第157話:騎士団の戦い

騎士たちはフォレストタイガーに気づかれないように注意しながら、ゆっくり距離を詰めていく。参加しているのは2個小隊全員。私たちの護衛は、私とカイト、ポーラが自分で身を守り、フォブスたちも守るので不要とし、アーロンの指揮下で全員にフォレストタイガーとの戦いに参加するように命じた。


フォレストタイガー相手でも、戦術は変わらない。盾を構えた騎士ゴーレムが、フォレストタイガーを押さえ込み、騎士たちが隙間から剣や槍を突き刺す。そのため、先にフォレストタイガーに気づき、大きく展開して囲い込むことができたのは良かった。



騎士団が配置に付いたことを確認し、アーロンが開始の合図を出した。


「かかれ!」


騎士ゴーレムが先行し、それぞれのフォレストタイガーの身体を押さえ込みにかかる。各小隊騎士ゴーレムは5体が盾を装備し、フォレストタイガーの身体を押さえ込む。残りの5体が盾で押さえ込みにかかっている騎士ゴーレムの身体を後ろから支え、フォレストタイガーの反撃に耐えようとしている。


1頭のフォレストタイガーは、上手いこと押さえ込みに成功した。

既にフォレストタイガーの動きは封じられ、騎士ゴーレムが体重をかけて、完全に拘束している。


もう1頭は苦戦中。最初に押さえ込みに入った騎士ゴーレムが、体当たりで弾き飛ばされた。そのためフォレストタイガーを囲おうとしていた円形陣からフォレストタイガーが出てしまった。

フォレストタイガーはそのまま包囲から抜け出し、騎士ゴーレム2体の横に回ると、石弾のようなもの生み出して、2体のゴーレムの身体を粉砕した。フォレストタイガーがよく使う魔法攻撃だ。


「まずい・・・・・・。第1小隊、直ちに押さえ込んだフォレストタイガーを始末しろ! 第10小隊の援護に回るぞ!」


フォレストタイガーは後ろで待機していた騎士に向かい、走り出す。

騎士たちは剣や槍を構え、フォレストタイガーの接近に備える。


騎士たちの中には、初歩的な『身体強化』を身に付けた者もいる。

そうした騎士たちが前に出て、フォレストタイガーの突進を躱し、すれ違うようにしながら剣でフォレストタイガーを切りつけた。


「クソッ! 剣の入りが浅い・・・」


剣で攻撃した騎士の1人が苦々しげに怒鳴る。

騎士たちとすれ違ったフォレストタイガーは、騎士たちの背後を取った・・・


騎士たちは振り向き、フォレストタイガーに向き直るが、その僅かな時間を見逃さず、フォレストタイガーが魔法を放った。







「コ、コトハ様・・・・・・」

「ごめん。さすがに我慢できなかった」


フォレストタイガーが魔法を放つのと同時に、私が『土魔法』で壁を作り、フォレストタイガーの魔法攻撃を防いだ。

それと同時にカイトが飛び出し、フォレストタイガーの喉元を剣で切り裂き絶命させた。


「・・・いえ、ありがとうございます。コトハ様の魔法がなければ、前にいた騎士数名はフォレストタイガーの魔法に被弾していたかと。近距離でしたし、命の危険もありました・・・」

「そうね。やっぱ最初に押さえ込めなかったのが敗因かな?」

「はい。それが一番のミスです。加えて、陣形が崩れた後のリカバリーも悪かったです。戦闘不能になった騎士ゴーレムはともかく、直ちにそれ以外の騎士ゴーレムと騎士隊単位で集まり、敵の攻撃を防ぐ必要がありましたが、簡単に分断されてしまいました。スムーズに処理できた第1小隊と、まだまだ連携が甘い第10小隊の差が如実に表れた結果かと・・・」



アーロンたちは、周囲の警戒をしながら、今回の戦いの復習を行っている。

私たちは、カイトとフォブスが狩ったフォレストタイガーの解体をするのを見ながら、仮拠点の様子を確認する。

今日はリンを連れてきていないし、魔石だけ回収して、残りは燃やしてしまおう。


さっきの戦いで、第10小隊所属の騎士ゴーレム2体が破壊された。身体を完全に粉砕されており、修復は困難だった。頭部の魔石だけ回収し、残りはそのまま放置する。まあ、身体は土だしね。


