Roaring 44. 大戦で魔力を失ったと言ったが――あれは嘘だ




「貴様……ドウシテココニ……。我ノ対物結界ハ……」

「結界って……あれのことか?」


 ダーティが親指で示した背後には、力づくで破壊され、パラパラと剥がれ落ちていく虹色の壁があった。その大きく広がっていく隙間の周囲には、箒に乗った〈闇狩り〉とFBIの対魔術師機動部隊が集結して突入を始めている。


「クッ、コンナ簡単ニ……。ナゼダ……貴様ハ、タシカ……魔力ヲ失ッタハズ……」

「大戦で魔力を失ったと言ったが――あれは嘘だ」


 ダーティはホルスターから〈コルト・サラマンダー〉を抜くと、銃身がぐにゃりと溶けて、やがて一本の杖に姿を変えた。


「オ……オリハルコンノ杖……。アトランティス大陸ニ眠ル……伝説ノ金属ダト……マサカ、実在シテイタノカ……」

「解説どうも」


 ダーティが降下しながら杖を振ると、魔法陣が強制的に上書きされ、次元の門が閉ざされた。ついでにウィルバー弟に押さえつけられていた緑色のラブクラフト(兄)と、磔にされていた傷だらけのラブクラフト(妹)を解放する。


「門が完全に開く前でよかった。……てか、なんでムキムキになってんだよ、お前は」

「だ、ダーティさん……来てくれたんですね!」

「まあ、お前の妹にター・リキ・ホンガンされちまったからな。いいか、女の子の頼みってのは、なんだかんだ断らないほうが身のためなんだよ」


 ダーティはラブクラフト兄妹を後ろに庇うようにしてウィルバー兄弟と対峙し、人質たちを一瞥した。その中に唖然としている弟子の姿を見つけ、杖を振って猿轡を解く。


「よう、アメリア。無事でなによりだ」

「だ、ダーティさん! 一体、どうして……」

「いや、話せば長くな――」

『アアアアア――ッ!!』


 瞬間、鼓膜を震わせるような衝撃波が議会堂を襲った。大きく振りかぶった怪物の一撃が見えない壁に防がれたのだ。生身の人間が受ければ一撃でミンチになるほどの攻撃が繰り返されるが、ダーティの防御膜シェルターはビクともしない。


「……へぇ、そいつおもしろいな。普通、俺の防御膜シェルターに触れたら自壊するはずなのに……。この世界とあちら・・・側の狭間にいるのか。物理攻撃は効かないだろうが、それなら対象は簡単だ。要はあちらとの接続を切り離せばいいんだからな――イグナイイ……トゥフツトゥクングア……ヘフイエ……」


 ダーティが小さく呪文を唱え始めると、怪物が身震いを始め、やがて地の底から響くような声は絶叫に変った。


『……アア、兄者……エエ・ヤ・ヤ・ヤハァァァ……ングアアアアアアア!』

「……クッ……舐メルナヨ……ッ!」


 ウェイトリーはギリッと歯を噛み締めると、全身に力を込めた。大男の筋肉が盛り上がり、悪臭を放つタール状の黒い血液にまみれた鱗によって全身が覆われる。まるでグロテスクなリザードマンのような格好になった男は、その裂けた口を開いて不敵に笑った。


「ウォオオオオオオオ! 私ハ……変身……ソノ度ニ、チカラヲ増スノダ……。ソシテ、ソノ変身ヲ……アト二回残シテイル――コノ意味、ワカルカ?」

「わかるけど、俺は待たないぞ。最初から全力を出さない奴が悪いんだからな。お前らの敗因はただ一つ――」

「ナッ、ソンナ……馬鹿ナ……コノ、チカラ……」

「俺の可愛い弟子と仲間に手を出したからだよ、この大馬鹿野郎が!」

「グッ……グワァァアアアアア!」


 決着は一瞬だった。ダーティが放った強制失神の呪文に貫かれ、ウィルバー・ウェイトリー(第二形態)が気を失うのと同時、魔封じの呪文によって現界との接続を断ち切られたウィルバー弟も絶叫して、やがて宙に溶けるように消滅していった……。



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