第11話 Agent file 《刹那》

 僕は、物心つく前からエージェントになるために技術や知識を教え込まれていた。


 そんなある日、僕は急に児童養護施設に移された。僕は頭一つ抜けていたので、実力が無いわけじゃない。やはり理由はわからない。


 そして移された施設には、様々な年齢の子供たちが数十人暮らしていて、それぞれ数々の事情を抱えていた。


 なのでほとんど性格に難ありで、接していてイライラすることも多かった。とても職員一人で受け切れない負担がかかっていることは明確だった。


 そしてそれによって発生したストレスは、子供に向かった。特に、目立たない子供に。


 しかも僕は、自分がそれに該当することに気付いてしまった。もうこれはどうしようもない。


 まずは愚痴を溢す程度の暴言だった。これは耐性があるので問題ない。


 次に本格的な暴言。事実無根の怒りを見せ、暴言を吐く。他の子供たちは巻き込まれないように逃げ、いつの間にか事実が書き換えられていた。


 ついには暴力。殴る、蹴る、叩く。次第に書き換えられた事実によって、子供たちからも暴力を振るわれるようになった。


 それによって職員の負担は減った。これが狙いだったのかもしれない。


 そこからは子供たちからの虐めだ。殴られて雨の中外に放置されたり、縛られて熱湯をかけられたり、トイレに顔を入れられて窒息死しかけたり、食べ物と寝床を奪われて死にかけながら野良猫と一緒に暮らしたり、生き埋めにされかけたり……


 それを見て職員は何もしないし、何ならその指示をすることもあった。


 運が悪かったのか、とにかく酷い施設だった。


 そんな日々が何年も続き、我慢の限界を迎えたある日、施設を視察しに大臣が来るという話を盗み聞いた。


 その日しか無いと思い、僕は脅してでもその偉い人に話を聞いてもらおうと思った。


 僕は施設を抜け出し、養成所で教えてもらっていた犯罪スポットに向かい、たまたまいた若い男からナイフを盗んだ。


 男は盗まれたことに気付いていなかった。


 後にその男が《閃光》だとわかった。


 そしてその日が訪れた。その日も酷い一日だった。


 当然ながら僕は大臣の前には出せないので、バックヤードの倉庫に閉じ込められた。だが、僕は養成所で学んだ技術で簡単に抜け出せた。


 そして大臣の目の前に現れた。もっと若いイメージだったがそうではなく、お堅い政治家にしか見えなかった。


 ――でも、言わないと……!


「どうした?」


 大臣が僕にそう質問する。


「……助けてください。毎日虐められて、僕はいつ死ぬかわかりません。こういうのをどうにかするのが仕事でしょ?」


 してほしいことをそのまま伝えたが、大臣は理解していないようだった。信じているものと違うものは受け入れにくい。


「ちょっとこの子、漫画が好きで、そのキャラになりきっているんですかねー」


 職員が背後から僕の肩を相当な握力で痛めつけながら、愛想笑いを浮かべて大臣にそう言った。


「なりきりなんかじゃないです!! こうやって、僕は……僕は……!!」


 ここで引き下がれば、僕はいつか死ぬ。少なくともこんな死に方はしたくない。


「想像力が豊かですねぇー」


 大臣は僕の言うことを信じようとしない。


「事実だって言ってんだろ!!」


 我慢出来なくなり、僕は職員の腕を退けて大臣に詰め寄った。


 あまりに近付きすぎたのか、大臣側のガードマンたちも前に出てくる。


「もういい……僕が終わらせる。自分で、この腐った場所を」


 この施設が無くなって他の子供がどうなろうが知ったことじゃない。これは僕が僕を守るための行動だ。


 僕はナイフを取り出して、これまで刷り込まれた技術でガードマンたちをかわして大臣を刺し殺した。ついでに職員も殺した上に僕を虐めた子供には一生忘れることができない恐怖を植え付けた。


 一瞬ともいえる出来事だった。


 そして僕は、ここに来た時に持っていた荷物だけを持って逃げた。


 逃げた先は、荷物の中に入っていた両親を名乗る人からの手紙に書いてあった家。行ってみるとそこは大豪邸だった。


 通称:黒薔薇城


 そう呼ばれる館に僕は逃げ込んだ。


 上手く逃げられたのはよかったが、それからどうするのかは考えていなかった。


 そんなところに来たのが、レーブンからの手紙だった。

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