第3話
「ねぇ、リビィ。明日デートしましょう」
「う、えぇ?」
返答とも思えない声が漏れた。
アルフレッドの腕の中で、ゆっくりと髪を梳かれる恥ずかしさに悶えていたせいもあり、正確に言葉を認識できていなかったということもある。
「だって、明日から2日間もお休みでしょう?せっかく恋人同士になったのに、2日も会えないなんて…」
じっとアルフレッドに見据えられる。
えぇぇ?アルフレッドってそんなこと言う人なの?
男の人を形容するのに失礼かもしれないけど、だけど、ほんの少しだけ、ほんのちょびっとだけ、……かわいいと思ってしまう。
「い、良いけど…どこに行くの?」
私から肯定の返事を引き出せたからだろう。嬉しそうにアルフレッドの目が輝く。
…だから…かわいいなぁ、もう。
「義母の誕生日がもうすぐなんです。プレゼントを探すのを手伝ってもらえませんか?」
「へぇ、親孝行なのね」
「……」
そこで少しアルフレッドが沈黙する。あれ?と思うと、少し迷うようにアルフレッドは言う。
「義父はちょっと度が過ぎるほど義母が好きで…誕生日の祝いなどをきちんとしないとうるさいんです」
その言葉に私は遠い目をする。
あぁ…。愛が過ぎて、商会まで立ち上げてしまうほどですものね…。でも、そうね。誕生日の祝いなら、何がいいかしら。形に残るものの方が良いわよね。
「義母さんはお幾つなの?」
「次の誕生日で、32歳です」
「……若くない!?」
思わず体を起こす。ちょっとびっくりした。だって、子供に恵まれないって養子を取るくらいだから、もう少し…。え?ちょっと待って、ということは、アルフレッドが養子に入った時、まだ義母さんは20代だったのでは?
目を白黒させる私に、アルフレッドは少し気まずそうに言う。
「義父は結婚して10年間子供ができなかったので、開き直って、子育てに煩わされないくらいの大きな養子を取り、さっさと隠居して妻とのんびりしたいと思っていたそうで…」
「そ、そう…」
「まぁ、幼い子供を引き取ると、養育に妻の関心がとられることが嫌だったのだろうと思います」
おかげで、後継者教育が死ぬほど詰込み型でしたけどね…と、アルフレッドは遠い目をしている。
なんだか、極端な方なのね、オーエンス伯爵って…。
アルフレッドは15歳で学園を卒業し、同時に養子縁組をしたという。そして、16歳の成人に合わせて、伯爵家主催の夜会で養子になったことのお披露目を行ったそうだ。ちなみにアルフレッドは学園卒業時には、さらに1つ飛び級して18歳までの人が受ける高等教育まですでに終了していたらしい。そんな秀才のアルフレッドが、遠い目をするほど、伯爵の詰め込み教育は苛烈だったのだろうか。
まぁ、お披露目まで1年もなかったんだものね。
ちょっと、アルフレッドに同情してしまう。でも、伯爵がとても愛妻家だということは分かったわ。気を取り直して、アルフレッドの義母の誕生日に話題を戻す。
「ちなみに、義母さまどんな方なの?」
「…そうですね、妖精のような人です」
アルフレッドの答えに、そんなに綺麗な人なのか…と少しもやっとする。
ちょっと私の顔が曇ったことに気づいたのだろう、アルフレッドが私に目をやり苦笑する。
「あぁ、容姿のことではなくて…その、思考が少し」
アルフレッドはそう言葉を濁した。
んんんんん?だんだんと、オーエンス伯爵家の人たちが分からなくなってきたわ…。
まぁ、何を買うかは明日うろうろしながら考えましょう。
「では、明日。家まで迎えに伺いますね」
にっこりと笑うアルフレッドと別れ、そして、家に帰って大切なことに気付きがっくりと膝をついた。
(…しまった!)
デートになんて着て行けるような余所行きの服、持ってない…!
私は、急いでクローゼットからすべて服を出して、腕を組んだ。全部出したって、私服は4着しかない…。例えお針子の三倍のお給料を貰うようになったって、これまでの極貧生活で溜まりに溜まった
それに私は別に自分を犠牲にしているつもりはない。
私自身は15歳まで、貧乏とはいえ伯爵家の恩恵を受けて育ってきた。学園にも通わせてもらって、教育も充分与えられた。それなのに、ミシェルは、生まれてすぐに平民となり、ずっと苦労をさせている。だから、私は私がこれまで受けてきた恩恵の少しでも彼女のために差し出したいと思っている。そして、この家に生まれてきたことを、せめて後悔しないでほしいと思っているのだ。
…とはいえ、切羽詰まった現状に頭を抱える。
(あぁもう、せめて前もって約束してくれたら、服を買いに行ったのに…!もう時間がない!)
夜遅くまで悩んだところで答えは出ない。私はアルフレッドを恨めしく思いながら、眠りについた。
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