第197話:出発
1000体以上の魔獣・魔物の討伐から一夜明け、私はサーシャとスーンの町を歩いている。
今回は騎士たちも大活躍だったので、今日一日は休みとして、明朝王都へ向けて出発する予定だ。
昨晩は報告会が終わって直ぐに解散し、今朝改めてギブスさんたちと情報の共有を行った。
ギブスさんからすれば、レーベルが調査している内容が気になるのだろうが、今の私に説明できることはほとんど無い。ギブスさんも少ししたら王都へ向かうらしいので、王都で会ったとき、もしくは建国式典が終わってから改めて説明することになった。どうやら、ギブスさんはうちの騎士団とサイル伯爵領の騎士団の交流を望んでいるらしいので、今度は正式にうちの領へ招く予定にして、レーノに投げておいた。
キアラは、ミリアさんとの約束を胸に、ミリアさんをあんな姿にした連中を倒し、捕らわれている『エルフ』を救い出すと息巻いている。とはいえ、そこは冷静なキアラらしく、レーベルの調査を待ち、敵を見極めるまでは自分の腕を磨くことに集中するようだった。昨日の感じでは、直ぐにでもダーバルド帝国に乗り込みそうでヒヤヒヤしていたが、案外冷静で安心した。キアラが行動するときには、カイトたちはもちろん私も手伝うつもりではいる。
ただ、一応一国の貴族になっている私が、何の理由もなく・・・、いやこちらには十分な理由があるのだが・・・、対外的な理由を示さずに、他国に喧嘩を売ることはできない。なので、王都に着いたらアーマスさんたちに相談しなくてはと思っている。
「改めて歩くと、綺麗な町だねー」
「ふふっ。そうでしょ? スーンは、『王国一綺麗な町』をコンセプトに、道路の配置や建物の配置に気を配るのはもちろん、町中のゴミや汚れなんかにも意識を向けて、綺麗な街づくりを頑張っているのよ。それに、周辺には自然豊かな場所も多くあるから、観光客や冒険者が多く訪れているの」
「なるほどねー。今まで行ったことのある大きな町ってガッドだけだったから、大分イメージが違って驚いたよ」
「ガッドって言うと、バイズ公爵領の領都よね。バイズ公爵領は元々、ラシアール王国の対魔獣・魔物の最前線だったから、町も無骨で力強い感じよね」
「うん。実用重視って感じかな」
「そうね。コトハの領の町は? 確か、ガーンドラバルと言うんでしたっけ?」
「うん。まだ、町作りを始めたばっかりだし、とにかく住んでいる人の利便優先だから、全然だよ。元々は、私がカイトたちと住んでいた小さな場所だしね」
「そうなのね。それにしても、クライスの大森林の中に住んでいるなんて。最初に聞いたときは、たちの悪い冗談かと思いましたわ」
「よく言われるよ。けど、私たちが強いのは分かったでしょ?」
「ええ。私も魔法にはそれなりに自信がありましたのに、それがポッキリですわ」
「ふふっ。まあ、私たちはそういう意味では特殊だからね。サーシャの魔法も十分凄かったよ」
「コトハに言われましても・・・」
「まあ、何はともあれ、この綺麗な町を守れて良かったね」
「はい。ありがとうございました」
「もう何回も聞いたよ」
「何回でも言いますわよ。昨日の最後の敵のことが無ければ、もっとスッキリいたしますのに・・・」
「そうだねー。まあ、レーベルが調べてくれてるから。何か分かったら教えるよ」
「お願いしますわ。コトハは明日、出発するのよね?」
「うん、その予定。旅程には余裕があるって言ってたけど、ぼちぼち行かないとね。フォブスたちを預かってる身でもあるし」
「そうですわね・・・」
「サーシャは王都へは行かないの?」
「行きますわよ。コトハのおかげで魔獣・魔物の脅威も去りましたので。今、文官たちが急いで準備をしていますわ」
「そっか。じゃあ、王都で会えるといいね」
その後も雑談を続け、穏やかな一日を過ごした。
