第152話:ハイエルフ
その後もキアラに魔法の発動を試みてもらい、魔力の流れを観察したが、「流れていない」以上のことは分からなかった。
偉そうにキアラに提案しておきながら、全く分からないことに申し訳なく思いながら、どうしようかと考えていたとき、レーベルに声を掛けられた。
「コトハ様。少しよろしいでしょうか?」
「レーベル? どうしたの?」
「キアラ様についてです」
「・・・え?」
いきなり名前が出たことにキアラが驚いているが、私としてはレーベルが何か気づいてくれたのならありがたい。
「何か気づいたなら教えて! 正直、魔力が詰まってるような気がするだけで、それ以上分かんないのよ・・・」
「魔力が詰まっていることに気づかれただけでも素晴らしいかと思います。通常は起こり得ない事象ですので。キアラ様の症状は、魔力の循環路が細いことによる循環不良かと思われます。ハイエルフやエルダードワーフの子どもに多い症状ですね。変換される魔力は膨大である一方で、循環路は幼い身体に合わせて細い。その結果、膨大な魔力が詰まってしまう症状です」
「・・・・・・え?」
「ハイ、エルフ?」
キアラってハイエルフなの!? 仮説 —割と確信していたけど— が正しかったことなんてどうでもいいようなことをレーベルがさらりと言うもんだから、一瞬時が止まってしまった。
そういえばキアラには『鑑定』をしていない。いや、別にフォブスにもノリスにも、新人の騎士にもしていない。基本的に人型種に対して『鑑定』を使うことはなるべく控えているから。相手の名前や能力、スキルなんかを一方的に見ることは、あまりいいことではないだろうし、称号も見ても、その人の性格や本質が分かるわけではないので、“地雷”を排除することには繋がらないのだ。
それに、種族によっては『鑑定』されたことまでは分からないものの、「何かされた」ことには気づく者もいるらしいからね・・・
ただ今回はそうも言ってられないので、キアラに断って、『鑑定』をさせてもらった。
その結果は、・・・・・・レーベルの言うとおり、『ハイエルフ』だった。
「ハイ・・・・・・エルフ。・・・・・・私、ハイエルフなんですか?」
キアラは驚きのあまり固まっているが、仕方がない。
ハイエルフはエルフの上位種、というか進化した種族だと言われている。長い年月を生きるエルフの身体が魔素へ適応し、進化に至る。とはいえ、『人間』の倍以上の寿命がある『エルフ』であってもその寿命は100から200年。そんな期間で、飛躍的に適応度が増すことは基本的にはないので、進化できる者は稀だそうだ。
しかしキアラはまだ15歳。別にこれは『人間』でいうところの・・・という話ではなく、キアラが生まれてからまだ15年という話だった。
まだ15歳のキアラがハイエルフである理由、それは簡単だ。というかレーベル曰く、それ以外に考えられないらしい。つまり、キアラさんの両親がハイエルフだったのだろうとのこと。両親がハイエルフの場合や、片親がハイエルフの場合、生まれつきハイエルフである場合があるらしい。キアラの亡くなったご両親の両方、または一方がハイエルフであったと思われるのだが・・・
「聞いたことがないです。父も母も普通のエルフ・・・・・・、魔法が使えなかったのでエルフの落ちこぼれだって、言ってましたけど・・・」
キアラが戸惑いながら教えてくれたご両親の事情についてレーベルが、
「少なくともどちらかはハイエルフだったのでしょうね。失礼ながら、キアラ様は貴族の地位などはございますか?」
「貴族? 無いです無いです。両親は商人で、ダーバルド帝国の圧力を受けて国の情勢が悪くなったことで、戦争が起きる前に脱出したと言っていました・・・」
「・・・なるほど。ハイエルフで生まれた方が魔法を使えないことは、ある程度の地位にある者、はっきり言えばエルフの王国の王族や貴族であれば常識であったと思われます。それも既に過去の話ではありますが・・・」
「王族や貴族だと、ハイエルフで生まれる子が多かったの?」
