Roaring 19. ダーティ昼飯すっぽかし事件




「おや、あれは……」


 白いワンピースに麦わら帽子を被った女が歩いているのを見て、ジェームズ・ギャツビーは愛車のシルバーゴーストを減速して路肩に止めた。


「やあ、デイジー。元気かい?」

「はあい、ギャツビー。いつも通り、最高よ。幸せ過ぎて麻痺しちゃうぐらいにね」

「そりゃよかった。ダーティのところに行った帰りかい?」

「ええ。明日からバカンスで地中海にいくから、行く前にお土産でも聞こうと思ってね。でも、家の中に誰もいなかったの。鍵は開いてて、洗濯ものも干しっぱなしだったんだけどね」

「へぇ、それは珍しいな……」


 それを聞いて、ギャツビーは訝しげに眉をひそめた。


「あなたもダーティに用事?」

「じつはランチに誘ってたんだけど、どうやら約束をすっぽかされたみたいでね」

「えっ、嘘でしょ。ダーティがランチを?」

「そう、あり得ないだろ?」

「ええ。あの万年金欠腹ペコ青虫が昼食をすっぽかすなんて……もしかして、なにかあったんじゃないかしら」

「かもしれない。ひとまず僕はダーティの家に行ってみるよ。君はどうする?」

「いくわよ、もちろん!」


 言うか早いか、デイジーはひらりと助手席に飛び乗った。


「ダーティ昼飯すっぽかし事件ね。おもしろくなってきたわ!」


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