夕食は、私たちの助力への感謝ということで、豪華な晩餐会が開催された。うちの騎士たちも全員が招待され、おっかなびっくりしながらも、貴族の晩餐会の料理を楽しんでいた。
翌朝、スーンを出発する前に、再びギブスさんと話をしていた。
その内容は、昨日改めてそれぞれの群れを討伐した周辺を調査したところ、討ち漏らしはいなかったことや、建国式典が終わったらうちの領へ招待する話などで、特に重たい話も無く、和やかに進んだ。
その最後に、
「コトハ様。コトハ様にお助けいただいたゼット村の村人たちなのですが・・・」
ゼット村の人たちの話が出た。
「うん、どうかしたの?」
「はい。助かった村人は14人。その内の8人は、スーンや別の町に頼れる家族や知り合いがいるようでした。そのため、移動が必要な者にはこちらで移動手段と護衛を手配し、移住させる予定です」
「そう。ちなみに、その8人って大人?」
「子ども4人のうち、1人は成人した兄弟がスーンにいましたのでそちらに。残り3人は・・・」
「そっか。じゃあ、子ども3人と大人3人には身寄りがないってことね」
「はい。そのことでご相談がありまして・・・」
「相談?」
「それぞれに希望を聞いたところ、大人3人と子ども2人が、コトハ様にお仕えしたいと申し出ています」
「私に?」
「はい。村の再建が不可能なことは事実です。そして行く当ても無いのであれば、助けられた恩を返したい、そう申しているようでして」
「私は別にいいけど。っていうか、残りの子ども1人は?」
「こちらは、まだ幼く状況の把握も乏しいようで。村人たちの取り纏めをしているアルスという女性にべったりな状態ですので、一緒にと考えています」
「つまり、6人全員がうちに移住希望ってわけね?」
「左様にございます」
「私はいいけどさ、サイル伯爵領としてはいいの?」
「領民が他領へ出て行くことは、本来は望ましいことではありません。しかし、今回は事情が事情。コトハ様へ恩を返したいという思いも、新たな地で気持ちを切り替えたいというのも理解できます。ですので、コトハ様がよろしいのでしたら、我が領としては積極的にお願いしたい次第でして・・・」
「そっか。そういうことなら良いよ。6人をうちの領で受け入れるね」
「ありがとうございます。このまま王都へ連れて行かれますか?」
「うーん、それも大変だよね。うちの馬車もパンパンだし・・・」
「でしたら、王都からの帰りに、ということでよろしいでしょうか。それまでは、我が領で責任を持って」
「うん、お願い。ああ、そうだ。どうせなら、今からアルスさんに話しておこうか」
「分かりました。呼びに行かせます」
それからアルスさんにうちの領で受け入れることを話し、王都から帰って来るまではスーンでゆっくりしておくように伝えた。
うちの領民になるのだからと、滞在費を渡しておこうとしたら、それはこちらが負担するとギブスさんに強く断られた。まあ、14人の面倒を見ると約束しておきながら、結局うちに移住することになったからね。それへのお詫びも入っているのかな。気にしなくてもいいのに・・・
私たちは、スーンを出発してから数日、クミシュ子爵領、ゾンダル子爵領をそれぞれ通過した。
クミシュ子爵は少しギラギラした様子のおじさんだった。だが、話す内容は誠実で、これからよろしくと簡単に挨拶を交わした。
ゾンダル子爵領では私の到着が遅れたせいで、ゾンダル子爵が既に王都へ経っており、ゾンダル子爵の三男の簡単なもてなしを受けただけだった。遅れたとはいえ、来るのが分かっている大公を子爵ごときが直接もてなさないとはなんたる無礼か、とレーノや騎士たちは憤っていたが、私としては楽で良かった。
そして予定から遅れること1週間、カーラルド王国の王都キャバンに到着した。
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