【ep.12】運命の人のはずだったのに

 私たちは四大精霊のドラゴンと契約するために、次のダンジョンへ向かっている。

 地水火風のドラゴンはそれぞれ東西南北にあるダンジョンにいる様で、次のダンジョンまでまだ道は長い。

 旅をしていればお金も必要になるので、街に寄って物資の調達とギルドで依頼を受けながら進んで行った。

 モンスターもすぐに倒せる位に力を付けて行って、もうすぐ水属性のダンジョンへ着くだろうという位まで私たちは進んで来た。2度目の契約が迫ってきている事に少し緊張感が増えながら私たちは草原を歩き続ける。


 私は先頭を歩いてその隣か少し後ろをマリアが歩く。後ろを守る様にノアが続いていて、辺りにモンスターがいないのを確認しながら一度休憩しようと2人へ身体を向ける。


「ノア危ないッ!」


 振り向いた瞬間にノアを襲う人物が見えて私の声と同時にノアは横へ転がる様に襲撃を避ける。


「女の子……?」


 襲ったのは中性的な見た目の少女だった。双剣を持ちながら距離を取ったノアを見つめている。どこか恍惚な表情で。


「やっと……会えた。ずっと探していたんだよ……」

「……君は誰だ? 会った事はない筈だよ」

「そうだね。初めまして、姉様。ボクはレア・ラ・トゥール・ドーヴェルニュと申します」

 

 少女は嬉しそうに服の袖をつまんで広げた。その姿はダンスを踊る前のお姫様の様に可憐に見える。でも少女の見た目や服装はボーイッシュで、どこか不釣り合いなその姿に少女が何者なのか疑問を抱いてしまう。


「あらあら、相変わらずレア様は手を出されるのが早いですね」

「……レアさま……はしるの、だめ」

 

 レアと名乗る少女の後ろから2人の女性が歩いて来る。1人は清楚系な大人の女性。もう1人は10歳位の人形みたいな女の子。


「レアさま……たのしい?」

「うん。とても楽しいよシャルル。だって大好きな姉様に会えたんだから」

「レア様、楽しいのは分かりますが、皆様混乱していますので、お話をして差し上げるのがよろしいかと」

「ソフィアの言う通りだねぇ。豆鉄砲でも食らったような顔をしている」


 楽しそうにクスクスと笑うレアと後ろにいる2人に私たちは武器を構えて警戒する。

 彼女たちは何者なんだろう。ノアの事を知っている様子だけど、ノアには心当たりがなさそう。


「安心してよ、もう襲わない。さっきは嬉しくてつい、ね」

「……君の事はまだ信用出来ない」

「そう睨まないで姉様。ボクたちの事知りたいくせに」


 レアはそうやって妖し気に笑う。何故レアがノアの事を姉様と呼ぶのかは私も疑問に思う。ノアは小さい頃にリュシーに拾われたって聞いていたけど、家族構成とかまでは聞いていなかったから、妹がいた事は初耳だ。でも、その事に一番驚いているのはノアの様にも見える。

 

 ノアは疑問と不安と警戒が混ざった目を彼女たちに向けている。でも彼女たちは武器をしまっていて、戦う気はないのだと伺える。それでもノアは弓を構えていた。


「やっと会えたんだ。ボクはもっと姉様と近付きたい……ボクと姉様の関係をお話しようか」


 レアは眉を下げながらも弓を向け続けるノアに語り始めた。


 *


 ボクは一国の姫で、3人兄妹の末女だ。

 城にいた頃は後ろにいる彼女……ソフィアがボクの専属メイドで、ずっと一緒に過ごしてきた。


 大人になったら親が決めた婚約相手と結婚して、何不自由なく過ごしていく。姫として当たり前の日常が退屈だった。


 だけどね、ボクには腹違いの姉がいるんだと知ってしまったんだ。


 兄が2人いるけど、姉という存在は初めてですごく興味を惹かれた。

 姉の事を調べて行っても少ししか情報は無かったけど、でも段々と姉という存在に憧れに近い感情を覚えて行ったんだ。


 ボクの運命の相手だから今まで知らなかった。そう思うと会いたくなって、必死で姉様の事を調べ続けた。


 そして姉様は幼い頃に両親と共に下町で過ごしている事、姉様の両親は国によって処分された事を知ったんだ。

 その後の姉様がどう過ごしているのか、生きているのかは分からなかったけど、ボクはずっと姉様の存在を感じていた。


 城にいても会える訳じゃない。

 だからボクはこっそり家出したんだけど、ソフィアとシャルルに見つかって、一緒に姉様を探してくれる事になって旅を始めた。


 *


「姿を見てすぐに姉様だって分かったよ」

「……そう、か」

「信じられないのも無理はないけど、でもボクはアナタが姉様だっていう確信を抱いている。髪色も瞳の色も同じだもの」


 ノアはレアの話を聞いて弓を下ろしていた。

 ノアが信じられないのも無理はない。実際私もレアの言う事を信じていいのか迷っている。確かにノアとレアの見た目は似ている所もある。でも2人が姉妹だと証明するものは何もないんだとも思う。


「君が僕の妹だという事を信じてもいい」

「姉様……!」

「でも、僕の家族はこれからも1人だけだ」

「……何を言ってるの?」


 ノアは胸元の宝石を優しく撫でる。

 前回のダンジョンでノアは服がボロボロになってしまったから、新しいデザインの服を買い替えていたんだけど、胸元の宝石が見える様に胸元が開いている服を選んでいた。いつでもリュシーの事を見れる様に、触れられる様に。


「違う……こんなの、姉様じゃない……姉様の1番はボクのはずだ……」


 ブツブツと呟くレアの顔は俯いていてどんな表情か分からなかったけど、声のトーンが低くなっていて落ち込んでいるのが分かった。ゆっくりと顔を上げて悲しそうに笑うレアの心が読めない。

 

 次の瞬間にレアは武器を構えてノアへ駆けて行った。

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