今回はゴーレムだったから良かったものの、あの魔法を騎士が喰らっていれば、箇所によっては大惨事になっていた。そう考えると、やはりフォレストタイガーは強敵だ。

私がフォレストタイガーの魔法を簡単に防ぎ、カイトが簡単に始末していたので、フォブスたちにはどう見えていたか少し気になったのだが、


「コトハさんが介入しなければ、前にいた2人の騎士は危なかったと思います。それに、カイトの本気のスピード、攻撃は初めて見ましたけど、凄すぎますね・・・」


と冷静に分析していた。

さすがは、アーマスさんの孫で、ミシェルさんとラムスさんの息子だね。正確に強さや戦況を読み取り、評価している。

ただ、カイトは本気ではなかったけどね。『身体強化』のみで、『人龍化』は使ってなかったし。


キアラは私が使った魔法に興味があるようで、


「コトハさん。さっきの魔法は難しい魔法ですか?」


と聞いてきた。

この世界の魔法使いの役割は、基本的に後方から攻撃魔法を放つ固定砲台。特に魔法師団など、魔法使いが多い場合はその傾向が高まる。一方で、冒険者パーティなど、魔法使いが少数の場合は、動き回りながら敵を攪乱、誘導するなどの役割が求められる。敵の攻撃を魔法使いが防げれば、残りのメンバーは防御に労力を割かずに、攻撃に転じることができる。


「簡単だよ。『土魔法』で壁を作っただけだし」

「え? それだけ・・・ですか? かなり頑丈そうでしたけど・・・」

「それだけだよ。ただ、結構魔力を使って、頑丈にはしてある。あとは、発動のスピードを上げないと意味が無い。敵の攻撃に間に合わないと役に立たないし、早く作りすぎたら避けられちゃうから」

「・・・・・・なるほど」

「カイトとフォブスのスタイルからして、危ないときに、キアラが2人と自分を守れるようになることは必要だし有用だと思うから、練習してみたら? 強度が足りてるかは、みんなに攻撃してもらえば確認できるしね」

「はい!」





その後は、仮拠点を中心に、フォブスたちはそれぞれ森の中を見ていた。近寄ってきたファングラヴィットを狩ってみたり、色んな木の実や薬草を調べたりしていた。


キアラは先ほどの私の魔法を参考にしながら、防御壁を作る練習をしていた。キアラは『水魔法』と『風魔法』は元からレベル3で身に付いていたが、『土魔法』はなかった。

私の魔法を見ながら、何度か試すことで身に付けることができたようだが、発動するスピード、防御に必要な強度はまだまだだった。

一応『水魔法』の1つとして、氷を用いて氷壁を作ることもできるが、土壁には強度で負けるし、周囲の気温によっては長く維持できないので、土壁を作れるようになるのがいいだろう。



そうしていると、反省会を終えたアーロンたちが戻ってきた。彼らは周囲を警戒しながらも、先ほどの戦いを振り返り、分析をしていたのだ。


「お疲れ様。反省会は終わり?」

「はい、コトハ様。本来は我々が周囲の警戒をすべきところ、お手伝いいただき申し訳ありません」

「大丈夫だよ。私も索敵の練習中だし、ここなら不意打ちの危険はあんま無いしね。それに、振り返りは直ぐやった方がいいでしょ」

「はい。第1小隊とは違い、第10小隊には驕りがありました。ファングラヴィットは問題なく倒せるようになったことで、少しフォレストタイガーを舐めていたようです。両隊に能力差があることは分かっていましたが、ここまでとは思いませんでした・・・」

「そうだねー。素人目にも、フォレストタイガーを押さえ込めた第1小隊と、フォレストタイガーに躱されて、その後もバラバラになった第10小隊とでは、動きが違ったかなー」

「はい。今日の経験を踏まえて、訓練をやり直します。またマーカス騎士団長と相談し、訓練内容を見直そうと思います」

「うん。私が手を出したこととか、ゴーレムがやられたことは気にしなくていいから、改善策を前向きにね」

「承知致しました」


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