閑話:ややこしい話
第3章と第4章の間に、「幕間:ガッドでの新生活」として、カイトやポーラの日々を描いたエピソードを投稿しています。是非ご覧ください。
時系列としては、第3章と第4章の間の数ヶ月間のお話になります。
現在「幕間⑫:悪党の処理とその後」(現時点では最終話です。)まで更新しています。
第4章の前に追加しているため、更新されたことが分かりにくくなっているようです。申し訳ありません。
確認していただけると嬉しいです。
〜以下本文〜
〜アーマス・フォン・バイズ視点〜
半年以上ぶりに我が領に帰ることができる。この半年間ははっきり言って地獄であった。
カーラルド王国の建国に際して、コトハ殿のクルセイル大公は問題ない。彼女については説得できた時点で、後は自由に森を開拓してもらうだけだ。ジャームル王国と接するカーラルド王国北側の地は、領地替え同意してくれて、辺境伯となったシャジバル家とフーバー家がそれぞれ治めるようになり、安定している。
その他の要所は、バール家、エズワルド家、シャルガム家、セームン家をそれぞれ侯爵家として再編し、統治させている。こちらも目立った問題は無い。
だが、それ以外の貴族の爵位の調整とそれぞれの領地の割り振りはとても骨の折れる作業であった。これまでの爵位バランスを不必要に崩さないように注意しつつ、ランダル討伐での戦果や内乱時の特筆すべき戦果を加味する必要があった。カール侯爵家が王家になり、バイズ辺境伯家が公爵家となったことで、貴族間の派閥バランスに変化が生じたため、その影響も考慮する必要があった。
あげくようやく貴族の整理が完了したかと思えば、いくつかの貴族に看過できない問題があることが判明した。通常時であればもう少し慎重に処理するだろう問題や、取り潰しまでは至らない程度の問題であっても、新国家の建国に際して名を連ねる貴族にそのような問題があるのは見過ごすことはできず、少々過激に処理することにした。
・・・・・・まあ中には、コトハ殿に真っ向から喧嘩を売っているとみなせる貴族もいたので、迷いは無かった。国を滅ぼす気かと柄にもなく声を上げてしまった。
♢ ♢ ♢
ガッドへ到着し屋敷へ入ると、ラムスにミシェル、フォブス、ノリスといった家族に加えて、グレイやオランドといった次世代の、ラムスと共にこの領を運営していく面々も出迎えてくれた。そして、カイト殿にポーラ殿と報告を受けていたキアラ殿もだ。
それぞれと軽く言葉を交わし、ラムスたちと一緒に執務室に入った。
「ラムス。私の代わりをよく務めてくれたな」
「いえ。・・・正直、いろいろあり過ぎました」
「そのようだな。盗賊や奴隷狩りについての処理に問題は無い。これまでに助けることができたのは?」
「30名ほどです。おそらくこれ以上は難しいかと」
「分かっている被害者の数は?」
「奴隷商人によれば100名を超えるそうです。一時期は種族を問わず手当たり次第に売り捌いていたようで・・・・・・」
「・・・・・・そうか。国の方でもそれぞれの領主に連絡はしてあるし、我が領でやるのはここまでだな。近くにいる人は助けられたであろう」
「はい」
我が領で起こっていた盗賊、奴隷狩りの騒ぎについては定期的に報告を受けていたが、ラムスの対応は上出来だといえる。端緒を掴んだ時点で、できる限りの調査を行っているし、金を使うところを間違ってもいない。それに長年の懸案であった奴隷を輸出している港を制圧し、ダーバルド帝国公認の奴隷商人を捕らえることにも成功した。盗賊も含めて聞き出せる情報はあらかた聞き出すことができたようなので、必要な手続を行い、順次処刑することになろう。
「父上が今回戻られたのは、王都での仕事が一段落ついたからだと伺いましたが?」
「ああ。貴族の整理も領地の整理も、ジャームル王国との和平も大体な。今後は建国式典やその付随式典の準備をする必要がある。各貴族の叙爵式も必要だしな。なので、私は少ししたらまた王都へ戻る。引き続き、領のことは頼むぞ」
「はい、父上」
領のことを憂いなく息子に任せることができるのはありがたいことだ。グレイもオランドも、それぞれ父親のボードとオリアスにきっちり鍛えられており、ラムスを十分に支えてくれる。
「そうだ、ラムス。1つ相談というか話すべきことがあったのだが・・・」
「なんでしょうか」
