第24話「ビキニアーマーの女」

「しょぼ~~~~~~~~~~~~~~~ん。しゅ~~~~~~~~~~~~~~ん」

「いい加減うっせぇよ! 聖女なら、やるせなさも潔く浄化しやがれ!」

「と、言われましてもぉ~。ああっ、カジノカジノ……」

「ったく……。ま、俺と旅を続けていれば、いずれまた連れて行ってやるからこれ以上気を落とすな」

「約束ですよっ? わたくし、一生ついていきますからね!」

「なんつー脅迫だよ。ま、それにしても……」

「ほへっ? どうしたのですか、わたくしの顔をジッと見て」

「気付かないのか」

「ぇっ、ぁっ、ぁはぁっ! わたくしとしたことがうっかり。さすがにこのままではいけませんわね!」

「色々な意味でな」

「ですが、わたくし以前から憧れていたのです。こうして、殿方に熱く手を握られ引っ張られる構図……まるで駆け落ちをした身分違いの恋人のようで」

「ズコー! 気にするところが違うだろ! カッコウだよカッコウ!」

「格好……って、きゃぁぁッ! そういえばわたくし、極端に布面積の少ない衣服のままではありませんか!」

「今さら気付くのかよ。とにかく、これから向かうメイド・イン・ア・ヘルは世界屈指の寒冷地ってウワサだ。ンな薄着だと風邪を引いて――」


 ん?

 そのとき、空気の流れが変わった。

 ある部分に足を踏み入れた瞬間、急激な寒暖差を全身で感じ取ったのだ。


(これはRPGでよくある、大陸のとある境界線を越えたらいきなり敵が強くなったり、いきなり灼熱砂漠になったり、いきなり吹雪いてきたりする、ご都合的なアレだな)


 見れば、アレクサンドラも体を抱くようにして腕を組み始める。


「へくちッ! た、たしかに急に冷えてまいりました。これは風邪どころでは済みませんっ。雪像になってしまうほどのレベルですよ!」

「いちいち大げさなんだよ。せいぜい鼻水を垂らすくらいだ」

「わたくしは由緒正しき聖女! 鼻水を垂らす醜態を晒すくらいなら、美しく清らかな祈りのポーズで雪像になった方がマシです!」


 その意気込みは評価するが、すでにちょっと出ているところはアレクサンドラの名誉のために見なかったことにしておこう。


「お前の気持ちはよく分かった。じゃあこの服に着替えろ。薄手のバニーコスよりましだろ」

「ぁはぁあぁっっ♥ こ、これは先程おっしゃっていた不埒なメイド服……!」

「プラチナ、な」

「で、ですが、この原っぱ、見渡す限り着替える場所がどこにもありませんわ! おまけに寒すぎて、もしお着替えをしている最中に雪像になってしまったら、それこそ聖女として一生ものの恥――」

「バカヤロウ! 境界線を越えた暖かいエリアで着替えればいいだろ! もしくは俺が体を張って肉カーテンを作ってやってもいいぞ!!」

「暖かいエリアに行きます!」

「うっし。じゃあ、きっちり五分で戻って来いよ。それ以上待たせたら、俺も暖かいエリアの境界線を越える」

「一線を越える、みたいな意味で言わないでくださいませっ。ああっ、このような事態になるのであれば、カジノの更衣室で着替えてくれば良かったですわ……」

「アホ! イカサマ共犯のお前が更衣室なんぞに入ったら袋のバニーだ。拘束だけでは済まされず、カジノの仄暗い地下室に人知れず監禁されて筆舌に尽くしがたい行為をされるまでがセットだぞ!」

「ぇっ、ぇぇっ!? 共犯? わたくし、罪など犯してませんわ!」

「犯してるだろ。マリアにわざと狙った位置に落とさせたじゃねぇか」

「あ、あれはただ、旦那様に命じられて行った余興では……」

「余興だろうがなんだろうが、お前がマリアをそそのかして、俺がハメた。この事実は変わらねぇ。周りから見りゃ立派な幇助ほうじょ罪だ」

「そ、そんな……。わたくしが罪を……? 聖女であるこのわたくしが初めて……罪の初体験を犯した……!? 聖女だけにYO! 幇助だYO! YOYO! などと韻を踏んでも笑えませんわ!」

