それからというもの、授業に全く身が入らないまま時間だけが過ぎてゆき、気が付いた頃には授業が終わっていて教室に先生の姿は無かった。いつの間に終鈴が鳴ったのだろう。それに気付かないという事は、半分意識が飛んでいたのかもしれない。

 次の授業まで十分程時間がある為、読書でもして時間を潰そう。読書家の私にとって読書をする時間は至福であり、唯一現実を忘れられる時間でもあった。

 深い深い溜息をついたのち、机の横に引っ掛けたカバンから一冊の文庫本を取り出す。そして本を開いた瞬間、本日二度目になる机への衝撃が走った。

 今度はなんだと隣に視線を向けると、視界に飛び込んできたのは女子の群れ。あまりに人数が多く、白川が女子に囲まれているのだという事を理解するのに時間が掛かった。どうやら、群がる女子の一人が私の机を蹴ってしまったらしい。


「――何処から来たの?」


「――白川くん、凄いかっこいいよね。恋愛する気無いって言ってたけど、本当にする気無いの?」


「――本当は彼女居るんじゃないの?」


 唐突に始まる、白川への質問攻め。白川が答える隙も無い程、女子達は質問を重ねに重ねきゃいきゃいとはしゃいでいる。

 その姿を例えるのなら、餌に群がるライオン、将又生まれたてのパンダを見に動物園へ押し寄せる客の様――だろうか。

 女子の隙間から白川の顔を覗きみると、面白い位に困った顔をしていた。一応、あんな自己紹介をしておきながらも質問に答える気はある様で、口を開いて何かを言い掛けては女子に遮られ口を噤む――を繰り返していた。

 せめて少しくらいは、白川の返事も聞いてやれよ。先程までは白川に対して腹立たしさを感じていたが、今は同情するばかりだ。


「――白川くんって、白雪姫みたいだよね!」


 群がる女子の一人が放った言葉。思わず、わかる、と頷きそうになってしまい慌てて女子の集団から顔を逸らす。

 やはり、私と同じ事を考えている人が居たのだ。その事実に複雑な感情を抱きながらも、読書に集中しようと本に視線を落とす。


「――白川くん連絡先交換しようよ!」


「――あ、ずるい! 私とも交換しよ、困った事あったら教えてあげる!」


「――私とも交換して!」


「――私も」


 煩いな。

 目で追う文章よりも女子達の甲高い声が耳に入ってきてしまい、もう同じ行を三回は読んでいる。

 白川と連絡先を交換しようと、我先にとスマートフォンを取り出している女子達を見ていると、普段何事にもあまり興味を示さない私ですら引いてしまう程だった。こんなにも騒がしい中で、読書なんて出来たものでは無い。

 次の授業まで、残り五分といったところだ。仕方ない。お手洗いにでも行って時間を消費しよう。本をカバンの中に戻し、静かに席を立った。


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