始動-12

「刑事さん・・・・・・」

 遠山は口をあんぐりと開けて、一川警部の禿げた頭を見る。

「被害者の愛華さんが、警察から注意を受けたのは、一週間前の事やったばい」

「それが何なんですか」

「まぁ、そこまでは大した事ではなかったとです。遠山さん。貴方、警察に数多くのストーカー被害相談を持ち込まれてますよね? 勿論、ストーカー相手は愛華さんではありません。一件、一件、別の女性でしたよ」一川警部は遠山を睨みながら、調べてきた事実を突きつける。

「そ、それは・・・・・・僕がモテすぎるからだと思います」

 遠山のその一言に「プッ」と思わず吹き出してしまう燐に「笑うな」と注意するものの長四郎も肩を小刻みに揺らして、必死に笑いを堪える。

 その二人の様子を見てムッとする遠山。

「すいません。すいません」長四郎は目から流す涙を拭うと、「モテすぎるということはよく分かりました。でも、モテすぎるからストーカーされるって都合よすぎじゃありませんか?」と問いかける。

「モテすぎるがゆえの苦悩です」

 堂々と答える遠山に燐は「絶対、噓」と反論する。

「ラモちゃん」長四郎は燐を諌めると「ごめ~ん」と謝罪する燐。

「遠山さんがモテすぎるというのは、よく分かりました。一川さん、過去のストーカー事件ではどの様な被害が報告されていたんですか?」

 長四郎の質問に答える為に、過去の事件をメモしたスマホを見ながら答え始める。

「えーっと、皆、家へ押しかけた事によるものやね。加害者全員、厳重注意で終わっとうね」

「そうですか。でも、家に押しかけただけでストーカー扱いになるんですか?」

「そりゃあ、何回も押しかけていればストーカーになるけど、過去の事件では、そげんこつはなかったばい。加害者達の供述だと、どれも訪れたのは一回だけらしい」

「そんなの噓だ! でたらめだ!!」遠山は声を荒げて反論する。

「そうかもしれません。でも、複数の女性がストーカーしているとなると疑わざるを得ません」

「どういう意味ですか?」

「だって、そうじゃありませんか。別れ話でこじれた相手が家を訪ねてきた。それをストーカー扱いとして警察へ届け出る。そういう構図に見えるのは俺だけでしょうか?」

 長四郎の問いに対して、次の一手を模索する遠山。

「私もそう感じる。てか、そうに決まってる」

 燐は長四郎の推理に賛同する。

「何の証拠があって・・・・・・」遠山は呆れた顔になる。

「証拠というか、警察には貴方と加害者の供述書が残っとりますけん。そういえば、全部のストーカー事件の供述も今回の愛華さんのストーカー事件と似た供述をなさっていたようですね」一川警部は聴取が映し出されたスマホを見ながら、遠山に告げた。

「・・・・・・」

 遠山はだんまりを決め込むだけであった。

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