「多かれ少なかれ、どんな人間だろうと心にひとつやふたつの傷があるもんだ。むしろ俺なんか、傷ありまくりだぞ。温泉に入ったときに見たろ?」

「た、たしかに旦那様の逞しいお体には数多の民たちを救ってきた数多の勲章がありましたわ。ですがそれは、罪の傷とはまた別物のような――」

「だいたい同じだ。とにかくお前は俺と同じ傷を背負った者同士。その事実もまた変わらねぇ」

「お、同じ傷を……? はふゥんっっ♥ その言い方ですと俄然親近感を感じますわねっ。まるで秘密を共有しているようで、一気に興奮が高まってまいりましたわ~っ!」


 我ながら適当過ぎる言い分のマシンガンだが、レベル1のクソザコ約束された勝利の聖女バニーを言いくるめるには十分過ぎるほどの威力だ。


「ではわたくし、着替えてまいります。少々お待ちくださいねご主人様っ♥」

「なるほど。そう言えば今回はそういうだったな」


 勇者様も旦那様ももちろんいいが、と呼ばれるのもこれはこれでなかなかいいもんだな。

 茂みの奥へと消えていくアレクサンドラの背中を見送った後、俺は境界線を跨ぐようにしてしばし小休止。


「うおっ。マジで境界線のこっち側と向こう側は別世界。片や痩せた土地に粉雪が舞っているのに対して、片や肥沃な土地にかんかん照り。不思議な感覚だ」


 一粒で二度不思議、レアな景色を堪能できるのも冒険の醍醐味。

 そして、アレクサンドラの一着で二度エロい、レアな衣装コスプレを堪能できるのも冒険の醍醐味ってな!


 そのとき――。


 タッタッタッ、タッタッタッ。


(おっ)


 ひとりほくそ笑む俺の背後から不意に近づいてくる軽快な足音。

 よほど急いできたのか、それとも一秒でも早く俺にプラチナな姿を見せたいのか、まぁどっちでもいいが、その心意気やヨシ!

 スマホで時刻を確認してみたら、着替えに行くと言ってから実に三分三十秒の快挙!


(こりゃ、俺との旅路で早着替えのスキルも身に着けやがったな。感心感心、ますます俺好みの女になってきたじゃねぇか)


 どれ。着こなしはどうかな?

 俺とていち早く拝みたいが、あまりガツガツしてはいけない。ここは勇者としての威厳を保ちつつ、オトナの余裕を持ってプラチナアレクサンドラと向かい合うとするか。


「おう。なんだよ。思っていたよりも早いじゃねぇか」

「そこのあなた!! この辺りで薄汚いフードをかぶった怪しい男を見なかった? 隠さない方が身のためよ!」

「あ? さっきのフードなんか捨てちまったぞ」


 アレクサンドラにしてはずいぶんとハスキーな声を出すんだな。俺はもっとこう……メイドっぽい穏やかな口調を期待していたんだが。

 ま、これはこれで楽しめそうだし、別にいいか――って! 良くねぇよ。だいいち、メイドって言ったらご主人様呼びが定石だろうがッ!

 勇者として、そしてご主人様として、邪道なタメ口をきくプラチナアレクサンドラをお仕置き指導せねば。


「おいアレクサンドラ! どういうつもりだ!」


 足音が迫るよりも早く、俺は肉薄する。

 すると――。


「んきゃっ!?」

「なッ……」


 目と鼻の先にいたのは慣れしたんだブロンドショートではない……!?

 アッシュブラウンのポニーテールに、おかしな鎧をまとった女。


(この鎧、巷でウワサのってやつか?)


 戦いの生命線とも言える防御力を完全に無視した、この圧倒的肌色率、エッッッッッロ!!!

 って、感慨に浸っている場合ではない。違う、こいつはアレクサンドラじゃねぇ! こいつは確か――。

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