第5章:建国式典
第198話:召喚魔法
〜ドーン(ダーバルド帝国)視点〜
コトハ一行が王都キャバンに到着する1ヶ月程前の帝城にて。
「・・・・・・ふむ。では、魔人化計画は順調に進んでいると」
皇帝陛下は満足そうに頷いておられる。
それもそのはずだ。異世界から強力な戦力を召喚する召喚魔法を研究している我々のライバルである、魔人化計画。人型種の身体に他の生物の部位を移植したり、身体を金属製に作り替えたりした後、魔石を埋め込む。また魔獣・魔物には別の魔獣・魔物の部位の移植を行う。それによって、通常では考えられない戦闘能力を秘めた兵器とする計画は順調なようだからな・・・
魔人化計画の責任者を務めるグラリオスの報告は、計画が順調であることを強調していた。
初期段階では、魔石を埋め込んだ奴隷が直ぐに死んだり、魔獣の部位を移植した魔物が暴走したりと被害が多く出ており、計画は行き詰まっていた。中には、研究所に配置された兵が対処しきれないほど暴れた化け物もおり、どうにかクライスの大森林の方向に追いやったと聞いた覚えがある。
そんな計画も、試行回数を重ねることで、移植に適した部位や金属、また埋め込むのに適した魔石などの研究が進んだようだ。
その結果、奴隷として意思疎通が可能で、こちらの命令に従うレベルまで落ち着いた“魔人”を作り出すことに成功したらしい。
「左様にございます」
グラリオスが、ここぞとばかりに成果を強調し、皇帝陛下にアピールする。忌々しい限りだが、ヤツが成果を出したのは事実である故、どうしようもない。
「うむ。計画に関して何か補足することはあるか?」
皇帝陛下の問いかけに、グラリオスが一度こちらを見て笑みを浮かべた。
「はっ。実験の結果から、魔法を得意とする『エルフ』と『魔族』、この2つの種族を被験者とするのが最も成功確率が高いことが分かっております。ですが、実験に用いております、『エルフ』や『魔族』の奴隷の数が減っております。それ故、少々計画の見直しに迫られておりまして・・・」
「うーむ。ここ最近は、ジャームル王国やカーラルド王国での奴隷狩りが難しくなっておると聞く。新たな奴隷の獲得は難しいか」
「仰るとおりにございます。そこで、恐れながら、召喚魔法の研究に回されている『エルフ』や『魔族』の奴隷を、魔人化計画の研究に使用することのお許しをいただきたく存じます」
なっ!
グラリオスの野郎、ふざけたことを・・・
魔人化計画の実験に『エルフ』や『魔族』が適しているのだとしても、我々の研究にもこの2つの種族が適しておるのだ。
それを取り上げられたら・・・・・・
「ふむ。グラリオスの言にも一理ある。魔人化計画は確かな成果を上げておる。奴隷が有限である以上、より見込みのある研究に絞るべきやもしれん・・・。ドーンよ。お主からは何かあるか?
