第11話 配信って、ぶっちゃけ『労働』ですし



「え──」

「はあぁぁああああああああっっっっ!?!?」


 黒縁ぐらす氏が唖然とした。

 そして高山愛里朱が絶叫した。


「ちょちょちょちょちょっっっ、佐々木さんっ、さっ、さっ……佐々木ぃっ! 所属希望者になんてこと言うのっ!? 謝りなさいっ! 謝りなさいって!!」


「うるせぇぇえええええええええええええっ! なんでお前のほうがリアクションがデカいんだ!? ぐらす先生まだ一文字しか喋れてないぞ!?」

 俺も思わず叫び返してしまった。あやうくツノが取れるところだった。俺、マク様なのに。

「──こほん! あー、すみません……。語弊がありました。『配信やめてみませんか』っていうのは決して『引退しよう』って意味じゃないんです。その……なんていうか……目的を変えてみませんかという意味で……」


「目的ですか……?」

 と黒縁ぐらす氏が、眼鏡の奥から不安げに俺を見る。


「ええ。俺の経験上、配信すること自体を『目的』にした配信者は絶対に病みます」

 俺は指を──いや、萌え袖をぴんと宙にたてて言った。

「こう言っちゃなんですが……配信って、ぶっちゃけですし。視聴者からの反響だって良いものばかりじゃないから、ストレスが溜まるじゃないですか」


「ええ、まあ、たまには……」

 と黒縁ぐらす氏は言葉を濁して呟いた。


超々々ちょーちょーちょーわっかるマンでーす!」

 と高山愛里朱は激しく頷いた。

 ……なにがあったの貴女あなた


「だから、配信や創作はあくまで『手段』であったほうが健全なんですよ」

 俺は銀髪の奥から黒縁氏を見つめながら続ける。

「『目的』は原始的であれば原始的であるほどよくて、例えば『稼いで贅沢するため』とか、純粋に『楽しむため』とかなら最高です。それさえ見つめなおせれば、活動自体をもっともっと『目的を達成するため』に特化させたり、そもそも活動の内容自体をまるまる変えてしまったりしやすい。配信はもっともっと、やる意味を見出しやすくなります」


 黒縁ぐらす氏は俺の話に耳を傾けながら、両手を揉むように動かしている。

 迷いが見てとれた。

 彼女にとって配信や表現活動は、やはりとても重い意味を持つのだろう。

 定義や捉え方すら、動かしにくいほどに。


「泣くほど辛いなら、まずは黒縁ぐらすさんが配信を始めたきっかけを──根本の理由や、原初の成功体験を、思い出してみたほうが良いです。そもそも──」


 俺はその先の言葉を躊躇する。

 しかし、躊躇なんて今更すぎると思い直した。

 俺はさっき、彼女の人生に踏み込むと覚悟を決めたじゃないか。


「──そもそも、あなたは、なんで創作を始めたんですか?」


「ちょ……ちょいちょい佐々木さん! ちょっと熱が入りすぎだって! あ、あはははっ!」

 高山愛里朱が苦笑いをしながら、パタパタと両手を振って俺を制止した。

「初対面でそれはさすがにじゃないかなぁ!? 他人が簡単に触っていいコトじゃないってばっ!」


「……た、たしかにだねぇ……」

 俺は恥ずかしくなって肩を落とした。

 他人に真面目にたしなめられたら、速攻でしょげる。

 俺の覚悟なんてこんなもんです……

「……すみません、ぐらす先生。俺、熱くなりすぎました」


「あ、あはは……いえ、いいんですよ〜〜……」

 黒縁ぐらす氏は弱々しく、疲れたように笑った。

「自分を見つめ直すいいきっかけになりました。佐々木さんの言う通りです。確かに、私、どうして絵を描き始めたんだっけなぁ〜〜……」


 そしてまた、黒縁ぐらす氏は両手をぎゅっと握り込む。

 自分の内側に視線を向けて、彷徨っているのが伝わってきた。


「あはは、ダメだぁ……ちょっとパッと思い出せそうにないですねぇ〜〜……」


 まあ無理もない。

 こんな短時間で見出せたなら苦労はしないだろう。


「ふぅ。時間も経っちゃいましたし、今日はこれくらいにしておきましょうかっ!」

 高山愛里朱が、パンッ、と両手を叩いた。

「少なくとも配信の改善案はお持ち帰りいただけそうですし。もし配信がうまくいって、また会ってやってもいいかもなーってなったら、ぜひご連絡くださいねっ! 所属検討もぜひぜひっ!」


 確かに。

 時計を見れば面談時間は1時間を軽く越えていた。

 YouTubeチャンネルの分析に時間を割きすぎたようだ。


「あ、解散するなら、ちょっとだけお待ちください」

 俺は、ばちゃばちゃとPCにレポートを打ち込む。

「もしかしたら参考になるかもしれないので、今日語れなかった俺の雑感もDMに送っておきますね。アナリティクスを拝見した時に、『ジャンルのブレ』以外にも、視聴データに軽いノイズが観測できたんです。視聴者に人気のあった特定の箇所シーンって感じでしたね。そこへの俺の見解とアクションのアイデアを記載しておきました。後ほどご覧になってください」


 それから十数分ばかり。

 高山愛里朱がV-DREAMESブイ・ドリーマーズの紹介をして、俺たちは解散することになった。


「長時間ありがとうございました」

 ぺこり、と黒縁ぐらす氏は丁寧におじぎをしてくれた。

 表情には疲れが見えたが、明るくはあった。

「いろいろ参考になりました。ちょっとまあ、いろいろやってみます」


 こうして俺たちの最初の面談は終了したのだった。




――――――――――――――――



 今回もお読みいただきありがとうございます。


【絵師系VTuber・黒縁ぐらす編】、

 明日からの2話が事実上の最後のお話です。


 本当は明日でおしまいの予定だったのですが、ちょっと長くなってしまったので2話に分けました……すみません。

 本作は(できるだけ)毎朝7:00に投稿しますので、ご期待いただけると嬉しいです。


 果たして、ぐらす先生の迷いは晴れるのでしょうか。


 そして【黒縁ぐらす編】完結後は、いよいよ佐々木蒼の前職、オーロラ・プロダクションに再びスポットライトがあたる予定です……!

 そちらもお楽しみに!


 続きを書くモチベーションになりますので、

 引き続きフォロー&☆&コメント&♡で応援いただけますと嬉しいです……(欲張り)。



【追記】

2023.07.23現在

週間・現代ドラマジャンル

ランキング4位ありがとうございます…!

たくさんの人にお読みいただけ光栄です。。

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