二話 同情か、それとも優しさか

1

 ――誰かが呼んでいる。

 とても暖かい、大好きな声。だがそれは緊迫していて、何処か不安感を煽る。


『真姫、そっちへ行かないで』


 真姫。

 あぁ、そうだ。それが私の名前だ。

 私をそう呼んでくれる人は、この世に一人しか居なかった。大切で、温かくて、大好きな存在。

 だけど、もう居ない。

 もう居ないからか、時々忘れそうになる。

 自分の名前を。


『戻って来て、真姫、危ない』


 まるで水中から地上の声を聞いている様な。籠っていて、揺らいだ声だ。


『真姫』


 ――お母さん。

 青い、青い世界。見渡す限り青一色で、視界もぼやけていて何も見えない。

 お母さん、お母さん。行かないで。

 体に纏わり付く青の中で、必死に手を伸ばして、青を掻いて、大切な人を探す。だがどれだけ手を伸ばしても、見つからない。手は青を掻くばかりで、温もりを感じない。

 声を出そうと、口を開く。しかしその瞬間、ぶくぶくと泡が浮かび、青が私の喉を塞いでしまう。

 光なんてない、青い空間の中。

 私は未だ、そんな中を彷徨い続けている。

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