睦巳の背中くらいなら洗えるし、うん、良いな。


一応湯船から上がる際には申し訳程度に手を添えて隠す動作はした、全然隠せてなかったみたいだけど。

でも睦巳のこの反応……もしかして男の身体に興味あるのか?じっと臨戦態勢のそれを見ている。

まさか……いや、あり得る。そう思った。


◇◆◇


風呂上がり、早速睦巳の膝枕のお願いに対して俺は新しい体勢を試してみた。

始め睦巳は文句を言っていたけど座ると意見を一変させた、相当気に入ったようだ。

それにこれはくつろぐだけじゃなくて、手や顔や足が比較的自由なのでイチャイチャも出来るというのが大きい、口づけを交わしたりして実感して貰う。


この如何にも恋人って感じの座り方、思っていたより良くて、俺も気に入った。


睦巳だけじゃなく俺も睦巳の身体に接触出来るし、匂いも感じられる、声もすぐ近くで聞けて、良い事だらけだ。

さり気なくおっぱいの感触も味わえるのも良い。

あぐらの足の上に座って貰う事で臨戦態勢になっているそれに接触されてないのも良い、接触されていたら暴発待ったナシだった。


さて、その後、風呂で感じた違和感、男への興味を聞いてみた。


まずは否定される、そこまでは想定内。

そこで俺は恥ずかしいし言うのに覚悟が少し必要だったけど、自分の感じ方、見え方を睦巳に話した。


どうやら睦巳は俺の意見も踏まえて元男の部分が否定されたり無い事の様に扱われるんじゅないかと不安なようだ。

当然俺にはそんな意図は無いし、男時代に積み重ねたからこそ今が有るし睦巳だと思っているので素直な俺の気持ち、考えを睦巳に伝えた。


改めて睦巳に頼られて甘える宣言をされた、正直凄く嬉しかった。

俺は今のこの関係を終わらせたくないと思っているからだ。


そして睦巳は俺の身体に興味があると言ってくれた、男ではなく俺の身体だからこそ興味がある、と。

それも嬉しい事だった。


◇◆◇


今日は本当に色々あった。

もう何度思ったか分からないけど、夏祭りの睦巳は一番の可愛さだった。

お風呂はまた一緒に入りたい、出来れば俺も洗ってやりたい。

何時でも何処でも優しく抱いて安心させたりイチャゃついたりしたい。


明日、もう今日になるか、日曜も何処か一緒に出掛けたい、そんな事を思いながらもう一度睦巳の感触を味わいつつ眠りについた。

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