第154話:新たなゴーレム

そういうわけで早速ゴーレムを作ってみることにした。

材料は、ドランドの作った魔鋼製の芯、命令式を書き込んだ魔石に魔力を溜めた魔石だ。


魔石に書き込む命令式は、最初に作ったときのカイトとポーラの動きを見ながら書き込んだものではなく、マーカスら騎士団が厳選した動きを書き込んだ騎士ゴーレム専用のもの。他にも農業用ゴーレム専用、運搬用ゴーレム専用なんかを分けることで、より効率的に書き込みを行えるようにしている。



「それじゃあ、ドランド。始めるよ」

「おうよ! とりあえず5体ほど作ってみるか」

「そうね。材料の用意をお願い」

「任せろ!」


ドランドが用意した芯を人型に置き、カプセル状の球体の中に、2つの魔石を設置する。魔石の形は物によって異なるが、ドランドが突起のようなものをいくつか作っていたので、形に合わせてはめ込んでいく。


後はいつも通り、ゴーレムの身体を『土魔法』で作るだけ。いつもとは違って、芯に肉付けしていく感じだ。いつもは最初からゴーレムの身体をイメージして生み出していたので、肉付けするという作業に少し戸惑ったが、イメージのコツを掴めば割と簡単だった。


そうして5体分の身体を作ったら、『ゴーレム生成の魔法陣』を発動させて、ゴーレムの完成だ! ・・・・・・といきたかったのだが、少し違和感があった。

これまで作ったゴーレムの数は数百体、騎士ゴーレムでも100体は超えている。そんな騎士ゴーレム作成の最終段階の魔法陣を使った感覚がいつもとは違った。

これは多分・・・・・・


「魔力が少なかった・・・?」

「どうした? 嬢ちゃん」

「うーんとねー、ハッキリとは分かんないんだけど、いつもより必要な魔力が少なかった気がするんだよね・・・」

「魔力が、か? 魔法陣が失敗したわけでは・・・・・・」


ドランドが最後まで言い終わる前に、1体目のゴーレムが起き上がった。


「・・・なさそうだな。とりあえず、残りも試してみたらどうだ?」

「そうだね。気のせいって可能性もあるし、とりあえずやってみようかな」


そうは言ったが、気のせいだとは思えない。私は今、離れた場所に魔法を発動させることができないかや、広い範囲の魔力を感じ取り魔獣や敵の接近を感知することができないかなど、日々魔力に関する実験と訓練を行っている。それに飛行訓練もだ。そのため、特に自分の魔力の流れにはかなり敏感になっており、あそこまで魔力の消費量が違うのであれば、気のせいだとは思えない。



魔鋼製の芯を持ち、頭部には魔鋼製の魔石用カプセルを備えた騎士ゴーレムが5体完成した。違和感については思った通り。確実に消費された魔力が少なかった。


「ドランド。間違いないよ。消費した魔力が少ない。いつもの7割くらいかな・・・」

「そうか・・・。まあ理由は今回新たに導入した魔鋼の部品だろうが、原理は分からんな。とりあえず、このゴーレムたちが本当に完成しているかを試すとするか」

「そうね。何らかの不具合があって、いつもより魔力が少ない段階で強制的に魔法陣が終了した可能性もあるし・・・」



私とドランドは、ゴーレム5体を伴って、騎士団の訓練場へ向かった。

訓練場では新人騎士たちが、騎士1人とゴーレム2体からなる騎士隊、騎士5人とゴーレム10体からなる小隊、の各単位での戦闘訓練を行っていた。

現在のクルセイル大公領騎士団は、2つの中隊で構成されている。騎士団長マーカスに、第1中隊長ジョナス、第2中隊長アーロンの下、各中隊には10の小隊が所属している。騎士ゴーレム含めて総勢300人規模だ。


だが今回新たに多くの騎士を採用したことで、騎士団の再編、もしくは騎士団とは別の指揮系統に属する、領都内の警備や各門の警備を担当する領都警備隊、森での行動範囲を広げるべく調査をメインに行う調査隊、私たち大公家の人間の警護を専門とする警護部隊の創設を検討していると、マーカスから説明を受けていた。

私は基本的に、騎士団の編成も運用もマーカスたちに任せているので、報告を受けるだけだが、ダーバルド帝国の脅威が現実味を帯びてくる以上、騎士団の整備を怠ることはできなかった。


