第26話「逆NTRに憤怒して、勝手に覚醒しちゃいそうになる聖女様」

「こ、これはまさか、以前書物で見た至高の伸びしろジャンル、逆NTRと言うものでは――」

「落ち着けアレクサンドラ。これは誤解だっ。と言うか、どっから出したんだよ、今の声!」

「わたくしがお着替えで席を外してから約五分……そのわずかな間に、見知らぬ半裸の女性と乳繰り合うなんて少々展開が急転直下ジェットコースター過ぎますわッ!」

「げ!!!!」


 ゴゴゴ……と言う地鳴りを響かせ、アレクサンドラの周囲に鈍い炎が立ち上る。

 この前兆は、!?

 たとえ慈悲深い聖女と言えど、時に怒りや悲しみを爆発させることがある。その半ばイレギュラーな感情は、新たな才を開花させる引き金にもなるのだ。


「お、おい! 勝手に覚醒すんな!!! ステータスに覚醒ボーナスが付与されちまう! 賢くなっちまうだろうがッ!」

「そもそも、ご主人様といかがわしい行為をして良いのはわたくしだけです……!」

「いかがわしい行為なんて一切合切してねぇぞ。それにコイツは見知らぬ女じゃねぇ。よく見ろ!」

「入っている部分や乗馬のような腰使いを見て後学のための参考にしろ、とでも? どこの馬の骨かも知らぬ痴女の動きなど、参考にする必要性すら感じられませんッッッッ!!!」

「乗馬だけに馬の骨とか、さりげなく上手いこと言ってんじゃねーよ!」


 そもそもアレクサンドラにとって、ビキニアーマー姿のマリアは完全初見。

 ましてや背を向けている構図となれば、全くの赤の他人が俺を襲い、既成事実を作ろうとしているとしか見えない。


「しかたがありません。降りかかる火の粉は払わねば。大いなる聖女の怒りで、不埒な心ごときれいさっぱり消し炭にして差し上げます!」

「そのスキル、攻撃範囲広いから止めろ! 俺も食らっちゃうから! 消し炭になっちゃうから!!」

「問答無用!」


 見たものを震え上がらせる獣のような鋭い眼光と、両手を上げて覆いかぶさんとする荒ぶる聖女のポーズは、それまでの控えめ(?)なアレクサンドラのイメージを根底から覆す。


(まずい! このままではプラチナメイド服を着たレベル1クソザコ聖女の手痛い一撃で俺の冒険が強制終了されちまう! まだ着こなしを見てないんだぞ! 悔恨が残るじゃねぇか!!)


 何か手は。手はないか?

 だいたいマリアのヤツも恵体が過ぎるんだよ! 鍛え上げられたムチムチの太ももでがっぷり四つに組まれては身動きすら取れねぇ!

 おまけに、重力に従う二つの膨らみが俺の顔面をもれなく覆い、視界を遮るのみならず呼吸すらままならない状況なのだからどうしようもない。


(もが、もが……! ふが、ふが……! んぷ、おぷ……!)


 劣勢! まさに劣勢!


 女特有のココナッツのような甘い香りにまじって、ビキニアーマーから滲み出る革の匂いと、ほのかに感じる汗臭さが三位一体となって襲い掛かってくる恐怖!

 その一方、息を吸おうともがけばもがくほど食い込んでくる柔肉の感触に至福のひとときを覚えながらも、俺は知恵を絞る。絞りまくる!


(こういうときはアイテムだ! 困ったときは惜しみなくアイテムを使えとオヤジもよく言っていた! タキシードのポケットになんか入ってないか!?)


 無我夢中でポケットを探ると――触れたのは、怪しげな粘り気をまとった葉っぱ……?


(この独特の手触りは……破壊樹の葉! そうか、この状況を打破するには、アーマーブレイクするしかねぇ!)


 え? ビキニアーマーはすでにアーマーブレイクしているようなもんだろって?

 馬鹿言え! 全然違うだろ! 分かりやすく例えるなら、パンツがチラチラするからパンチラであって、パンツがもろに見えていたらパンチラじゃねーんだよ!!


 え? せっかくカジノで手の入れたレアアイテムをさっそく使うのはもったいないって?

 馬鹿言え! アイテムは使ってこそアイテムだ。未熟な冒険者ほどラストエリクサー症候群に陥り易いが、勇者ともなれば使いどころはわきまえてるんだよ!!


(そう。まさにだってな!)


 と言うことで、本家のアーマーブレイクってやつを拝ませてもらうぜ。もちろん実際に使うのは俺も初めてだけどな。


「ほらほらぁ、早く観念しないと関節決めちゃうわよ~ぉ? ま、その前に窒息させちゃうけど~ぉ……」

「もが、もが……! ふが、ふが……! んぷ、おぷ……!」


 関節? 窒息? 場合によってはご褒美にも思える行為だが――俺が顔騎屈服したら、それこそ勇者としての名折れ。


「ん、んん……」

「ぇ~ぇ? なにか言ったぁ? もしかして、ギブアップぅ~ぅ……? ぷぷぷぷ」

「ンなわけねーーーーだろうが! 寝言は寝てからいいやがれッ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぇっ、ぁっ、ゃアアんッッッ!」


 クワッ!


 まるで獅子が目覚めるように――気高く開眼した俺は、マリアの上半身を力任せにひっぺがえす!

 それだけじゃねぇ。尻餅をついて油断している隙を狙って、ヤツデを模した破壊樹の葉っぱを投げつける!


 びしっ……!


