閑話:ラムスの報告3・帝国の動き

〜アーマス・フォン・バイズ視点〜


「最後に父上。これはコトハ殿に関する話ではないのですが」

「なんだ?」

「はい。クリオラル山の麓の町にいるレイルとキエラからの報告です。ダーバルド帝国は定期的に、おそらく奴隷や下級兵士が中心と思われる部隊によって山脈越えを試みているようですが、いずれも失敗しているようです。連中が山を越えるには、まだまだ時間が必要かと」

「そうか。となると、ダーバルド帝国の侵攻ルートとしてはジャームル王国経由かクライスの大森林を経由するか、の2つになるな」

「はい」

「アーマス。その、レイルとキエラとは?」

「ああ。元はマーシャグ子爵家に仕えていた冒険者だ。カイトたちと出会った後に紹介されてな。マーシャグ子爵家では貴族の調査なんかを行っていたらしく、諜報技術に長けていた。それ故、声を掛けて雇ったのだ。今はダーバルド帝国の調査の一環で、クリオラル山の近くを巡って情報を集めている」

「そうか。とすると、先ほどアーマスが言っていたように、警戒ルートは2つか。ジャームル王国の方は、今回の式典でも向こうの使者との会談が予定されていたな」

「ああ。おそらく、援助を求めてくるだろう。最低でも物資の援助。場合によっては軍事援助を要請されるかもな」

「そうだな・・・。後はクライスの大森林経由だが」

「そっちの懸念はかなり解消されたな。クライスの大森林を通って我が国を攻めようとすれば、コトハ殿たちに見つかる可能性が高いだろう。そしてコトハ殿は敵には容赦が無いし、戦力も十分」

「そういえば父上。クルセイル大公領は、領都の西側、ダーバルド帝国の方角にも砦の建設を考えているようです。目的は当然、ダーバルド帝国への警戒です」

「おお。それは僥倖。もちろんコトハ殿を騙すつもりはないのでな。きちんと現状を説明の上、その計画を後押ししよう。それと最近、クライスの大森林から魔獣が出てきたとの報告もいくつか上がっている。そのことも伝えておくとしよう」



 ♢ ♢ ♢



〜ダーバルド帝国皇帝視点〜


「それで? 実験の結果を聞こうか、グラリオス」

「はっ。今回の実験は、本来魔石を持たない人型種の身体に魔石を埋め込む、というものでした。結果といたしましては、成功、にございます」

「ほぅ。まさか、奴隷が死ななかった、ことをもって成功とは言わぬよな?」

「無論です。今回の被験者はドワーフ、エルフ、魔族、人間を各5人。ドワーフと人間は手術から程なくして死にましたが、エルフ3人と魔族4人は、手術から6日経った現在も生きております」

「・・・それで?」

「生き残った7人は、魔法の威力が向上し、身体能力にも上向きな変化が見られます。また、魔力量もかなり増えたようです。戦闘能力の詳しいテストはこれからになりますが、ジャームル王国の魔法師団が使う魔法よりも威力の高い魔法が使えるのは間違いがないかと・・・」

「・・・なるほど。素晴らしい。今後の方針は?」

「はっ。今回の結果から、ドワーフや人間に手術を行うのは奴隷と魔石の無駄になると思われます。そのため、エルフと魔族の奴隷に手術を行う予定です。纏まった数が用意できたところで、実戦テストを行うことを考えております」

「うむ。良いであろう。先んじて個々の戦闘能力の詳細が知りたい。クライスの大森林にて行っている実験にでも参加させ、魔獣と戦わせてみるのだ」

「はっ」

「よろしい。それでは引き続き、魔人化計画を続けよ」

「御心のままに」


うむ。

奴隷の身体に魔石を埋め込むことで、魔力の巡りをよくし、魔法の威力を高めたり、身体能力を高めたりする。魔物や魔獣が強い理由は体内にある魔石に由来するのだから、人の身体に魔石を埋め込めば同じ結果が得られるのでは、と考えこの計画が始まったわけだが、思ったよりも時間が掛かったか。


