長屋-18

「じゃあ、続きを」長四郎は話を続ける「現場に付着していたスプレーの残りカスは、明らかに全振りしたものとは違うわけだ」

「そうですけどね。それがどうして僕が犯人になるんですか?」

「あ、悪い。悪い。この土汚れたゴミ袋に入っていたスプレー缶から君の指紋が検出された」

「検出? それだけで僕が犯人だと? 適当にも程がある」

「適当ね」長四郎は困ったぁ~みたいな顔をする。

「あの、どうして一太郎と被害者の男の子がそっくりだったんですか?」

 空気も読まず、重則が質問する。

「おお、それね。その答えは簡単だよ。一太郎君、二太郎君のお父様が不倫して出来たのが幸信君」

「ちょっと、待ってください。いきなり、そんな事言われても」

 戸惑いを隠せない一太郎に対して、二太郎は落ち着いた様子を見せる。

「当然、ウラ取りはしてるよ。幸信君のお母さんと、一太郎君の父親にも確認は取れてる。詳しい浮気時期は言わなくても察せるよね?」

「はぁ」一太郎も深くは突っ込まなかった。

「いや、だとしても、何故、兄弟を殺すことになるんですか?」重則が事件の確信をついてくる質問をする。

「それは、幸信君が脅迫していたから」

「脅迫? 本当なのか? 二太郎」一太郎は二太郎に確かめると、しかめっ面の二太郎はその問いに答えない。

「ま、この話は君たちの父親から聞いたんだけどね」

「父さんが・・・・・・・」

「かなりの額を払っていたみたいだよ。それで、次の標的にされたのが二太郎君」

 二太郎は何も発言せず、ただ長四郎の話に耳を傾ける。

「そんな・・・・・・・」

「一太郎君が驚くのは無理ないけど。これが事実だから」

「分かっています。けど・・・・・・・」

 双子の弟が何故、腹違いの兄弟を殺すことになったのか。それを今一番知りたいそう思う一太郎。

「二太郎君は幸信君と違い狡猾だった。自分の障害になる人物は消し去るタイプだった。だから、彼のお母さんをそそのかし、殺害するように仕組んだ」

「それは、貴方の憶測でしょう」

「そんな事はないわよ。彼の母親からも証言は取れてる」と絢巡査長が反論する。

「そん時にね、一太郎君も標的であったということも聞けたと」

「俺が?」

「だから、幸信君の髪の毛が染められたというわけ」

「ええっ!」一番、驚いて見せる重則であった。

「君が一番驚いてどうするの?」燐が思わずツッコミを入れる。

「そうだけどさ」

「話を戻すぞ。二太郎君、ここまでの話を聞いての感想は?」

 長四郎の問いかけに「認めるよ」と素直に答えた。


 二太郎が自供してから、五日経った。

 長四郎の事務所には、一太郎の姿があった。

「それで、今日来た理由は?」

 コーヒーを出して用件を尋ねる長四郎に「いや、探偵さんにはその後の事を報告しようかなと思って」そう答えながらコーヒーを飲む一太郎。

「別に気にしなくてもいいのに」

「自分の気持ちの整理の為にも聞いてください」

 めんどくさいなと思う長四郎は一太郎の話を聞くことにした。

「二太郎が逮捕されて、刑事さんから色々聞きました。二太郎が邪魔な俺も殺そうと画策していて重則が幸信君の死体を発見していなかったら俺はあの時、殺されていたんです」

「そうか」

「そんで、俺が帰ったあの家で幸信君は殺されてました」

「・・・・・・・」

 幸信は二太郎に呼び出され、家の中へと案内されてすぐに玄関先で背後からハンマーで殴りつけられ殺された。そして、派手実の協力を得て、重則が発見した公園へと死体を移動させ一太郎に見せかけるために髪を染めた。

 それが完了すると、自宅に戻り一太郎の帰宅を待つ。それだけであった。

 だが、重則が死体を発見したことで事態が急変し計画が大いに狂うことになった。

「俺が探偵さんに頼った事で、より動きにくくなったそうです」

「ふ~ん」

「あの時、俺が殺されれば二太郎は捕まらなかったのかな・・・・・・・」

「そんな事はないんじゃない」

「ラモちゃん。来てたの?」

「今、来た。あんた、思いつめすぎ。あいつは、悪意を持って兄弟を殺害したんだから」

「ラモちゃんの言う通りだぜ。どうせ、あいつは捕まっていた」

「そうですかね」

「そうだよ」

「俺、これから二太郎に差し入れに行くんで帰ります」

「気を付けてな」

「失礼します」長四郎に深々とお辞儀をして一太郎は、二太郎が居る東京拘置所へと向かった。

「ねぇ、解決しなかった方が良かったのかな」

「さぁな。真実は残酷だ。今回の場合のように、一つの家族を破滅に追い込むことだってある」

「そうだよね」

 燐はそう答えながら、二太郎の元へ向かう一太郎の寂しい背中を窓の向こうから見送るのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る