想定外
「お、おぉおおおっ!!」
裂帛の気合と共に神殿騎士の1人が剣を振りかぶって突き進んで来る。
……遅いな。
腰に差した数うちの
バキャン!と金属がひしゃげる音が響き、その後に騎士が吹き飛んで行く。
は?
手元の
吹き飛んだ騎士は壁に激突して動かなくなっている。ピクピクと動いてはいるので生きてはいるようだ。
……そこまで力は入れてないぞ。
もしかしこれはあれか。剛力スキルの力か?
恐る恐る剣の柄を持つ手に力を入れると、まるで飴細工の様に簡単に変形する。
数打ちの大量生産品とは言え、これ剣先から柄まで全部鋼で出来てんだけど?
……これ今後日常生活無理じゃない?
ジャラララ!と複数人の騎士が黒い鎖を俺に投げつけ、鎖が俺の腕に巻き付く。
む。呆けている場合じゃないな。
「ふ、ふはは!ど、どうだ!それは王立研究所で新開発された魔封じの鎖だ!その鎖に巻き付けられると魔力の収束が出来なくなり、魔法が使えなくなると言う逸品だぞっ!!」
嬉しそうに枢機卿が解説してくる。
ふむ?確かに魔力収束が阻害されている。
昔開発した『
どこでも考える事は同じか……。
いや、そもそも何で王立の研究所から教会に新技術の武器が流れているんだ?
癒着や横領、横流し等の不穏なキーワードが脳裏によぎる。
まぁこの件が片付いたらクーガー辺りに投げるか……。
君子危うきに近寄らずである。
恐らく弱点も『
待てよ?この鎖で剛力のスキル効果を打ち消せれるなら、これを使えば日常生活も送れるじゃないか!
ものは試しと鎖が巻き付いたままの腕を軽く引いてみる。
「うわぁっ!」「お、おぉ!?」「え、ちょっ!」
鎖の袂を持った3人の騎士がぶわっと宙に浮く。
……駄目じゃん。
そのまま鎖に繋がれた腕を勢いよく下げると、動きに連動して3人の騎士が地面に叩き付けられる。
どうやら魔力収束を拡散する程度ではスキルの効果を打ち消せないらしい。
剛力ってコモンスキル何だよな?
肉体強化魔法を使わずに人間3人を楽に持ち上げられるとか強過ぎない?
それとも他のスキルとの相乗効果とかあるんだろうか?
何にせよ、何かしらの制御方法がないとまともに生活出来ないな。
せめてオンオフ出来れば良いんだが……。
そんな心配をしながらまるでブーメランの様に変形した剣を適当に神殿騎士達に投げつける。
適当に投げた剣は何やらゴソゴソと怪しい動きをしていた数人の騎士を巻き込んで吹っ飛んでいく。どうやらまた魔封じの鎖を使おうとしていたらしい。
無駄なことを……。
また剣を買わないとなぁ。
そろそろ昨日ユーリが使っていた
そんな事を考えながら戦列が崩れた所に突っ込み、近くにいた慌てふためく騎士を掴んで投げつける。投げつけた騎士は周りの騎士を巻き込んで吹っ飛んで行った。
まるで人間ボーリングだ。
この10年で叩き込まれた数多の戦闘経験が俺の中で新たな本能―――、戦闘本能として芽生えているのを感じる。
頭では別の事を考えていても身体は常に最適な動きで敵を潰して行く。
ふむ。思っていたよりコイツら弱いな。
何と言うか戦い慣れてないのだ。
こんな狭い室内でロングソードなんか持ってても使いにくいだけだろうに……。
―――しかし、何だが妙だな?
今日はやけに視界が広いと言うか、相手の動きがよく見える気がする。
背後から俺を襲おうと剣を振りかぶった騎士の腕を掴み、そのまま握りつぶす。そのままその騎士を腰だめに剣を持って俺に突撃しようとしていた騎士達に投げつけた。
いや、これはもう未来予知みたいな……。
ふと脳裏に異世界賢者や智神の愛し子なる謎スキルの名前がよぎる。
……まさかな。
その瞬間、さらにクリアになる視界。
ん?不味いな。俺の右後ろにいる騎士がユーリ達を人質にとる気だ。おや?その斜め後ろの騎士は魔法を放つ気だな。室内で爆発系の魔法とか頭おかしいんじゃないか?
一気に認識出来る情報が増える。
これはあれか……。
もしかして自覚した事で力が使えるようになったとか言う漫画や小説でお約束のやつか?
どれだけ困惑していようとも、叩き込まれた戦闘本能が過不足なく身体を突き動かす。
爆発魔法を唱えようとした騎士の腹を蹴りつけ、ユーリ達を襲おうとした騎士の頭を掴んで地面に叩き付ける。
まぁユーリなら問題はないと思うが、この乱戦だ。不意に怪我をしてもつまらないしな。
……しかし、これはマジで何なんだ?
