【ep.17】わがままでごめんね

 どうしてマリアは私の事を心配してくれるのだろう。私は大丈夫なのに。だって神様になるという事は人間でなくなるという事。それを理解した上で神様になるって決めたのに。


「わたくしは、エマの料理が大好きですわ。……でも、こんなのエマらしくありません」


 マリアが震えるのを感じたまま、マリアの言葉で理解してしまった。


 私は味覚まで失いかけているのだと。


 みんなはいつも私の料理を美味しいと言って食べてくれていた。でも今ここにいる全員が私の料理を一口食べて手を止めてしまっている。


「エマ……わたくしは、あなたのすべてが知りたいのです……」

「……マリア、ごめんね……泣かないで?」


 マリアは私から体を離すと私を真剣に見つめた。私はマリアの頬に垂れて行く涙を拭いながら眉を下げる。


「心配させてごめんなさい……ちゃんと話すから、だから聞いて下さい」


 そうして私はみんなに向けて、私自身に起こっている異変を説明して行く。


 *


 私の異変をすべて話すとみんなは(やっぱり)みたいな反応を示した。

 みんなの困った顔や悲しむ顔は見たくなかったのに、目の前に浮かんでしまっている事が申し訳ないと思う。私はみんなの騎士ナイトでありたかった。みんなを笑顔にさせたかった。なのにどうしてこんな事になっているんだろう。


「……これはわたしの考えに過ぎないのですが、エマが神様になったら、エマはこの世界に存在出来るのでしょうか?」

「ボクもソフィアの意見には同意できる。……そうなってほしくはないけどね」


 ソフィアとレアは考えながら呟いた。ノアも考え始めて重たい空気が漂う。


「エマくん」

「シャルル……なに?」

「おてて、はなしちゃ、めっ」

「シャルル……」


 シャルルは私の手を握ってくれた。小さい手は力強く感じる程に私の手をしっかりと握っていて、大きな瞳は真っ直ぐに私を見上げている。


「わたくしも、絶対に離しませんわ……っ」

「マリア……」


 シャルルの手の上から包む様にマリアは両手で私の手を握る。また泣いてしまいそうなマリアの顔をじっと見つめる事しか今の私には出来なくて。

 それでも私の気持は揺るがない。


「心配しなで。私は神様になって、みんなを幸せにするから」


 私は笑ってみんなに告げる。

 でもきっと、ちゃんと笑えていないんだろうなって、みんなの視線から伝わって来てしまった。


「エマ……神様になんかならないでください」

「マリア……」

「わたくしは、わたくしの幸せは……あなたがいないと……」


 握られた手が強くなって、マリアの気持が伝わって来た。私を大切に思ってくれていて嬉しい。


「ねえマリア、私はね、マリアの事を幸せにしたい。それはずっと変わらない」

「……でしたらっ」

「でもね、たくさんの人を幸せにできるなら、私はみんなの事も幸せにしたいんだ」

「エマ……」


 今度はちゃんと笑えたかな。これは私の本心なんだ。

 私はいままであまり幸福な人生を歩んでこなかった。だからこんな風に思うのかもしれない。

 笑顔でいる人が少しでも増えたら、私も幸せだから。

 

「わがままでごめんね」

「いえ……っ、わがままなのはわたくしですわ。エマの気持はすばらしいですもの。でも、それでも、わたくしはわがままを言い続けますわ」


 交わる視線から本気のわがままを感じ取れて、私は困ってしまうけど嬉しくもあって。

 どんな風に笑えていたかは分からないけど、少しだけ空気が軽くなった気がした。


「ご飯作り直さなきゃだね。ノアお願いしてもいい?」

「あ、うん、勿論」

「私は自分のを食べるから、みんなの分をお願い」

「……うん」


 ノアは複雑な表情の後微笑んでくれたけど、私が神様になる事に納得がいってないんだろうな。みんなそんな表情をしている気がする。


 だけど私は、神様になるよ。


 *


 翌日。

 みんなとの関係が少しだけぎくしゃくしたまま私は先頭を歩く。あと少しで目的地のダンジョンへ着くから、気を引き締めて行かないと。


 ダンジョンの浄化効果なのかモンスターが減って来ていて、歩き続けていれば見えたダンジョンの入り口の前で私は止まる。

 歩く速さを落としていたからみんなも一緒に止まって、その足音に振り返らずに、私はダンジョンへ入って行った。


 ランプで照らして広間を探すのも慣れて来た。

 足元の悪い中ゆっくりと歩いていると私は気配を感知して、水属性の魔法で目の前に水の盾を作る。


「炎のトラップ……!?」

 

 目の前からは炎が噴射してきていて、ここが火属性のドラゴンがいるのだと感じられた。


 いままでのダンジョンで仕掛けは無かったけど、そんなに簡単に攻略できる訳ではなさそうだね。


 水の盾でみんなを守りながら、私はダンジョンを進んで行く。

 魔法が使えればみんなを守る事だって可能なんだ。それだけで私はワクワクしていた。


 みんなを守りながら慎重に進んで行ってけが人は今の所いない。

 いつもの様に広間に足を踏み入れると、壁に火が付いて行く。

 明るくなった広間には炎を纏ったドラゴンがいて、私たちを睨んでいた。


 私が武器を構えるのと同時に、みんなも一斉に武器を構えた。


「みんな……?」


 武器を構えたみんなは、私の前に立ってドラゴンと対峙している。

 まるで私を守るかの様に。

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