第190話:敵の規模

スーンを出発した私たちは、目的の魔獣・魔物の群れがいる荒野を目指して進んでいた。

馬車が5台に30以上の騎馬からなる討伐軍だ。ただ、予想されている敵の規模からするとこちらの戦力は少なく見える。そのため、私たちを見送ったサイル伯爵領の騎士団の騎士たちや招集された兵士たちの目には、不安や戸惑いが見てとれた。


サーシャと一緒に来ているサイル伯爵領の騎士団の部隊、10人の騎士からなる部隊の騎士たちも似たような様子だった。ただ、部隊を率いる隊長さんのノバクさんは、どうやら私たちやシャロン、ホムラを見て何やら感じ取ったようで、騎士たちに声をかけて黙らせていた。


私の馬車には、サーシャとポーラ、レビンとサーシャさんお付きのベスさんというメイドさんが乗り込んでいる。


「ねえ、コトハ。本当にポーラちゃんも戦うの?」

「ん?」

「いや、だって。どう見てもポーラちゃんは元気な女の子にしか見えないから・・・」

「ああ。気持ちはわかるけどね。けど、ポーラも結構強いよ。ね、ポーラ」

「うん! サーシャ姉ちゃん、心配しないで! コトハ姉ちゃんには勝てないけど、ポーラも魔法得意だから」

「そ、そう。いや、お節介だったわね・・・」

「ううん。そう思うのは普通だと思うから。大丈夫だ・・・・・・よ」

「・・・コトハ?」


え? 何これ。


「ちょっとごめん。一回集中させて」


よく分からない様子のサーシャたちを無視して、私は感覚を研ぎ澄ます。

意識の先は、私たちの目的地。魔獣・魔物が街道にも多く出没しているとのことで、魔力感知を発動させて警戒していた。その魔力感知に突如としてもの凄い数の魔力の反応を感知したのだ。


すぐに『龍人化』を発動させ角を出す。


「それがコトハの種族の・・・」


サーシャがなんか反応しているが構っている余裕はない。サーシャやサイル伯爵家の人たちには私たちの種族を説明してあるが、目の前で『人間』には無い部分を出せば、やはり驚くのだろう。


『龍人化』の角により魔力のコントロール精度を高め、慎重に魔力を読み取っていく。クライスの大森林での訓練やここまでの道中で魔法感知を使い続けた結果、私の魔力感知の精度はかなり高くなっている。魔力感知自体は、レーダーのように魔力反応がある場所までの距離や方角を示すわけではないが、試行回数を重ねることで大まかな距離や方角は把握できるようになっている。それに魔力の強さから、魔獣・魔物の種類も分かるようになってきた。まあ、初見の相手では無理だが。


そんな私の魔力感知には、200、300どころではない数の反応があった。ざっくり数えて1000は超えている。距離は私たちの進行方向に2キロほど。種類としてはオークやゴブリン、ウルフ系がいるのは確認できた。あとは知らないのも多くいる。

そしてその先。一番遠いところに、フォレストタイガーの魔力よりも強い魔力を感じる。これが支配階級ってやつ?


私は馬車の窓から顔を出し、マーカスを呼んだ。


「お呼びでしょうか、コトハ様」

「マーカス、一旦みんなを止めて。ちょっと予定が変わった」

「え? ・・・承知しました。おい、一旦止めろ!」



馬車を止めて、指揮官たちで集まる。私にカイトたち、マーカスにジョナス、サーシャにノバクさんだ。


「それでコトハ様。予定が変わったとは?」

「うん。正確な数は分からない。けど、この先にいる敵の数は200、300なんてもんじゃない。少なくとも1000。それ以上いるかもしれない」

「「「なっ」」」

「そ、それは本当なのですか。報告では・・・」


当然の疑問を口にしたのはノバクさんだ。昨日トメライさんが説明してくれた情報は、サイル伯爵領の騎士が、文字通り命がけで調査した内容だ。だからこそ、それがあっさり否定されるのは驚きなのだろうが・・・


「うん。詳しくは説明できないけど、間違いない。どう考えてももっといる。それに奥にはかなり強いのも。少なくともフォレストタイガーよりは強い」

「支配階級・・・」

「たぶんね。種族は分かんないけど、圧倒的に強いのは確か」


私の説明に、一同は言葉を失っている。いや、失っているのはサーシャとノバクさんか。荒野の敵が予想の数倍以上いる。それ即ち、私たちの作戦が失敗し、領を救えないことが近づくからだ。