そう、皇帝陛下から問われた。
・・・・・・正直に言えば、まだ召喚魔法を発動する準備が完了したとは言えない。
エルフの王国を滅ぼした際に、王家の禁書庫で発見された召喚魔法に関する書物。この書物の7割方は解読が進み、魔法陣の基礎部分や呪文の解読にも成功した。しかし、魔法陣の細かい部分の解析は依然進んでいない。
世界を渡る際に大量のエネルギーを浴びることで、いくらか能力が増すことは分かっているのだ、それを効率的に行う術が分からない。つまり、召喚した者が強いかどうかは運次第になる。
けれど・・・・・・
「お、お待ちください、陛下。魔人化計画の進捗が素晴らしいことは理解致します。一臣民として喜ばしく思います。しかし、召喚魔法に関する研究も完成間近でございます。書物、そして魔法陣の解析が概ね終わり、数日以内に発動させることについての許可をいただきに参ろうと考えておりました。ですので・・・」
「そうか。ならば、明日だ。明日正午、余の前で召喚魔法を発動せよ。その結果によって、グラリオスの頼みを聞き入れるかどうかを決めるとしよう」
「ありがとうございます、陛下」
「し、承知致しました。直ちに、最終の準備を整えさせます」
「うむ。以上である。下がるがよい」
「「はっ」」
謁見の間を出た私とグラリオスは、研究所があるクライスの大森林近くの施設に帰る馬車に乗るべく、帝城の長い長い廊下を進む。
「ドーン殿。大丈夫なのですかな? 皇帝陛下は、召喚に成功しただけでは、満足なされませんよ? 皇帝陛下が求めておられるのは、強力な戦力、なのですから。そう、我々が生み出した魔人のようなね」
「グラリオス殿。ご心配、痛み入る。ですが心配ご無用。明日は素晴らしい成果を皇帝陛下にお届けできることでしょう。それよりも、クライスの大森林へ追いやって事なきを得たという、被検体は大丈夫なのですかな? 万が一にでも、帝国の街に入り、民を襲ったりでもしたら大変ですぞ?」
「ははっ! それこそ要らぬ心配でしょうな。途中まで追跡した者によれば、真っ直ぐ東へ進んでいた様子。元は『エルフ』の女に、ハイオーク、そしてブラッドウルフですからな。移植も不十分な故、そのうちに森の魔獣に食われて死にますでしょう」
グラリオスは慎重な男だ。自分の失敗は綺麗さっぱり消し去るし、慈悲など無い。あの被検体たちが、帝国に牙を剥くことは無いと確信を持っているのであろう。
つまり、我々が生き残るには、明日の召喚魔法を必ず成功させるしかないのだ。
「では、ドーン殿。明日を楽しみにしております。心から成功を願っておりますよ、ええ、心からね」
「ああ。感謝する」
クソがっ!
明日の召喚魔法に失敗すれば、魔人化計画が帝国増強の中心に据えられる。それはつまり、グラリオスの出世を意味する。同時に、私の破滅も意味するわけだ。
♢ ♢ ♢
翌日、召喚魔法の研究施設には、多くの近衛と側近を連れた皇帝陛下がお越しになっていた。そして、グラリオスもだ。
「皇帝陛下。召喚魔法の研究所へ、ようこそお越しくださいました」
「うむ。ドーンよ、今日は期待しておるぞ。決して余を失望させるではないぞ」
「仰せのままに。では、早速準備に取り掛からせていただきます」
そう言って私は、研究者たちの元へ戻る。彼らへは、我々が置かれている立場はそれとなく伝えてある。故に、魔法陣の解析がまだ不十分でありながら、召喚魔法を発動させることに同意している。
「ベズル、準備は」
「はい、ドーン様。魔力の供給源となる奴隷には、魔道具を装着済みです。魔法陣の点検も完了しています。後は、魔道具を起動して奴隷から魔力を吸い取り、魔法陣に流すのに合わせて呪文を詠唱するだけです。呪文の方も、昨日から何度も合わせる練習をしていますので、大丈夫かと・・・」
「そうか。よし・・・。皇帝陛下、準備が整いました」
「うむ。では、ドーンよ。召喚魔法を発動させ、我が帝国に新たな戦力をもたらすのだ!」
「はっ! 始めろ!」
私の掛け声に従い、魔道具が起動する。
徐々に、奴隷たちから悲鳴や泣き言が聞こえてくるが無視して魔力を吸い取り続ける。床一面に描かれた魔法陣を魔力が流れていくのが確認できた。
「よし、詠唱を始めよ」
魔法陣を取り囲んでいる20名の魔法使い。彼らはこの研究所の中でも特に魔法に秀でた者達だ。
彼らが、書物から何とか読み方だけは解読できた呪文を、声を合わせて魔力を流しながら詠唱していく。
『エオウ、ゴチャフミカニ。グキニグエグトズエレ。グキヲアノ、ヴォンベール。バラ、ボーク、グニ。ドワン、ゴラーン』
詠唱が終わると同時に、魔法陣がもの凄い光を放ち始めた。
それと同時に、魔力を吸い上げていた奴隷たちがバタバタと倒れていくのが見えた。
少しして、光が消えていった。
魔法陣の場所に目をやると、18人の『人間』のような姿をした者どもが、そこにはいた。
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