第15話 戦闘

 襲撃者を睨むジェイド。彼が持つ銃は、ミソール達が持っているライフルではなく、片手でも扱える短銃、ピストルだった。


「俺の腕を……」


 襲撃者は、影の分身を出すと、ジェイドに向けて放った。影は黒い手に黒い剣を持っている。影といえど、不思議な事に触れる事が出来、影の武器に斬られれば本当に傷を負う。兵士達は苦戦を強いられていた。


 ジェイドに向かって来た影が、剣を持った右腕を振り上げる。その動きは人間よりも速い。すぐに剣の間合いにジェイドが入ってしまい、スッパリと斬られてしまう。


 ドンッドンッドンッ!!


「なっ……」

 襲撃者も目をみはる。自分の影が、ボロボロと崩れていく。黒いちりの向こうに立つジェイドが、迷いなく引き金を引いたのだ。


 ドンッドンッドンッ!!


 立て続けに三発。それは本体である襲撃者の背中を狙っていた。さすがにまずいと感じた彼は、イオリの首から手を放し、右に飛びのいた。先に飛ばされた右腕を取りに行く。かぶっていたフードが後ろにめくれた。黒い髪の毛が波風に揺れる。やはり、イオリと変わらないくらいの若い男だ。

 放たれた三発の銃弾はイオリの体すれすれを通り、船の手すり部分の板に当たる。普通の銃弾なら弾の痕の形に穴が空くはずだが、彼の弾は着弾すると爆発したようにはじける。三発当たった板は粉々になってしまった。

 そして、イオリも顔を真っ青にしている。少し頭を上げていれば、顔が吹っ飛んでいただろうから。

(いっそ、気絶したい……)

 意識を手放せればどれだけ楽か。神経がビリビリと過敏になっているので、気を失うという境地へ行けないイオリだった。


「ジェイドっ、もうちょっと気を付けろよ。イオリに当たる所だったぞ!」

 指令室からジェイドと一緒に駆けつけていたルクスが注意する。

「そんなヘマしねぇよ。イオリを頼む」

 それだけ言うと、ジェイドは襲撃者へ向かって走り出した。ルクスはやれやれと首をふりながらも、イオリの元へ。

「大丈夫?」

「は、はい……」

 涙目になっているイオリを起こし、素早く剣を抜いたルクス。ミソールに襲いかかっていた影を後ろから両断した。

「副大隊長!」

「イオリを守れ!」

「はっ」

 ルクスは他の兵の所へも走っていく。彼の剣の腕も一流だ。兵と二人がかりで影を一体倒すと、手の空いた兵も他の仲間を助けに加勢する。ルクスが形勢を逆転させていた。




 襲撃者は、落ちた右腕を元の腕へあてがうと、瞬時に右腕を復活させてしまった。持っていた金属バットを振り抜く。ガキィッ! と大きな音が響く。ジェイドが左手に持った自分の剣でバットを受け止めたのだ。刃こぼれするので刃の腹の部分でバットを止める。右腕も使って押さえ、襲撃者と距離を詰めた。

「てめぇは何者だ」

「言う義理はねぇ」

 唸るように交わされる二人の会話。周りの戦闘音がうるさくて、イオリの耳には届かなかった。

「イオリの家族はどうした。殺したのか」

 襲撃者はにやりと笑みを浮かべる。

「さぁねぇ。俺はあの女にしか興味はねぇ。周りの人間がどうなろうと、知ったことか」

「!」

 ジェイドは全身に力を入れると、襲撃者を突き飛ばした。距離が空いた隙に銃を構え、引き金を引く。


 ドンッドンッドンッドンッ!!


 超至近距離での射撃。男は金属バットを盾のように形を変形させ、ジェイドの攻撃を防いでしまった。盾は衝撃でボコボコにひしゃげている。

「何でそんなに弾が出んだよ。装填そうてんしてねぇだろ!」

「てめぇに言う義理はねぇ」

「そうかよっ!」

 ジェイドが左手に持つ剣を突き出す。襲撃者は体を反らして突きをかわした。しかし、ジェイドの剣はまだ止まらない。キンッ、と両刃が縦に回ると、真っ直ぐ振り下ろしたのだ。襲撃者の右肩からばっさりと切り落とす勢いだ。そして右手の銃も男をとらえている。

「ちぃっ!!」

 ドンッ!

 男は体を回転させ、左手でジェイドの剣を外側へ弾いた。発砲された一発は背中をかすり、小さな爆発が起きる。背中に焼けるような痛みが走った。

「行けっ!」

 男の短い命令で、ジェイドの視界が真っ暗になってしまう。彼の影が盛り上がったのだ。緊急だったので、影は形を成しておらず、煙のように視界を遮るだけだ。

「っく!」

 ジェイドは後退せざるを得なかった。それでもまとわりつく影は離れない。男の姿は影のせいで見えない。再び銃を構え、蹴散らそうとした時だった。



 びゅんっ!


「!?」

 横に伸びる金属バット。それは杭のように先を尖らせ、左へと伸びていく。その先には、イオリが。



「イオリっ、逃げろ!!」

 ジェイドが叫ぶ。


「えっ!?」



 イオリは、突然の事で動けずにいた。

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