第178話:捜索

一度、馬車列の元へ戻り状況の報告と確認を行った。騎士団の一部はまだ村に残り、生き残った村人がいないかを捜索している。


オークの群れに連れ去られたと推測される村人の捜索を行うことについて意見は一致した。レーノは最初、サイル伯爵領の領都に向かい、サイル伯爵に協力する形を考えていたが、オークに連れ去られた村人たちに残された時間がないことを考慮し同意した。


騎士の中にはゼット村のような町から離れた村出身の者もおり、村人に極めて同情的だったこともあって、気合いを入れて準備をしている。私は、無作為に人助けをしようとは思わない。けれど、私たちの他に助けられる人がおらず、私たちに危険があまりないのであれば、できる限りのことはしようと思う。

とりあえず、村にあった死体の中にポーラよりも小さい子どもの死体があったことで、今回は腹が決まった。


とはいえ、預かっているフォブスとノリスをわざわざ危険な場所へ連れていくわけにもいかない。いや、本人たちは武器を準備して行く気満々だったけどね。

そのため、現在待機しているゼット村近くの丘の上に、簡易の拠点を設け、そこで待機してもらう。私たちが捜索を行うとはいえ、サイル伯爵領に属する村で起こった事件なわけで、報告する必要もある。報告のために騎士を送り、向こうから使者なのか騎士団なのかが到着した際の出迎え場所としても捜索拠点は必要だった。ここからサイル伯爵領の領都までは早馬で半日、通常の速度でも1日足らずで着く距離である。私たちが捜索から戻ったら、到着している可能性もあるくらいだ。





準備を整え、捜索を開始した。目指すはゼット村の北側に広がるゼールの森だ。

メンバーは私とマーカス、騎士団の第3中隊。もっとも機動力を考えて、騎士ゴーレムは馬に乗せることができた10体だけ。それからシャロンだ。


シャロンはポーラの従魔だし、基本的にポーラと行動を共にしている。しかし今回は森の中でオークの住処を探す必要がある。それも可及的速やかにだ。そうすると、シャロンの嗅覚はとても役に立つ。シャロンが森の中で、臭いを辿って魔獣を探している光景は何度も見たことがあり、村にあったオークの死体の臭いを参考に、オークを探してもらおうと考えたわけだ。


今回ポーラは、村近くの丘に設けた仮拠点に待機する。なので、ポーラからシャロンに説明してもらって、私たちに同行してもらった。まあ、シャロンは主であるポーラと同じように、私やカイトのことも信頼してくれているので、ポーラが拒否しない限り、私のお願いは聞いてくれるんだけどね。


そして反対に、ホムラは残してきた。というのも、基本的に森での戦闘にホムラは向かないのだ。ホムラの攻撃はブレス系の攻撃と、その大きな身体を生かして噛み付いたり爪で切り裂いたり。ブレス系の攻撃を放てば、捕らわれた村人もろとも消し去ってしまう。そして森の中では大きな身体は動きを阻害する。そんなわけで、カイトやポーラたちの護衛役として、待機になった。



 ♢ ♢ ♢



ゼールの森へたどり着き、馬から降りる。すれ違いでオークが出てくる可能性を考えて、少し離れた場所で待機させておく。マーラがいるので、何かに繋いでおかなくても逃げてしまう心配は無い。それに万が一オークに襲われたときは、カイトたちの所へ逃げるように指示しておいた。


シャロンを先頭に、騎士ゴーレムで囲うようにしつつ横へ広がりながら森へ入っていく。まあ警戒はしているのは、不意打ちだけだ。オークがそれなりに強力な魔物であるとしても、1対1であれば、クライスの大森林で日々戦い抜いているうちの騎士団の敵ではない。怖いのは出会い頭に攻撃されたり、気づかずに背後から襲われたりすることだ。



1時間ほど森を歩いた頃、シャロンが急にうなり声を上げながら、身体を震わし、姿勢を低くした。


「・・・シャロン? 近いの?」


私の問いかけに、シャロンは一度こちらを振り返ることで応じた。


「マーカス、近いよ」

「はい。全員、集まれ」


マーカスの指示で、騎士が集合する。私はシャロンを宥めつつ


「とりあえず、確認しないとね」

「そうですね。お前たち3人。慎重に偵察を」

「「はっ」」


マーカスに指示された3人の騎士は、シャロンが敵意を向けた方向へ進んでいく。騎士ゴーレムの隠密性はまだまだであり、先程までの捜索時はともかく、最終的な偵察には向かない。そのため、危険は増すが騎士だけで行くことになった。



20分ほどして、3人が戻ってきた。


「どうだ?」


マーカスの問いに、


「見つけました。ここから200メートルほど進んだ場所に、小さな岩山があり洞窟がありました。入り口付近には見張りと思しき3体のオーク。この洞窟がオークの住処で間違いないかと」


と答えた。


「そうか。よくやった」


騎士を休ませ、マーカスと相談する。


「どうする? 洞窟だと攻めにくいよね」

「はい。出入口が他にあるのか分かりませんし、村人がどこに捕らわれているのかも分かりません。無闇に突入すれば、村人に被害が出るかもしれませんし、オークが逃げるかもしれません」

「・・・・・・うーん。洞窟からおびき出す?」

「それしか無いと思いますが、オークの数によっては時間がかかりますね。それに、やはり不利になれば逃げられる可能性があります」

「そうだよねー・・・」


難しいな・・・。

洞窟に他の出口がある可能性があるし、オークを逃がせば別の村を襲う可能性もある。どれくらい村人が捕らわれているのか分からない中で、より多くの人が襲われる危険を冒すことは難しい。とはいえ、助けるチャンスがあるのに見過ごすのもなー・・・



少し悩んだ末、騎士が見つけた岩山の周辺を調べることにした。マーカスや冒険者経験のある騎士曰く、オークが自分でトンネルを掘ったり、非常用の脱出口を作ったりすることはないとのこと。つまり発見した入口以外の出入口があるとすれば、自然とできたものになる。であれば、岩山の近くにあるだろうとの判断だ。


そして騎士が散開し、オークに気づかれないように注意しながら周囲を調べた結果、洞窟の別の入り口と思われる穴を発見した。だがこちらには見張りがいなかった。というのも、オークが出入りするには少し狭いのだ。オークたちが気づいていないのか、自分たちが通れないのだから注意する必要がないと考えているのかは分からない。

だが、こちらにとっては都合がいい。


「それじゃあ、行くよ」

「「「はっ」」」


私の号令で、二手に分かれた。

私はシャロンと騎士ゴーレム5体を連れて、発見したもう1つの入り口へ向かう。私たちの役割は、陽動に合わせて洞窟内に入り、村人の有無を確認すること。そして救出することだ。

陽動はマーカスたちが行う。正面から堂々と、見張りのオークを始末し、中へ進む予定だ。



見張りのオークに気づかれないように慎重に回り込み、配置についた。

それから少しして、うちの騎士の掛け声とオークの悲鳴が聞こえてきた。そして続くように大きな足音や地響き、そしてオークの汚い呻き声が聞こえてきた。おそらく洞窟からオークが続々と現れ、マーカスたちと戦闘になっているのだろう。少し心配だが、マーカスが「任せろ」と言うのだから、信じるしかない。


私は騎士ゴーレムとシャロンに合図を出し、洞窟へ向かった。


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