Roaring 32. 怪しいラジオ放送


「だっはーっ! ただいまアイム・ホーム!!」


 なんとか無事に着地すると、ダーティはぐったりとした毛皮の少女を小脇に抱えて事務所に駆け込んだ。

 ボロ屋敷は強風でみしみしと音を立てていたが、前に塗った防水ペンキの効果があったのか、雨漏りはしていないようだ。天井板が吹き飛ぶ可能性はあるが、今夜は持ち堪えられるだろう。

 ダーティは急いでお湯を沸かしてバスタブを満たした。新しいタオルと着替えを戸棚から出して、アメリアに差し出す。


「ずぶ濡れだろ。先に入っていいぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 アメリアが風呂に入れている間、ダーティはどこからか受信機とスピーカーを引っ張り出し、ラジオの準備を始めた。一般に普及している真空管ではなく、ギャツビー邸で埃を被っていたフェデラル社の初期型の魔石ラジオだった。出力は弱いが、使えないこともない。


『……ダ……緊急……ザー……』

「なんだ、感度が悪いな……。ちゃんとしたの買えばよかったかな……」


 ザラザラとした雑音混じりで、なにを言っているのかわからない。アンテナの位置を変えたり、内部の配線を少しいじったり試してみるが、やがて放送はブツっと途絶えた。無音のまま、なんの反応もない。放送が途絶えたのか、あるいは内部に異常が生じたのか、まったく手に負えなかったので、ダーティは早々に白旗を上げて酒でも飲むことにした。


「畜生、機械ってのは、肝心なところで役に立たないからな……」

「あの、終わりました……」

「おっ、そうか! 疲れただろ、今日は早く寝ろよ!」

「あ、あの……」


 アメリアが引き留める間もなく、ダーティは一目散にバスルームに駆け込んだ。

 その時、ラジオから再び雑音が流れ出した。



『……ンガイ・ングアグアア・ブグ・ショゴグ……ヨグ=ソートス……イハア……』



 地の底から響いてくるような呪詛のような声だった。まったく意味をなさない掠れた音節の連なりは、なにか異国の言語を用いた召喚呪文のように聞こえなくもないが、今は翻訳魔法を使って分析しようという気にもならない。

 次第に聞いている内に、どこか気味が悪くなるような気がして、アメリアは電源を切った。



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