しかしジャームル王国への侵攻は依然として進まぬし、ラシアール王国への侵攻は森と山のせいで上手くいかぬ。やはり、魔人を大量生産し、戦線に投入するほかないわな。奴隷などいくら死んでも構わぬ故、実験を進めさせてきたが、さすがに魔族やエルフの奴隷の数は減ってきたか。


やはりここは・・・


「ドーン! ドーンはおるか!」

「はい、陛下。ここに」

「ドーンよ。召喚魔法の研究はどうなっておる?」

「はい。術者以外から魔力を吸い上げる構造の構築に概ね成功致しました。また、見つかった書物にあった召喚の魔法陣の解読もほとんど完了しております。召喚魔法を使えるようになるのも、もうすぐかと」

「・・・・・・ドーンよ」

「は、はい、陛下」

「お主のその言葉。嘘偽りは無いであろうな?」

「も、もちろんです。陛下には、真実のみをお伝えしております」

「ほぅ。ならば良いが・・・。よいか、ドーンよ。その言葉、嘘偽りであったとき、お主やお主の家族の命は無いぞ?」

「し、承知しております。召喚魔法の実用化は、近いうちに必ず」

「・・・・・・・・・・・・ふんっ。良かろう。余とて優秀な配下を失いたくはない。期待しておるぞ、ドーン」

「仰せのままに」


・・・・・・・・・・・・確かドーンの配下の男に1人、優秀なやつがいると聞いたことがある。そやつを次の責任者にするか。

それにしても召喚魔法。ドーンの話が真であれば、実用化が近い、か。異世界から戦闘能力の高い存在を召喚する魔法。加えて、召喚魔法に細工することで術者への反抗を不能にできる。これが真なら、戦力の大幅増強が見込める。必要な魔力は奴隷をつぎ込めば足りるし、召喚するのは異世界の存在。書物によれば『人間』に近しい見た目をしているようだが、そんなことは関係ない。所詮はダーバルド帝国外の『人間』。そこら辺の魔物と同じ存在よ。それを我らが有効に利用することに、何ら問題は無かろう。



〜ドーン視点〜


まずい、まずい、まずい。

半月前の報告から進んだのは僅か。皇帝陛下の目には進捗は皆無であろう。

思わず大袈裟に成果を言ってしまったが、あんな脅しを受けるとは。

・・・・・・いや、脅しではないか。陛下は気に入らないことがあれば、貴族であろうと簡単に処刑する。前も、ラシアール王国からカーラルド王国へ変わったことを指摘した高位の官僚がその場で首を切られておったしな・・・


ここは、魔法陣の解読が不十分であっても、無理矢理召喚魔法を発動させるしかないか。

解読できていないのは、召喚時に異世界の人間に力を与える部分。今のままでも多少の力は与えられるのだろうが、書物にあるような圧倒的な力を与える方法が分からない。


・・・・・・いや、問題はないか。

所詮陛下には、戦闘能力の高低など分からない。ある程度の戦闘能力があれば、成功と認めさせることができるであろう。

陛下が重視するのは分かりやすい結果だ。そういう意味では、魔石を埋め込む例の実験。確か、魔石を宿す獣が魔獣であるから、魔石を宿す人は魔人、であったか。魔人化の実験は、陛下の満足を得やすい。


ジャームル王国の侵攻に手こずっているのは、ジャームル王国の巧みな戦術と均衡する戦力のせいだ。圧倒的ではなくても、戦闘能力で勝る召喚した人間を用いて戦果を上げれば、陛下もお許しになるであろう。魔法陣の更なる解読は、それから行うしかないか。


「ベズル」

「はい、ドーン様」

「戻り次第、召喚魔法を発動するぞ」

「お、お言葉ですがドーン様。まだあれは・・・」

「とにかく目に見える成果が必要なのだ! 召喚された人間の戦闘能力が、書物にあるレベルではなくとも、戦えるレベルであればよい。急がねば、我々は殺されるぞ!」

「そ、そうですね。分かりました。術者に召集をかけます」

「ああ、頼む」


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