第170話:執行

バイズ公爵領のラムスさんに確認したところ、ランダルの反乱に絡んで多くの犯罪奴隷が生じ、犯罪奴隷が送られている鉱山では人手が十分足りている状態らしい。いずれ数は減っていくので待つこともできるが、それまでただ飯を食わせ、見張りに人員を割くのもアホらしい。


速やかに処刑することに決まったのだがレーノが


「魔法武具など、砦には盗賊の目を引くものが多くあります。せめてもの見せしめに、公開処刑することを提案致します」


と言い出した。

公開処刑かぁー・・・。

公開処刑は、結構一般的らしい。特に盗賊や子どもの誘拐など市民を対象にした犯罪を行った者の処刑や、領主や騎士団に対して敵対行動を取った者の処刑は、町の広場などで行われることが多い。それは、領主がきちんと仕事をしていることをアピールする目的や見せしめ目的と同時に、被害に遭った人たちが少しでも気持ちを切り替えて前に進めるように、との考えによるものらしい。


今回の盗賊も、公開処刑を行っても不思議ではない、いや、むしろ行うべき事案らしい。それ故、レーノは公開処刑を提案してきたのだが・・・


「でもさ、どこでするの? 領都? 砦?」

「それは・・・」

「領主が仕事してるアピールには使えるかもだけど、たぶんそこは心配いらないと思うんだけどなー。それに、被害者もいないしさ。どちらかというと、領外の人に、『舐めんなよ?』って示したいんでしょ?」

「はい。ですので、砦でしょうか・・・」

「うーん、どうだろう。せっかく魔法武具とか試食とか、うちの商品を見に来てくれてるのに、処刑見せるの?」

「・・・確かに。しかし、クルセイル大公領にとって初の正式な処刑ですから・・・」


レーノの言いたいことは分かる。

奴隷商人はともかく、うちの領で起こった最初の犯罪で、最初の犯罪者だ。毅然とした対応で臨む姿勢を見せることは、これからの領運営にとって必要だろう。特に、今は意図的に外部の人に領を公開している。仲良くしてくれる人もいる反面、悪意を持って近寄ってくる人もいるだろう。いや、そういった連中の方が多いと思う。だからこそ、公開処刑を行うべきとの主張も分かる。


しかし、砦を訪れている貴族の使者や商人、冒険者にそれを見せることに、どれほどの効果があるかは分からない。冒険者たちへの警告にはなると思うが、別に公開処刑である必要は感じない。


「マーカス。ギルドに対して、『元冒険者である盗賊2人を処刑した』って通達を出すのはどう?」

「・・・なるほど。ギルドに知らせれば、冒険者の知るところになります。騎士ゴーレムや騎士を見てその力を測ることのできる中堅以上の冒険者には、うちの領、砦の危険性が伝わっているとは思いますが、それに加えて領主はきちんと処罰を行うとの姿勢を示せれば、バカなことをする冒険者は減ると思います」

「よし。レーノは?」

「父に同感です。見せしめとして最も必要なのは冒険者への警告です。ギルドに通達を出すことでそれは果たされると思います。冒険者の多くは、砦ができたことで補給する場所ができたことを喜んでいました。今後、冒険者が暴れることによって砦に入ることを拒まれることを恐れているようでしたので、警告には十分かと思います」

「オッケー。じゃあ、そうしよう。ついでに、ソメインさんからお願いされていた、ギルドの支部の話。あれへの同意と建物の提供を合わせて伝えれば、ギルドとの関係も良くなるし、冒険者にも印象良くなるんじゃない?」

「名案です」


マーカス、レーノが同意してくれたので、それでいこう。

正直に言えば、公開処刑が好みではないだけだ。この世界における公開処刑の意義は理解しているし、否定する気は無い。それこそ、領民が害された場合であれば、公開処刑を行うのに躊躇いはない。しかし今回は、公開処刑が必要だとは思えない。



翌日、来客対応を終了した後の砦で、盗賊2人の処刑を行うことにした。

処刑の方法はいろいろあるらしいが、シンプルに斬首でいいだろう。

騎士たちに意見を求めたところ、「無装備で森の奥に放り込んだらいい」との意見もあったが、いたぶる気は無いし、森に放てば逃げられる可能性も否定できない。それは困る。

他にも魔獣のエサにするなど案を却下すると、シンプルに斬首と石打ちが残った。被害者が多い事案では石打ち刑、つまり拘束した上で複数人から石を投げられ殺す方法が選ばれるらしいが、今回は相応しくない。


そんなわけで、斬首により処刑する。

処刑には、私も立ち会うことになる。別に任せてもいいのだが、けじめとして立ち会うことにした。

他にはマーカスにレーノ、レーベル、騎士団の面々がいる。カイトたちには見せる気は無いので、子どもたちは領都に残っている。


処刑手続を進行する文官長のレーノが、


「クルセイル大公領の財産である武具を盗む目的で砦に侵入し、クルセイル大公領騎士団ひいてはクルセイル大公に敵対行動を取った罪で、リットル、タイアートの両名を、斬首刑に処する」


と読み上げた。

個人的には若い冒険者2人を巻き込んだことも十分罪だとは思うが、一般的ではないらしいし、今回はそれに関わらず一発アウトだ。

盗賊の2人。リットル、タイアートへの刑の言い渡しは先ほど済ませてあり、今は騒がしいので猿ぐつわを噛ませてある。

レーノの声を聞いて、2人はバタバタ動いているが、騎士ゴーレム2体に押さえつけられている。


マーカスが合図を出し、担当する騎士2人が前に出る。騎士ゴーレムが正座しているリットル、タイアートの身体を押して前屈みにさせる。


マーカスがこちらを見たのを確認してから、


「始めなさい」


と私が指示を出す。最後のゴーサインは私が出す形にしてある。


私の指示を受け、騎士2人が剣を振り上げる。

人の首を剣で切り落とすのは結構難しいと聞いたことがある。盗賊2人は、落ちこぼれとはいえ冒険者だった男たちで、首もそれなりにごつい。しかし、これまでの経験から魔法武具であり、切れ味を増す効果のある剣であれば、余裕でいけるというのが騎士たちの見解だった。


もはや私たちの関心は、魔法武具の剣で首が落とせるのかに移っている。

盗賊2人が暴れようとしている中、騎士がそれぞれ、盗賊の横に立つ。

そして剣を振り上げる。それと同時に、剣に魔力を込めたのを確認できた。

振り上げられた剣は、盗賊の首めがけて振り下ろされた。



騎士たちの見立て通り、魔法武具の剣の切れ味は凄まじかった。

『精神耐性』に加えて、何度もぐちゃぐちゃになった魔獣を見てきたおかげか、気持ち悪くなることもなく、処刑の立ち会いが終わった。そういえば、ラシアール王国が前に森に侵攻してきたときや、ドランドたちを助けたときの奴隷商人の護衛、それにこの前のどっかの貴族の使者と、人間の死体もそれなりに見てきたか・・・


「お疲れ様です、コトハ様」

「うん、お疲れ。みんなもね」


レーベルに答えつつ、集まっていた騎士たちもねぎらっておく。

マーカスは遺体の処理を指示している。首が落ちた2体を、悲しそうに見ていたマーカスだったが、僅かな沈黙の後、部下へ指示を出していた。

今回は処刑の証拠を残す必要は無いので、焼いた後で森の中に埋めることになる。


最後に、明日ガッドへ向かい、冒険者ギルドに通達を出したうえで、ソメインさんと砦にギルド支部を作ることについて相談する予定のレーノと種々の確認を行い、私は領都へ帰った。


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