「なぁにこれ? 葉っぱ……? もうっ、こんな子供だましのいたずらにビックリするほど、修羅場をくぐってないんだからねッ!」

「子供だまし? そいつぁ偉い勘違いをしてやがるぜ」


 フレーバーテキストによると、この破壊樹の葉は投げつけてから効果を発動するまで時間差(ラグ)があるらしい。

 どうやら、ブレイクするまでにスマホを用意したり、鑑賞する準備を整えるためのものらしいが、まったく痒い所に手が届く素晴らシステムじゃないか。


「そう。お前に投げつけた葉っぱは子供だましじゃねぇ。立派な大人だましだ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 未だ余裕の笑みを浮かべ、性懲りもなく這い寄ろうとするマリアが、約束された恥辱と羞恥にまみれるまで、あと三秒。

 三、二、一、と指折りカウントダウンを進めるこの瞬間が何よりたまらねぇ!


 そして待望のゼロの合図と共にスマホを構えた超至近距離で展開される、飛び散り、弾け、揺れる大迫力大パノラマの鎧破壊アーマーブレイクたるや、まさに感動の一言!


 ビキッ、バキッ、ズガァァン! 

 ぷるんっ、ばるるんっ、ほよんほよんっ!


 決して大げさじゃない、奇跡のオノマトペオーケストラもまた凄い!


「きゃああああああああああああああああ!?」


 起死回生の一撃がもたらしたのはサービスシーン! すでに半裸のマリアが全裸になる瞬間を包み隠さず捉えた、ドライアイを誘発する珠玉のサービスシーンだった!


「おほっ♪ さすがは破壊樹の葉、効果は申し分ないぜ! ちゃんと鎧だけを綺麗に壊してやがる」

「な、なにこれっ! いったい何が起きたの?」

「おっと。なぁに腕で乳を隠してるんだよ。ほとんど裸みたいなカッコウしてたんだ。今さら恥ずかしがることないだろ?」

「恥ずかしがるわよバカァアアアアア!」


 こういうとき、とっさに上半身を隠すのは処女。下半身を隠すのは非処女と相場が決まっている。

 マリアが胸を隠したと言うことは、後は分かるな?


「体のありとあらゆる部分まで舐めるように見られて……ああっ、もう私お嫁にいけないッ!!!」

「そりゃ残念だったな。ま、気が向いたら貰ってやるよ」

「気が向いたらじゃなくて、今すぐ貰いなさいよ――ぁひっ!?」

「ん?」


 ちら、ちら、ちら……。


 アーマーブレイクされてもなお、ギャーギャーわめくマリアの周囲で、さりげなく主張する白く冷たい何か。


(雪か……)


 先程よりも強く降り始めた粉雪が、まるで俺に助太刀せんと言わんばかりにマリアの無防備な谷間渓谷に容赦なく降り注ぐ。


 ぴとっ、じゅわ~~~。


「きゃぅ゛ふにゅぅ゛ンぉほぉ゛んッッッ!? ちゅめひゃふぃ゛ンひぃ゛ぃっっっ!」

「おいおい、どっから出したんだよ。今の声」

「こ、今回はあまりの寒さに退散してあげるけど、次はそうはいかないわ! 私を辱めた責任、絶対にとってもらうからね!」

「鼻水を垂らして言うセリフじゃねーだろ。と言うか、お前のビキニアーマー、ちゃっかり防寒効果があったのか」

「聖騎士の正式採用装備なんだし当たり前でしょ! なかったらこんな下着みたいな恥ずかしいカッコウ、好き好んでしないから!」


 どう見ても好き好んで着ている露出狂としか思えないが……あえて突っ込むのは止めておこう。いい加減面倒くせぇし。

 その後も、散々バカだのアホだの、あなたの母ちゃん貧乳など、脳筋レベルな罵りを繰り返して、ようやく去っていったマリア。


「やっと消えたか。ふぅ、それにしても……」


 当初はオヤジの恩恵を受けながら、隙あらばハーレム展開を……と望んで出た旅が、とんでもないことになっちまったな。

 いざ蓋を開けてみれば、オヤジが旅先で立てた恋愛フラグを息子の俺が回収していくと言う、前代未聞の美味しいとこ取り異世界世襲ハーレム譚――。


(俺には分かる。きっとこれからの旅路も、イイ女に迫られまくるんだろうな)


 その状況を一言で表すのなら好運! だが、好運は女子運とも読むことができる。言葉ってのは本当、上手くできてるよな! 先が思いやられるぜ!


 ゾクゾクゾクッ!


(おおっ、今後の展望を想像したら、俄然気持ちが昂ってきやがった!)


 ゾクゾクゾクゾクッ!


(いや、これは単なる寒気か? ぶるるっ、そう言えば寒い。俺もマリアほどの軽装じゃないにしろ、さすがにタキシードだけじゃ底冷えしやがるからな)


 ゾクゾクゾクゾクゾクッ!


(むむ? 待て待て。これは俺の昂ぶりでもなく、単なる寒気でもなく、言うなれば悪寒? と言うかなんだ、さっきから背中に突き刺さる猛烈な邪気は……ファッ!?)


 何となく嫌な予感がして、恐る恐る振り返ると――。


 ゴゴゴ、ゴゴゴゴ……。


(やべぇ。こいつのことをすっかり忘れてた!)


 聖女としてあるまじき鬼のような形相とオーラをまとい仁王立つ、レベル1のクソザコのクセに貫禄だけはチート級のプラチナメイドアレクサンドラがそこにはいた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る