冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

序曲

 三日月大陸の中ほどに存在する我がギラ国では、国民のおよそ95%が不治の病に罹患している。

 古今を問わず、国外からあらゆる医者や白魔道士が訪れたが、誰にも治せないどころか、彼らも病に侵されるという悲惨な結果を招いてきた。



 我が国が抱える、その忌みすべき不治の病。そう。「中二病」である。



「国家総中二病」


 我が国「ギラ」の国民性をこれまで的確に表した言葉があるだろうか。

 この国ではほぼ全ての国民が中二病を患ったまま生まれてきて、死ぬまで治らない。王族であろうが、魔法使いであろうが、農民であろうが、果たして物乞いであってもそれは変わらない。

 口を開けば、常に自分の状況を自己陶酔に満ちた言葉で飾り立て、どこから湧いてくるのか分からない自信で堂々とハッタリをかますのだ。


 街に出ればおびただしい数の中二病をお目にかかることができる。

 ここで以前、街に出かけたときに出会った平均的なギラの人々を少し紹介する。


 年頃の女の子同士の会話を聞けば

「忌々しい……我が肉体に宿りしスィー・ヴォウが力を増しているのだ。(訳:体重が増えた)」

 と顔をしかめながら言っている。


 道ですれ違うと

「貴様……この顔を忘れたとは言うまいな」

 と、絡んでくるおっさんが100m歩く毎に現れる。

 もちろん全員初対面である。


 病院の待合室に入ると常に2、3人の人々が闇の力に侵され、元気よく転げ回っている。彼らは


「静まれ……我が右腕よ、静まれと言っている……!」

「馬鹿な、暴走には早すぎる……! 何が起こっていると言うのだ!」

「ぐあっ。フフ……こうして身体を乗っ取られるのも悪くない」

「好き……」


 などと口々に発している。一応言っておくが、そこは精神科の病院ではない。




 何故このような痛々しい事態を招いているのかというと、それはこの国の成立に立ち戻らなければならない。


 元々、我がギラ国は闇の魔法使いが集まって作った小国である。

 地理上、昔から二大強国に挟まれた形となっており、常に侵略の憂き目にあってきた。どちらかの属国にでもならない限りは生き残れないような立ち位置だったのである。


 ところが我が国は独立を保ち続けた。ギラの最高戦力……通称「闇魔道士」達はめちゃくちゃ強かった。

 兵力差が100倍にも1000倍にもなる相手を打ち負かし続け、近代まで独立を保ってきた。数百年前からは隣国もギラにはほとんど手を出さないようになっていたようだ。


 つまり「波のように襲いくる数万の敵」を「建国以来磨き続けられてきた闇魔法の力」を使って「少数精鋭の魔道士」が撃退し続けた。


 その事実がギラの人々の選民思想に拍車を掛けた。自分も特別な存在であるかのように錯覚した彼らは、次第に中二病を発症し始める。

 最初は少数の人々だけだったのかもしれない。しかし中二病ウイルスはじわじわと拡大していき、今では全国民の95%が中二病を罹患するに至ったのだ。


 我が国を訪れる観光客の皆さんは十分に社会的距離(ソーシャルディスタンス)を取り、三密を避けていただきたい。



 で、このギラ国において中二病を発症していない俺は総人口中5%のマイノリティーにあたるわけだが、特に今まで何か不自由を感じたこともなく、一般的な農家の息子として過ごしてきた。


 もちろん周りの人や友達からは変わり者扱いをされてきた。(変なのはお前らである、と声を大にして言いたかった)だが特に差別やいじめを受けるわけでもなく、毎日のファーマー生活を謳歌してきた。


 あの日、ギラ国立アルスマグナ魔法学園に入学するまでは。




 変化は唐突に訪れた。

 漆黒のコートを着た男が、農作業をしている俺のところに音も立てずに現れ


「貴様か……」


 と言った。

 違います。



 しかし話を聞いてみると、あながち俺で間違いなかったようだ。

 彼はギラ国立アルスマグナ魔法学院のスカウトを務めており、優秀な素養を持つ子供を探しているのだと言う。

 そうして各地を探し歩いているとき、とんでもない魔力を感知してこの村にやってきた。その中心に居たのが俺だと言うのだ。


「貴殿さえ良ければ我が校に迎え入れたい。もちろん入学費、学費共に免除する」


 家族は大いに喜んだ。お国柄もあり、学園を卒業して闇魔道士になれれば、国民からの尊敬を一身に負う存在になれる。給料を初めとした待遇も相当のものだと聞く。

 それにアルスマグナ魔法学園と言えば歴史も古く、代々、名だたる闇魔道士を輩出してきた名門中の名門である。

 そこに無料で通えるなんて、まさに夢のような話なのだ。


「我が半身、クラウス・K・レイヴンフィールドよ。喜べ! 貴様の人生は祝福された!」

 母さんが俺の肩に手を置いて言う。

「征(ゆ)け……」

 父さんは目を閉じ、静かに言った。何度も言うが我が家は農家である。すべからく農民である。


 しかしもしこれが本当の話なら俺の生活も、将来的には家族の生活も一変する。もう父も母も汗水垂らして農作業をする必要も無くなるだろう。


 俺は腕組みして考えてみた。そもそも俺はほとんど村から出たことさえ無かったので、魔法学園がどういう場所なのか分からない。ただ、村に入ってくる真偽不明の断片的な情報によると、魔法学園では魔法を上手く使える奴がモテるらしい。

 モテる奴には毎朝、下駄箱にはヤギに食わせるほどラブレターが沢山届いていて、時期が来れば致死量に達するほどのチョコレートが机の中に詰め込まれているという。


 そう考えると俺のモチベーションはかなり高くなって来た。うちの村にはあまり可愛い子がいない。大根のように色の白い子はいるが、そういう子は大抵顔まで大根にそっくりである。一度、近所の女子だと思って話しかけたら天ぷらだったこともあった。


 しかし、魔法学園に行けば、今まで大根に毛が生えたような女の子しか見た事が無いような俺には想像も付かないような女子達がいるに違いない。


 俺は考えてみた。乏しい想像力を駆使して魔法学園での生活を空想してみた。


 魔法の才能がある俺はモテるるんだろうな。国中から少女が集まっているからには、一日に千人くらの女の子から告白されるかもしれない。毎日下駄箱がラブレターとチョコレートで一杯なっているかも。そうなったら毎日ヤギと一緒にラブレターを食べなければならない。食べ切れるかな。

 いや待てよ。手紙なんてまどろっこしいことなんかしなくても、直接好意を伝えてくる子もいるんじゃないか?

 ひょっとしたら下駄箱の中に何人か女の子が待機していて、俺が登校すると同時にニュルニュル出てきたりするんじゃないか?


 色んな好意の伝え方があるだろう。学校に着くと、女子の手によって机の上に花瓶が置かれていたり、寄せ書きがしてあるかもしれないし、机の中にパンが詰め込んであるかもしれないし、その詰め込んだパンを食べながらニュルニュルと女の子が出てくるかもしれない。


 それからそれから、お弁当を作ってきてもらったり、「あーん」してもらったり、腕毛を毟られたり、あんな事やこんな事やデュフフフフフ!!!


「分かりました。入学します」

 こうして1%の家族の未来と、99%の下心によって、俺はギラ国立アルスマグナ魔法学園に入学する事を決めたのだった。


 さあ、元農民だけど魔法学園にスカウトされた俺が最強の闇魔道士になるまでの道が、今始まる!

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