しかし、マーカスたちはそうではない。


「して、コトハ様。どのようになさるおつもりですか?」

「そうだねー・・・」

「待ってコトハ。戦うの?」

「そりゃあ、私たちの担当だし。あんな大見え切ったんだから責任もって対処するよ」

「・・・・・・コトハ」

「とはいえ、やり方は変える必要があるよね。元々は、私、ポーラ、ホムラが魔法で大雑把に道を開きながら討ち漏らしを騎士たちが始末する予定だったけど・・・」

「1000体もいたらそれは難しいよね」

「うん。カイトの言うように、討ち漏らしの数が多くなり過ぎる。そうすると騎士団の負担が増えるし、危険も増す。そんなわけで、最初に私たち3人で魔法を撃ちまくる。空中から下に向かってひたすら魔法を撃ち込む。これでどれだけ減らせるかは分かんないけど、対処可能な数までもっていきたい」

「僕たちが戦うのはその後ってこと?」

「うん。空中から魔法をばら撒くのは、敵の数が多いことを利用してとにかく威力重視で狙いは適当にやる。そうすると、味方にも当たりかねないから」

「では我々は・・・」

「敵が集まってる場所の立地がよく分かんないんだけど、逃げられないようにできないかなって」

「そうですな。数はともかく、個々の魔獣・魔物の強さは一般的なものであるとすれば、コトハ様方の放つ魔法が降り注げば逃げ出す個体がいても不思議ではないですな。いや、かなりの数になるでしょう。そうすると、多くの討ち漏らしが生じる・・・」

「そゆこと。昨日の会議では、荒野の大まかな地形は説明されたけど・・・。この先2キロ地点の地形って分かる?」

「ノバク殿。どうでしょうか」

「はい。大まかな距離と1000体もの敵がいることを考えると、荒野の中心部にある大きな窪みだと思います。荒野は岩山が連なる地形ですが、その中心部には楕円形状の大きな窪みがあります」

「昨日、支配階級がいるかもって言ってた洞窟に繋がる?」

「仰る通りです。窪みへ降りるには3つの道があったと記憶しております。その他にも、細い道が複数ありますが、大きな魔獣・魔物が通れるのは3つかと」

「・・・逆に言えば、ゴブリン程度が逃げる道はたくさんある?」

「・・・はい」

「マーカス」

「そうですな。とりあえず、その3つの道は騎士団とカイト様方が分かれて対処するほかないでしょう。細かい道については・・・・・・」


諦めるしかない、か。

幸い逃げられそうなのはゴブリンやグレーウルフくらい。できることなら始末したいが、逃げられても被害が少ない相手だといえる。

私たちが諦めムードになっていると、


「あ、あの。私の魔法で細い道を塞ぐことはできないでしょうか」


サーシャがそんなことを言い出した。

確かに道を塞ぐことで逃げられる敵の数を減らせるけど・・・


「道を塞ぐって、『土魔法』で?」

「うん。昨日言った得意な魔法って『土魔法』なの。あとは『風魔法』。ゴブリンが通れないように道を塞ぐくらいはできるわ」

「・・・それなら。マーカス、騎士にも『土魔法』使える人いたよね」

「はい。今回同行している中では・・・4人です」

「よし。それじゃあ、サーシャとうちの4人の騎士で細い道を塞いで回ろう。カイトたちもお願い。戦う体力や魔力は残すように注意してね。全部塞ぐのは難しいし、そもそも壁をよじ登られる可能性もあるから討ち漏らしを完全には防げないけど、数は減らせるはず。カイト、マーカス準備して。サーシャもお願い」

「分かった!」

「はっ!」

「うん!」


とりあえず道筋は見えた。作戦としては穴が多いだろうし、どこまで計画通りに行くか分かんないけど、やれるだけのことをやるしかない。

細い道をどれだけ塞げるか、それが逃げ狂う魔獣・魔物の攻撃にどれだけ耐えられるかは分からない。ただ、1体でも多く始末するために、全力でやるしかない。

とりあえず、私も準備しないと・・・


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