魔法が使えない魔女は、侯爵令嬢に拾われてメイドになりました ~結婚を嫌がるお嬢様を攫って旅に出ます!~
響城藍
【ep.01】勇者パーティーに捨てられた所を侯爵令嬢に拾われました
私はエマ。魔女として勇者パーティーの仲間と旅をしています。
私は魔女だけど、魔法が使えません。だからいつも仲間に迷惑を掛けてしまっている。その分荷物持ちや野営の準備はしっかりとして、明日こそは役に立つと思いながら眠りについた。
いつもの様に朝日が昇る少し前に私は目が覚める。起き上がって辺りを見渡して、その異変に私は言葉を失った。
私以外に仲間は2人います。だけど寝る前に一緒だった仲間の姿が見当たらない。それどころか野営に使っていたテントや旅の荷物も含めて、そこには何もなかった。
私だけ取り残されたと気付くのに、どれ程時間を使っただろうか。
状況を理解して、今からでもどうにかして追い付けないだろうか、と私は歩き出した。草原は広く分かれ道も多くて私は立ち止まって地面を見つめる。
気付きたくなかったけど、私は役立たずだから置いて行かれた。私の荷物さえも持って行って、私だけを置いて。
朝から何も食べずに歩き回って、そろそろ限界かもしれない。
どこに行けばいいのかすらも判らなくなって、ただ空腹と喉の渇きを潤したくて、無意識に歩き続けていた。
そんな朦朧とする意識の中、うっすらと見えた街並みは地獄だったのかもしれない、とぼんやり思いながら視界が消えて行った。
*
人間は死後、天国か地獄のどちらかに行けると教わった事がある。
真っ白な天井は汚れ一つなく輝いていて、私はどちらに来たのだろうか、なんて思いながら目を開けていく。
背中に当たる布団の感触は羽に包まれているかの様で、私には相応しくないと思って、ゆっくりと上半身を起こして映った景色に、私は絶句する。
外からしか見た事がなかったけれど、一瞬で私はお城の中にいるのだと理解出来る位に、私の知らない世界が目の前に広がっているからだ。
どうしてお城にいるのか、ここは天国なのか、疑問は山ほどある。
起きた事を知らせに行った方がいいのかもしれない、とベッドから足を下ろして、私の脚に触れる服をまじまじと見てしまう。
身分の高い方が着る様な豪華なものではないにしろ、私が着ている服がドレスなのだと理解して、私は完全にキャパオーバーしてしまった。
「目が覚めたのですね!」
扉が開いた事すら気付けない程に私は目が回っていて、目が回ったまま扉の方を見れば、誰が見ても判る位のお嬢様が私に向かって可愛らしく駆けて来ていた。
長い金髪が揺れて、そこからキラキラとした宝石が落ちている様に見える位の輝きを放つ存在に、私は眩しくて思わずベッドに座って布団を抱きしめる様に握ってしまった。
「どこか痛いところはありませんか?」
ベッドの傍まで来て屈みながら私を見つめるピンク色の瞳。見た事もない澄んだ色に吸い込まれる様に見つめてしまって、彼女の眉が下がったのを捉えると私は慌てて両手を振った。
「だ、大丈夫です……!」
私の控えめな言葉を聞いて安心した様な笑みを見せた彼女は、後ろにいたメイドに呼ばれて軽く返事をした後、もう一度私を見た。
「わたくしはマリアンヌ・ ドルレアンと申します。今日はもう遅いので、明日また来ますわ。夕食の用意をしていますので、ゆっくりとお休みになってくださいな」
軽く手を振って部屋を出て行った彼女の姿を唖然として見続けていると、扉の外から別のメイドが入って来て、夕食を運んでくれた。
今まで食べた事のない料理だと、運ばれて来た匂いだけで直感した。
私は、天国に来てしまったのだろうか。
頬をつねって夢なのかを確認する事も忘れる位の変化を、まだ理解する事が出来ずにいた。
*
勇者パーティーに置いて行かれて、私はこの国の入り口で倒れていたらしい。
そんな私の姿を見つけてお城に連れて来て下さったのが、この家のご令嬢であるマリアンヌ・ ドルレアン様であった。
2日程休ませて頂いて十分に回復したので、私はマリア様に恩を返したいと思って今メイド長と話をしています。
「私をこの家のメイドとして働かせてください!!」
私は必死に自分の想いをメイド長に伝える。驚いてずり落ちている眼鏡が気になるなと思いながら、真剣な眼差しを向け続けていた。
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