スキルの効果なのは間違いないと思うのだが、詳細は完全に不明。腕力強化と未来予測じみた知覚強化。……他にも何かありそうだが、デメリットとかないだろうな?
特に邪神のスキル。
10年前の記憶なので朧気だが、確かあの邪神様はかつての転生者にチートを与えたら力の配分を間違えて廃人化させたり暴走させた事があると言っていたな……。
前科300犯以上の正真正銘の邪神だ。
「はぁ……、憂鬱だよ。」
押し付けられた謎のスキル群の扱いに頭を悩ませながら、メキメキと神殿騎士のバケツヘルメット越しにアイアンクローをかます。
泡を拭いて倒れたので適当に投げつけ周りを見渡す。
―――ふむ。これで粗方片付いたみたいだな。
「さて、マクガネン枢機卿と言ったか?部下の皆様にはお眠り頂いたが、アンタはどうする?」
軽い足取りで枢機卿に近付く。
力の差をハッキリと理解したのだろう。
腰を抜かしながらもほうほうの体で必死に後退る枢機卿。
「や、やめろ!私に近付くなっ!!わ、私は枢機卿だぞ!?私に何かしてみろっ!そ、そ、創世神教会の信徒1億人が黙っていないぞっ!」
みっともなく喚きながら少しでも俺から距離を取ろうとする。
この世界には1億人も邪教徒がいるのか……。
さすがファンタジー世界だな。
確か実際の中世ヨーロッパの人口は全体でも1億人もいなかったはずだ。
確か当時は世界全体で5億人とか6億人くらいだったかな?
そんな取り留めない事を考えながら背後に待機させている魔力剣を枢機卿に向ける。
「さて、どうするかな……。」
そう口にした瞬間、タイミングを見計らった様に祭壇後ろのステンドグラスを割って黒衣の集団がなだれ込んで来た。
こ、コイツら……!
見慣れた黒衣、ダークグレーのエルネスト王国軍の軍服に身を包んだ
「おいおい。とんでもない事になってるな。まさかあのアーネスト家の嫡男様が教会内で刃傷沙汰とは……。こいつは大問題だな。」
間違いなくタイミングを見計らっていたであろうクーガーが口元を歪ませ広間に入ってくる。
……何言ってんだ?コイツ。
「事情は分からないが、状況を見るにアルフォンス様がご乱心されたとしか思えない状況ですな。このまま拘束、逮捕するしかないと思いますが如何ですか?―――中将閣下。」
わざとらしい説明台詞を宣いながらクーガーは後ろを振り返って声を掛ける。
中将ってまさか……!?
「うむ。誠に残念だがこの状況を鑑みると貴様の言う通りとしか思えないな。アルフォンスを逮捕するぞ。」
まるで黄金を溶かした様な少し癖のついた長い金髪と鷹のような金の瞳。
美しい見た目に反し、本人は見た目にとんと無頓着なせいで伸ばしっぱなしの長い前髪が左目を隠している。
エルネスト王国最強の剣士にして最凶の女傑。
王国軍創設以来の最年少中将。
『氷嵐剣舞』アンナ・アーネスト中将がこちらを見据えていた。
ママン!何でここに!?
「まさか敬愛すべき創世神教会の枢機卿に対してこの様な狼藉を働くとは……。敬意が全く感じられないな。一体どこで育て方を間違えたのやら―――邪魔だ。どけ。」
助けが来たと思ってママンに近寄った枢機卿をゴミを見るような目で蹴り飛ばすママン。
そこには敬愛も敬意も微塵も感じられない。
うん。間違いなくママンの教育の賜物だと思うんだ。一体今度はどんな茶番―――。
ゾワリと嫌な予感が身体を駆け巡る。
反射的にその場から大急ぎで飛び退く。
瞬間、俺が立っていた場所目掛けて大男が降ってきた。
ゴン!と巨大な拳が広間の床を陥没させる。
「感心感心。油断なく周りが見えているな。」
それは身長2m近い彫りの深い顔と鍛えこまれた鋼のような肉体を持つアメコミヒーローの様なマッチョマン。
短く刈られた茶色に近い金髪。
その青い瞳は油断なく俺を捉えている。
エルネスト王国最高の魔法使い。
王国最強最悪の武門アーネスト家現当主。
『粉砕万魔』アレックス・アーネスト。
床を砕いたその拳は厳ついガントレットに包まれている。
あのガントレット!魔導媒体も兼ねたパパンの本気装備じゃねぇかっ!!
「さぁ、アルフォンス。久しぶりにママとパパが遊んでやろう。」
そう言ってママンは腰に差した剣を引き抜く。
空気すら切り裂くような濡れた刃が目に映る。
う、嘘だろ……。
あれは家宝の片手剣、『
や、やべぇ……。この2人、本気だ。
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