昔嵌められた仲間のエルフに不老不死にされる話。

かなえ@お友達ください

#1前触れと再会

他人を信じること。

それがどれだけ愚かなことか理解したのは十年前。


「はあ…」

目の前の畑を見渡す。

農業をする以上、

トラブルによる不作というのは必ず懸念しなければならない。

しかしここ五年、あまりに順調だった俺、シルウェにはその懸念が抜け落ちていた。


「昨日までは何にもなかったのに…なぜだ…」

しかし。俺の注意不足とはいえ少し不可解なところがある。

それは昨日までは普通だったのに、なぜか今日畑を見てみるといきなりひどい有様になってたことだ。

昨日までは綺麗な緑色でとても元気そうだったのに。


明らかに元気ではない色に変異してるのもあれば、

なぜだか顔のような模様が出てきてるやつもいる。

一日でこんなことになるなんて、異常以外の何者でもない。


「一体どうなって…って何だありゃ」

思わず典型的なリアクションをしてしまった。

しかし、俺が丹精込めて育てた野菜が

足を生やし歩いて跳ね回っていたらこんな反応をしてしまうのも仕方がない。

…いや本当にどういうこと?


だが、これで少しわかったことがある。

この植物…というか野菜が魔力を帯びて動き出すという現象に、俺は心当たりがあった。


「大厄災…魔王の復活が近いのか?」

この明らかな異常は大厄災の前触れかもしれない。

この畑で育てているものが動く様…ベジタブルウォークとでも言おうか。

これは俺が昔見たことがある。

昔村の畑に植えられていた野菜が突然足を生やし一斉に村を出て行ってしまうという事件が発生した。しかも一列になって、行進しながら。


この字面だけ見たらアホみたいだし、信じられないかもしれないが目撃者が多かったため、これは公然の事実となっていた。

もしかしたらあまりに衝撃的な絵面だったし、

それを真顔で説明する大人がたくさんいたため誰も疑えなかったのかもしれない。

俺も目撃者の一人だが、あれ以来一列になって動いているものを見ると少し気持ち悪くなってしまう。トラウマだ。


あの時は一種の神の信託なのではないかと騒がれていた。

だがそんなことはなく、その半年後に大厄災、魔王復活が起きた。

大厄災とは魔王が大気のマナが集め復活する影響で濁ったマナを吸収した魔物が強化され、その影響で人へ甚大な被害が出ること。

まあ簡潔にいうと人類大ピンチって感じ。

その濁ったマナや大気のマナの乱れの影響によって起こると考えられているのがこの大惨事。大厄災の前触れだ。


「だが、あの一列野菜行進事件と比べると少しマシか…?」

見たところ動き回ってる野菜は一個…いや一体…匹…

だけだし、前ほどショッキングな絵面ではない。

ということは今回の魔王は前と比べて弱い…

いや、そう考えてるのも早計だ。単に魔力の毛色が違うだけかもしれない。


「はは…何考えてるんだ俺…」

…そうだ。今更俺が魔王をどうこうするわけでもない。

俺に残されたのはこの辺境の地でのんびり農業をして余生を過ごすことだ。


そんなことより、だ。

あの野菜、放っておくと何をするかわからない。

捕まえて美味しくいただけるなら良いのだが…見た目は足が生えただけでそこ以外は美味しそうだし…


「おーい。言葉はわかるか…」

近づいて話しかけてみる。自分で何やってるんだと思いつつも、対話ができるなら穏便に済ませたい。野菜であろうと、こうなってしまえば生き物、または魔物とあまり変わりないはずだ。


「…」

野菜はこっちを振り向くと不思議そうな顔をした。

いやていうか顔がある…

これは食う気にはなれないな…

何だかジャック・オー・ランタンみたいな顔をしてる。

ちょっと不気味だ。そこに真っ白な可愛い足がついてて、正直キモいと言わざるを得ない。


野菜はとてとてと歩いてくる。

おいおい、これは戦闘になるのか?

友好的なら食欲は失せたしどっかの森にでも逃そうかと思ったんだが。

そう考えてるうちにも、

野菜はこっちに向かってくる。

さっきよりもスピードが上がっている…

走っているのだろうか。


「…」

拳を構える。正直強そうには見えないし、俺が負けるとは思えない。

だが、いつでも反撃できるように用心しておくのだ。

…だんだん近づく、もうすぐ俺の間合いだ。


「…!」

「あ」

ズベッ

そんな音が立ちそうなこけかたをした野菜は起き上がるとなぜだがこちらを見つめてくる。

何だか泣きそう…か?

なぜだかあのジャックオアランタンの表情がわかる。

うるうる…なんてしてるわけないはずなのだが。

はあ、と息をついて野菜に近づく。

手を差し伸べると野菜は体を預けて脱力した。


なんだ、これ。

見た目はキモいのに動作があまりにも可愛い。

手に野菜を乗っけて抱き寄せる。

ああ、これが…


これがキモ可愛いってやつか…


野菜を抱えて家に戻った。これだけ見たら食べる気満々だが、そんな気はさらさらない。

自分でもどうかしてると思うが、こいつに愛着が湧いてしまった。

そう、飼うのである。

何を食べるのか?生態は?安全性は?寿命は?

そんなもの一切わからない。が、手探りで何とかなるだろ。

…たぶん。

目を瞑っておそらく寝ているであろう野菜を見つめながらそんなことを考えていると、

ドアがコンコン、と音を立てた。


…おかしい。

ここにくる客なんていないはずだ。

だが風や物が当たった感じの音ではない。

明らかに人為的な、そんな音。


正直、知的生命体というだけで関わりたくはない。

ましてやここにくるくらいだ。相手は俺のことを知ってる、もしくは調べてるはず。

なら、俺のことを殺しにきたと考えてもおかしくはない。

もしかしたら聞き間違いかもしれない。という考えはもう一度なったノック音でかき消された。


「ふう…」

玄関に置いてある剣を手に取る。

特段使うこともないが、手入れは欠かさずしてきた。

あくまであちらが襲ってきた時に使う防衛手段。

もし相手が国の使いとかだったら、これ以上人間たちに嫌われるとまずい。

何せ、ここにきたということは居場所は特定されているということだ。


意を決してドアを開ける。そこに立っていたのは…


「あ、やっぱりシルウェだ!」


もう二度と会わないと思っていた、かつての仲間だった。


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