あと2日 気付けば君の方が大人になっていた
たとえば、君が私の知らない顔をする度に、まるで失恋にも近いような気持ちになる私。
本当は、頑張ったお洒落を褒めてくれてすごく嬉しかったはずなのに。
一時間も遅刻した私にも優しくしてくれた君のことを、もっと大好きだと思ったはずなのに。
君らしくない口説き文句も、上手な慰めも、それを素直に喜べない自分のことが自分でも嫌になる。
君の事は、私が一番に知っていた筈なのに。
君が私を置いて、一人大人になっていくような気がして、とても寂しかった。
瞳に映るのは、今もいつも通りに振舞って、私を楽しませようとしてくれる君。
君はいつから、そんな気遣いが出来るようになってしまったんだろう。
本当は、あの頃だってキミはいつでも私の事を気にかけてくれていた。
それを頭ではわかっていても、このまま成長して大人になっていっていく君は、最後には私よりずっとかわいい女の子と恋人になるかもしれない。
そうして少しずつ遠ざかっていくように見えるキミの姿に、私はどうしても不安な気持ちを抱いてしまうんだ。
もしかしたら脈があるのかもしれない。
なんて、希望的観測がどれだけ自分の中で高まったとしても。
実際に言葉で聞くまでは、ただただ不安が募るばかりだった。
たった一言、私に「好き」だと言ってくれたら。
そんな独りよがりな願望だけが、私の中で渦巻いていく。
どうせそう言われたって、今の私はきっとその言葉を信じられないのに。
こんな嫌な女の子の事、君が心から好きだなんて思うわけがない。
そんな風に弱気になってしまう私は、どこまでも弱い人間だった。
たとえば、浮かない顔のまま君の少し後ろを歩く私に、後ろを振り返って「ごめん」って謝ってくる君。
君は何も悪くないのに。
私はただ、君に何かを察して欲しそうな感じでずっと無言のまま暗い顔をしていた。
私って、こんなに最低な女だったのか。
ただ気持ちの切り替えが下手くそだった私は、またその瞳に涙をいっぱいに溜めていた。
こんな大事な日に遅刻なんてしなければ、ここまで惨めな気持ちにはならなかったのかな?
そんな風に自分を責め続ける私に、君がポケットから一枚のハンカチを取り出した。
それは、昔私が君の誕生日にあげた、ハナミズキの刺繡が施されたハンカチだった。
まだ、使っていてくれてたんだ。
私がそんな風に思って目を丸くすると、零れ落ちた涙を君が優しく拭ってくれる。
君は依然として、泣いてしまった私に大慌てで謝ってばかりだった。
そんな優しい君に対して、私は一体どうだろう。
こんな私に、君を好きでいる資格なんて、本当にあるのかな……?
一度暗い気持ちになってしまうと、中々そこから抜け出すことなんて出来ない。
女心の起伏は激しく、その到達点の一つ一つは、あまりにも根深いものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます