[inferno]

Ø1 [breakdown](上)


 なぜだろう。

 どうしてここに、こんなところに、木野下璃亜武がいるのか。

 人違いなのではないか。

 この期に及んで、想星は何かの間違いだと思いたがっていた。

 木野下は羊本のすぐ向こうにいる。

 その腹部には異様な、たぶん爆発物だと推測される装置が固定されている。

 その装置上のディスプレイが、赤い数字をデジタル表示している。

 それは00:03で、その前は00:04だった。

 おそらく、あれは何かをカウントダウンしているに違いない。

 この場合、00:00になってしまったら、きっと手遅れになる。

 もう00:03だ。

 時間がない。

 あまりにも時間がなさすぎる。

 ディスプレイの表示が00:02になった。

「羊本さん……!」

 想星は力任せに羊本を引き倒して、彼女に覆い被さった。

 いいのか、これで。

 間違っているのではないか、この判断は。

 他にできることはなかったのか。

 もっとやるべきことがあったのではないか。

 これでよかった。

 そう言いきれるか。

 後悔しないか。

 変だ。

 一秒って、こんなに長かったっけ?

 ディスプレイの表示は00:01だ。

 やっと00:01になった。

 まだ00:01だ。

 木野下。

 あれは本当に木野下璃亜武なのか。

 無表情だ。

 まるで死に顔みたいだった。

 ただの顔。

 顔の形をしているものが、ただそこにあるかのようだ。

 何かもう、自分が見ているものすべてが信じられない。

 信じる根拠がいったいどこにあるだろう。

 木野下璃亜武は死んだはずだ。

 爆発物らしきものを腰に巻いてすぐそこにいる木野下は、死んでいるかのようだ。

 それなのに、木野下はそこにいる。

 ディスプレイの表示はまだ00:01だ。

 今まさに、00:00になろうとしている。

「たっ――」

 羊本が何か言おうとした。

 たぶん想星の名を呼ぼうとしたのだろう。

 高良縊くん、と。

 想星は全身でなるべく完全に羊本を覆い隠そうとした。

 脅しなのではないか。

 そんな考えが頭をよぎった。

 あれは爆発物のように見えた。

 爆薬。

 時限式の起爆装置。

 木野下は右手で短い棒状の器具を握っていた。

 あれは何だろう。

 わからないが、とにかく、爆発はしない。

 爆発なんて、するわけがない。

 そうだ。

 はったりに違いない。

 果たして、爆発は起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る