第200話:地獄のような日々
〜長峰結葉 視点〜
それは突然の出来事だった。
私はいつも通り登校するため家を出た。高校までの通学路は徒歩で15分ほど。自宅から歩いて通えることも、選んだ決め手になった。
途中で、親友で幼馴染みの佳織、藤嶋佳織と彼女の兄の浩也と合流した。そして3人で談笑しながら学校まで歩いていた。
・・・・・・そんな時だった。
いきなり、地面に丸い円形の陣が現れ強く光り出した。そして私たち3人を強い光が包み込んだ。私は眩しくて目を閉じた。
少ししてもの凄い気持ちの悪い感じが全身を襲った。強い乗り物酔いみたいな感じ。
足下がヒンヤリとしているのを感じた。
目を開けると、立っていたはずの私は座り込んでいた。地面はアスファルトではなく、冷たい石の床だった。
横を見ると、佳織も浩也も一緒にいた。
それからの数日間は地獄だった。
偉そうに話すバトーラ伯爵という男や兵士と思われる男達。そしてローブに身を包んだ魔法使いだという連中によって、いろいろなことを調べられた。
その中で、ここが私たちの住んでいたのとは別の世界であること。私たちは、こいつらによって一方的に召喚されたのだということ。私たちは一種の兵器として召喚されたのだということが分かった。
私たちの扱いは、たまに見かける手や足、首に鎖を繋がれた人たちよりはマシだが、それ以外の人間とは比べものにならないくらい酷いものだった。
時間を無視して、というか屋外に出たことが無いので時間感覚が狂ってしまったが、おそらく何時間にも渡って、魔法の呪文だという文言を読まされる。下着以外を剥ぎ取られて、剣で切りつけられたり、血を抜かれたりする。屈強な男に殴られる。よく分からない道具に繋がれたかと思うともの凄い虚脱感を味わわされる。
そんな日々が続いたある日、私に与えられていた2畳ほどの部屋でマズい食事をとっていた時だった。
「おい、聞こえるか?」
そんな声が、扉の外から聞こえた。
この扉は金属製。部屋の造りや扉、そしてここが地下にあると思われることから独房のような場所だと理解していた。召喚された日以来、佳織や浩也の姿は見ていない。同じような部屋に入れられているのだと思うが、自由に出歩くことなどできないし、調べることもできない。
そんな狭い部屋にいる私に、話しかける声が聞こえた。
聞いたことの無い声だと思うし、少なくとも佳織や浩也ではない。
不安だが、私に無視するという選択肢は無い。逃げ場など無いし、刃向かえばどんな酷い目に遭わされるか分からない。初日にバトーラ伯爵に刃向かっていた男性は、突然もの凄く苦しそうにうずくまっていた。私たちのことを人間だとは思っていないことはよく理解しているし、ただ指示に従うしかない。
「はい、聞こえます」
「よし。時間が無いから手短に言うぞ。明日、貴殿は殺される」
・・・は?
殺される? どうして?