「うむ。フォブスにノリス、そしてカイト殿にポーラ殿のことだ・・・」
「4人がどうかなさいましたか?」
「端的に言えば、4人の結婚相手のことだな」
「・・・・・・はぁ。その話ですか・・・」
「ああ。お前が想像しているように、王都で私に4人の結婚相手についての問い合わせがひっきりなしにきていた。気持ちは分からんでもないが、正直鬱陶しいものだ・・・」
フォブスとノリスは次期バイズ公爵領領主の息子たちだ。娘のことはあまり知られていないし、まだ1歳ゆえに静かなものだ。だが、フォブスは13歳になった。貴族としては結婚相手が決まっていてもおかしくない年齢だ。ノリスはまだ8歳だが、次期公爵の次男であることに照らすと早くはない。
そして、カイト殿にポーラ殿。カーラルド王国最高位の貴族であり唯一の大公である、コトハ殿の弟妹だ。既に貴族籍は登録されているし、コトハ殿を紹介した6名の高位貴族を通じて下位の貴族にも、2人の存在は知られている。高位貴族にとって大公家との繋がりは、貴族間の勢力争いで一歩どころか、二歩三歩リードするカードになる。下位の貴族でも、当主の弟妹であれば可能性はある。一気に地位を高める手段として、考えることは理解できる。
「お言葉ですが父上。息子たちのことはともかく、カイトとポーラの結婚相手など、私たちが決めるものではないと思いますが?」
「無論だ。決定権は当主たるコトハ殿にある。というか、コトハ殿のことだから本人に任せるのであろうな・・・」
「ええ。少なくとも2人に政略結婚を指示することは無いでしょう」
「ああ。だからこそ、2人の結婚相手には警戒せねばならんのだ。ややこしい相手を選ばれたときのことを想定してな・・・」
そう、相手が誰であれ私たちに口を挟む権利はない。だが、仮に変な貴族と繋がりを持たれると、ややこしいことになるのだ。言い方は悪いが、平民と結婚してくれることが1番簡単なくらいだ。
「この半年で、その辺の事情に何か動きがなかったかを聞きたくてな・・・」
「そうですねー・・・。カイトはキアラ殿を助けて以後、フォブスを含めて3人で基本的に行動しています。3人の仲は良いようですが、その先に繋がるのかは・・・・・・」
「なるほど・・・。キアラ殿はエルフなわけだし、魔族に近いカイト殿とペアとしては問題ないのか。というか、フォブスは?」
「フォブスはカイトとキアラ殿のペアを推しているようですね。ですが、フォブスの目が信用できるかと言われると・・・」
「それは・・・、そうだな」
「ポーラは基本的にノリスと一緒にいますね。少し前にポーラが『ノリスと結婚する!』と言っていた時期はありましたが・・・」
「なんと!」
「ですが、ノリスに聞いた限りでは、貴族の結婚に関するあれこれを習った結果、考えるのが面倒くさくなった結果、ポーラが適当に言っていただけのようですから、どこまで間に受けていいものかは・・・。妻は喜んでいましたがね」
「うーむ。ポーラ殿とノリスが結婚するのは、我が家的には大歓迎なのだがな・・・」
「それは、まあ。そもそも、コトハ殿のお相手はどうなるのでしょうか?」
「正直、カイト殿たち以上に分からんし、触れにくいな。まあ、3人は我々よりも遥かに長命であろうし、後継のことだけなら気にする必要も無いのかもしれん」
「ですね。一応、継承権一位はカイトのようですが・・・」
「ああ。可能性としては、早々とカイト殿に爵位を譲り、コトハ殿は再び自由に生活することくらいだろうな。以前、旅をしたいと話してもおったし・・・」
こればっかりは、本人に聞くしかあるまいか・・・
国や我が家のことを考えれば、ノリスとポーラ殿が結ばれるのは喜ばしい。それにコトハ殿の婿に、近いものがなればこれ以上ないだろう。しかし、そんなことを強要・・・・・・、いや、頼んだ時点でこれまでの信頼関係は一瞬で失われると思う。
できることは、今の状態や今後予測される事態を説明して、考えてもらう程度か・・・・・・
くれぐれも、馬鹿な貴族が暴走しないことを願うばかりだな。
翌朝、コトハ殿にガッドへ来てもらえるよう頼む内容の手紙を届けてほしいとカイト殿に頼み、カイト殿の専属メイドのフェイ殿がクルセイル大公領へ向かってくれることになった。
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