新人騎士たちは、うちの領の騎士団では基本となるゴーレムとの連携を訓練している段階だ。どこに配属されても、どのように部隊が再編されても大丈夫なように、基本的な騎士隊及び小隊単位での訓練を行っていた。



「訓練止め! 大公殿下に、敬礼!」


私たちが近づくと、真っ先に気づいたアーロンが号令を発し、訓練を行っていた新人騎士及びゴーレムが一斉に私に向かって敬礼をした。

何度されても慣れないものだが、騎士にとって忠誠を誓う相手を明確にし、その相手に最大限の礼を尽くすことは最も重要なことだと説明されているので私も立ち止まり、みんなを見回してから、


「ご苦労様。訓練に戻りなさい」


と大仰に発する。食事の際や休憩時間は打ち解けていても、こういう場では上位者としての振る舞いをしてほしいと、マーカスやレーノ、レーベルに頼まれているのでそれを実行しておく。


騎士たちは、


「「「「「はっ!」」」」」


と一斉に応じ、再び訓練に戻った。

これが必要なことだとは理解しているが、やはり慣れない。生まれながらの王族や貴族とは違い、普通の庶民だった前世の記憶がある私にとっては、大勢に傅かれるのはどうしても慣れない。



そんな少し居心地の悪い感じをスルーしながら、訓練を見守っていたマーカスのところへ向かった。


「マーカス、今大丈夫?」

「これはコトハ様。もちろんでございます。ドランドと一緒なことから察するに、魔法武具かゴーレムについてでしょうか?」

「正解。ゴーレムについてよ。新しいゴーレムを作ってみたから、うちの騎士団に必要な能力をちゃんと備えているか試してほしいの」

「承知致しました。お前たち、一緒に来い!」


マーカスは私の頼みに応じると、近くにいた既に配属済みの騎士を数名呼びつけた。

にしてもマーカスの、仕事のときの畏まった感じと、ご飯時なんかの打ち解けた感じのギャップが凄いな。


マーカスや騎士が試した結果、これまでの騎士ゴーレムと同様の能力を備えていた。いや、魔石に書き込まれた動きをこなすことができた。新しく作ったゴーレムの動きは、これまでの騎士ゴーレムの動きより洗練されており、攻撃の威力や防御力は高かった。


「要するに、これまでの騎士ゴーレムの完全上位互換か・・・」

「そうですね。必要な動きは備えており、それぞれの動きの質はこれまで以上。個々のゴーレムでは違いは大きくありませんが、騎士団に所属する全てのゴーレムがこうなれば、戦力は1.5倍から2倍と言っても差し支えないかと。このゴーレムは量産できるのですか?」

「・・・・・・どうだろ。魔法陣に必要な魔力は少ないし、材料もほとんど同じだけど・・・」

「魔鋼製の芯は、それほど量産はできないな。素材はあるが、鍛えられる量には限度がある。武具とかも作るとなると、難しいな・・・」

「やっぱり・・・」

「そうですか・・・」


量産できればそれに越したことはないのだけど、単純に時間と人手が足りない。うちの領で魔鋼製の芯を作れるのはドランドだけだ。というか質のいい魔鋼を作れるのがドランドだけ。



「量産が難しいのでしたら、別の用途に用いるべきかと」


私が少し残念に思っていると、マーカスがそんなことを提案してきた。


「マーカス、詳しく」

「はい。先にも申しましたように、騎士が増えたことで騎士団の再編を検討しています。そこで、例えばこれまでの騎士ゴーレムは今まで通り通常戦力として。この新しいゴーレムは、大公家の方々を警護する部隊専用にするのが良いかと思います」

「なるほど。最も重要な部署に、一番能力が高いのを置くわけだな」

「はい。正直に申し上げると、従来の騎士ゴーレムでもその強さはかなりのものでした。『人間』の騎士と組ませることを考えると、これ以上ゴーレムの能力が向上しても、騎士隊や小隊、騎士団単位での戦力向上に、直結するわけではありません。しかし、能力の高いゴーレムを死蔵するのは勿体ないですし、『人間』の騎士を排して騎士ゴーレムだけを働かせるわけにも参りません。であるならば、この騎士ゴーレムが活躍できる専門の部隊を創設すれば良いかと。そこに騎士の中でも特に秀でた者を加えて、大公家の警護部隊と致します」



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