「はい。エルフがハイエルフに進化した場合、その者は高い地位に取り立てられることが多かったようです。そうすると、王族や貴族の家系には多くのハイエルフが入ることになり、生まれた子がハイエルフである可能性も高かったのでしょう」
「・・・・・・なるほど。でもキアラのご両親は・・・」
「キアラ様が知らぬことをここで推測しても仕方がありませんが、『魔法が使えないエルフ』がハイエルフである可能性に思い至らなかったことを踏まえると、少なくともキアラ様のご両親やその周りにいた者は貴族等ではなかったのでしょうね」
どうしても推測やレーベルの知識便りな部分はあるが、それ以外には考えようがない。キアラのご両親の年齢から、進化したとは考えにくい。すると生まれつきハイエルフであって、その親もハイエルフだった可能性が高い。しかし、2人が魔法を使えない理由を伝えることができなかった。隠していたのか、伝える前に国を出たのか・・・
「それでレーベル。その循環不良ってのはどうやったら治るの?」
「はい。一度魔力を抜くのです」
「・・・・・・魔力を抜く?」
「はい。体内に保有している魔力を体外へ排出します。魔力が通る循環路を広げることを目指すのですが、そのためには現在キアラ様の体内に保有されている魔力は邪魔なのです」
「魔力が無くなったら循環路が広がるの?」
「いえ。魔力の循環路は、循環路の広さに比べて魔力量が多いときに、魔力が魔素へと還元し、循環路を広げていきます」
「・・・・・・今まさにその状態だよね?」
「はい。しかし、キアラ様の体内にある魔力は古いのです。キアラ様が体外へ放出している魔力は極少量であり、一方で変換される魔力の量はかなり多い。そのため、古い魔力がずっと体内に残った状態になります。古い魔力では、十分に魔素へ還元されず、循環路を広げることができません。ですので、一度魔力を抜いて、新たな魔力を作り出し、循環路を広げるために魔素へ還元されることを促すことが必要となります」
なんとなくだが、レーベルの説明は理解できた。魔力が古くなったらどうして循環路を広げることができないのかは分かんないけど、「新鮮か」みたいな話だろうか。循環路を作るためには新鮮な魔力、そして魔素が必要・・・・・・とか?
「でもさ、魔力を抜くってどうやって?」
「はい。それこそ王族や貴族に伝わっていた方法を用います。ハイエルフの子どもと魔力を連結させることができる者が、子どもの魔力を自分へ流し込み、放出致します」
「連結させるって?」
「魔力は人ごとに異なりますが、親子や近親者であれば魔力は似ています。そのため、特に意識せずとも魔力を同調させ、循環路を一時的に連結させることができます」
「・・・・・・要するに親じゃないと無理?」
「基本的には。しかしコトハ様であれば、他者の魔力へ同調させることは容易でございます」
それは、確かに。これまでもフォブスやノイスに魔法を教えたときに、私の魔力を流している。あれは、今のレーベルの説明によれば、「私が魔力を同調させ、循環路を連結させた」ということなんだろう。
「じゃあ、私がキアラと循環路を連結させて、キアラの魔力を放出させればいいのね?」
「左様でございます。コトハ様はキアラ様から魔力を引き抜くイメージで魔力を受け取り、体外へ放出していただければと」
「放出ってのは、魔法を使えばいいの?」
「それでも大丈夫ですが、オーラを解放されるのが最も簡単かと。オーラの放出は、魔力を体外へ意図的に大量に放出することですので、魔法を使うよりも放出効率は高いです」
「分かった」
「それから循環路の連結は身体接触、手を合わせることなどで行いやすくなりますが、キアラ様の症状に鑑みますと、接触する場所を増やし、連結箇所を増やすべきかと」
確かにね。手を合わせても、そこからしか私に魔力が流れてこない。連結している場所が多ければ、私へ流れる量も増えるだろう。
「それじゃあ、どうするのが一番?」
「そうですね・・・・・・。キアラ様を抱きしめるのが一番でしょうか」
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