私、何かした? 全部指示には従ってるし、文句も言ってないのに。なんで、どうして・・・
「なんで・・・」
「説明している時間は無いが、能力が無いからだ。ここ数日の実験でそれが調べられ、決まった」
「は?」
能力って? 殴られたり、切られたり・・・
あれは、私のことを調べていたってこと? 確かに研究者っぽい人は見たけど・・・
言われてみれば、拷問される理由がない。向こうが知りたい情報なんて持ってないし、そもそも何か質問された覚えもないし・・・
「だが、悲観することはない。いや、むしろ幸運かもしれない」
「なんでよ! 殺されるんでしょ? いきなり連れてこられて、痛めつけられて。それで能力無いからって、殺されるんでしょ!? それのどこが幸運なのよ!」
「・・・す、すまん。言葉を誤った。謝罪する。だが、声を小さくしてくれ。脱出するチャンスなんだ」
脱出って・・・
それにしても、この男。今、私に謝った? どんなに酷いことをしても、目の色1つ変えなかったヤツらばっかだったのに・・・
「・・・分かった。聞くから説明して」
「ああ。俺は、協力者だと思ってほしい。いや、いきなりそんなことを言われても信じられないと思う。この国は、貴殿らに言葉では表しきれないような酷いことをした。決して許されることではない。しかし、これが皇帝の指示である以上、ほとんどがそれに従う。だが、俺はそうじゃない」
「・・・あなたは皇帝には従わないってこと?」
「ああ。この国は間違っている。特に皇帝やバトーラ伯爵ら上層部は腐りきってる」
「・・・それが、私とどういう・・・」
「貴殿が明日殺されるというのは事実だ。召喚した『異世界人』に求められていた戦闘能力が備わっていなかったからだ。私は、今はバトーラ伯爵が率いる召喚魔法研究部隊に所属している兵士の1人だ。名はロメイル」
「私は・・・、長峰結葉です」
「よし、えっと、ユイハ殿でいいか?」
「ええ。そっちは名前なんですけどね」
「異世界では姓と名が逆なのか」
「私たちの国は、ですけどね」
「そうか・・・。ではユイハ殿。明日、私はユイハ殿たちを処刑するために別の施設へ移送することになる。その道中で、君たちを逃がす」
「逃がすって、どうやって?」
「輸送部隊は全員、私の仲間だ。道中で君らが脱出を試みたことにする。その際に、我々が始末したと説明する」
「・・・でも、死体がなかったらバレるんじゃ」
「大丈夫だ。魔獣が近づいてきたので放置したことにする。それに、万が一に備えて適当な死体を用意して、魔獣に食わせる予定だ。そもそも、処刑の方法も飼っている魔獣の餌にするものであるため、詳しく調べられることはないだろう」
魔獣・・・・・・。想像通りなら、普通の動物よりも凶暴な生き物かな。やっぱりそんなのがいる世界なんだ。
「分かりました・・・。でも、どこに逃げれば・・・」
「ユイハ殿たちを逃がす場所は、クライスの大森林という森の近くだ。方角を示す魔道具と魔獣や魔物を寄せ付けないようにする魔道具を渡す。それを持って、カーラルド王国という国を目指すのだ。詳細は地図に渡す地図に、目印と共に書いてある」
「その、カーラルド王国っていう国にたどり着けたとして、どうしろと?」
「それは・・・。申し訳ないが、その先は手助けできない。カーラルド王国では、我が国、ダーバルド帝国から逃げてきたといえば、保護されるはずだ。加えて、実験施設にいたと言えば、詳しい事情を聞かれるだろう。そこで、ここで体験したことを全て話してもらえばいい。そうすれば、十分に保護してもらえるはずだ。それ以上は・・・」
「分かった。少なくともここにいるよりはマシなのね。それに、そもそも明日殺される・・・」
「申し訳ない」
「・・・どうしてあなたが謝るの?」
「それは・・・・・・・・・、皇帝の・・・いや、この国の一員としてだ」
「そっか・・・。それで、私の友だちも一緒に逃げられる?」
「友だちか。召喚されたうち、明日殺されるのは10人だ。『能力なし』と判断されたのは11人になるが、高齢の1人は途中で亡くなったからな・・・。その中にいれば、逃がすことができる」
「藤嶋佳織と藤嶋浩也はどう?」
「待ってくれ・・・。藤嶋佳織という女性は入っている。故に逃がすことができる。しかし藤嶋浩也という男性は・・・」
「浩也は?」
「彼は『能力あり』と判断されている。故に、明日殺される予定には含まれていない」
「そ、そんな・・・」
「今後どうなるか分からない。友人を気遣う気持ちも理解できる。しかし、逃げなければ・・・」
「私は殺されるのよね」
「ああ」
本当は浩也を置いていきたくない。幼い頃から彼を知っているし、私のことも佳織と一緒に妹のように大事にしてくれていた。それに佳織にとっては実の兄だ。
しかし、逃げなければ私も佳織も殺される。浩也を助けようにも、私に戦うことなんてできないし・・・
「分かったわ。逃げて、生きて、浩也を助ける方法を探す」
「ありがとう。では明日。あと一日、耐えてくれ」
「ええ」
酷いと思う。けれど、他に選択肢は無いのだと理解してしまった・・・
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